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37:思い出すのは

「きゃああっ!」


 ひっくり返った花は、芝生の上に背中から転倒する。

 地面は柔らかだったが、これが石畳なら危なかった。


(痛い。何が起こったの?)


 目を開けた前を見ると、そこには先ほど別れたはずの絢斗が虚ろな目をして立っていた。


「絢斗さん!」


 しかし、彼からの返事はない。

 その場にぼうっと佇む絢斗は、花の声など聞こえていないかのようだった。

 大通りにいた護衛や通行人のような雰囲気で、花に迫ろうとしている。


(どうしよう、抑制剤の効果が切れてしまったの? 私の薬も、まだ完全に効いていないみたい)


 症状は多少楽になったが、フェロモンが抑え切れていないのだろう。

 目の前の絢斗は見るからに理性を失っている。


「絢斗さん、正気に戻ってください」


 予想していたが、やはり、絢斗は花の呼びかけに反応しない。


「元に戻ってくだ……えっ?」


 不意に絢斗が手をかざした瞬間、花の体が硬直した。息はできるものの、指一本動かせない。


(声も、出にくくなっているわ)


 絢斗は「金縛り」の妖術を使うことが可能だ。

 きっと、花に向けてそれを実行したに違いない。


(抵抗できない)


 ゆっくりと場所を移動した絢斗は、倒れた花の両脇に膝をつき覆い被さってくる。

 彼の吐息が首筋に当たり、花はぎゅっと目をつむった。

 このままでは、お互いに傷つく結果にしかならない。


(い、嫌!)


 以前も花は滞在中の屋敷で、同じようにフェロモンに当てられた凪から、迫られたことがあった。


(でも、あのときとは、違う)


 凪に襲われた際は、驚いたけれど嫌だとは感じなかった。

 それは彼が運命の番だからなのだろうか。

 絢斗は迫り来る危険から花を守ってくれた優しい友人だけれど、どうしてか凪と同じ風には思えない。


「絢斗、さん、放して、ください……お願い……」


 声を絞り出すようにして訴えるが、絢斗に変化は見られなかった。

 一日に二度も押し倒されるなんて、本当に厄介ごとしか起こさない自分が情けなくなる。


「誰か……助……凪、さん……」


 わかっている。呼んだところで、仕事中の彼は来ない。

 それでも、花の頭に浮かんだのは、契約上の夫である凪だけだった。

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