表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/58

34:久しぶりの外出

 花が龍王家の嫁として過ごしていたある日、早めに仕事から帰ってきた凪が部屋に来て花に言った。


「花、お前もいつも家にいるときが滅入るだろう。たまには気晴らしに外出するといい」


 たしかに、ここでの生活は制限が多い。

 自身の身の安全と、凪たちに迷惑をかけないため、一人で自由に出歩くことができないのだ。

 かといって、出歩いて何かしたいかと言われれば、花は何も思いつかない。

 必要なものはなんでも用意してもらえるし、屋敷の庭は広い。


 もともと口数が多い方ではない花は、静香や凪、たまに絢斗とお喋りできれば、それで満足だ。

 実家にいた頃とは違って、普通の返事や普通の反応が返ってくるだけで嬉しくなる。

 ここには、花を傷つける人間はいない。

 いつまで続くともわからない、この穏やかな日々を花は愛していた。


 凪が来たとあって世話係の使用人たちがまたキャーキャー騒いでいる。

 そのうち一人が輪の中から歩み出て凪に近寄ってきた。


「おかえりなさいませ、凪様ぁ~」


 いつにない甘えたような声を気にすることなく、凪は冷静に彼女に花の近況を聞く。


「はい、花様は本日、マナーのお勉強をされておりました。食事の基礎についての復習が済みました」

「体調面も問題ないか?」

「ええ。そろそろ花様がヒートに入られる周期ですから、お薬の用意もしてあります」


 使用人はすらすらと花の近況を報告する。彼女たちは仕事ができるのだ。

 凪は花と使用人を交互に見て何か考え込んだあと、「問題がないのならいい」と言って、花を夕食へ呼び出す。


 花は使用人たちの視線を感じつつ、凪に続いて部屋をあとにした。


 ※


 翌日、花は凪から提案されたとおり、十分な警備のもとで外出することになった。

 凪はいつも通り仕事があるので、花と使用人代表、二人だけでの外出だ。

 静香もいないため少し緊張してしまう。


 行き先は特に聞かれず、着いた先は近隣のファッションビルが並ぶ大通りだった。

 以前、凪と来た店もこの近くにある。

 花は買い物よりも、ゆっくり公園を散策したり、行ったことのない場所を見てみたりしたかったが、我が儘を言ってはいけない。

 こうして気晴らしを提案してもらえただけで十分だ。


 同行していた使用人にも買い物の許可が下りているらしく、彼女は嬉しそうにはしゃいでいる。

 そんな使用人の様子を眺めながら、花は今日は彼女の買い物を優先しようと思った。

 どういうわけか、街を歩いていると以前よりも注目されている気がする。


(護衛の人たちが、ものものしいからかしら?)


 周りの人を怖がらせないよう、彼らは一応スーツ姿なのだが、あふれ出る強者のオーラは隠しきれていないようだ。


(でも……)


 彼らと言うよりは花自身が注目を浴びている。


(なんで……? 今日は凪さんもいないのに)

 

 花は唯々困惑した。

 身ぎれいになった自分自身が、人目を引く容姿をしていることに、花だけが気づいていなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ