31:結婚式3
可愛らしいリボン付きの、ピンクのドレスを身に纏った茜は上機嫌だった。
この日のために父が奮発して用意してくれた高級ブランドのドレスは、龍王グループの大勢の関係者と比べても遜色のない一品だ。
無茶して着飾った花嫁の花なんかより、自分のほうがずっと可愛いと茜は思っていた。
本人に会うまでは。
(なんなのよ、アレは)
周りから祝われる花を目にした茜は、イライラしながら自分を落ち着かせようと、ドレスの裾をぎゅっと握る。
花の花嫁衣装は、一目見ただけで茜のドレスより格段に豪華とわかる品で、花の清楚さがより際立っていた。
会場にいる人々も花に目を奪われている。
(許せない。古着がお似合いの地味女のくせに……調子に乗っちゃって)
しかも、披露宴では凪ともう一人、知らないイケメンに挟まれている。
彼もまた身なりの整った、いかにもな上流階級の人間に見えた。
花なんかには相応しくない相手だ。
(私のほうが可愛くなければいけないのに! ちやほやされるべきはこっちなのに!)
そっと横を向くと、家族も同じ思いで花を眺めているようだった。
気に食わない、気に食わない、気に食わない。何もかも潰してやりたい。
(見ていなさい。調子に乗っていられるのも今のうちよ)
茜は花に恥をかかせ孤立させようと動き出した。今までずっとやってきたように。
ありもしない噂話をでっち上げるのなんて簡単だ。周りはいつも茜の言葉を信じるのだから。
試しに近くの男へ近づき、花がいかに下品な女なのかを彼に吹き込んだ。男は黙って茜の話を聞いている。
(ふふっ、花、あんたをどん底に落としてやるわ!)
それから次々に花の悪口を各方面へばらまいた。
気づけば、まるで思いが伝わったかのように家族も茜と同じ行動を取っている。
(さすが、私の家族。よく気が利くわね)
花を貶めることに関しては、茜の家族は徹底している。引き続き茜も気分よく花の悪口を各方面に拡散した。
(そうだわ、もっと花に近づいてみましょう)
聞こえる場所で花の悪口をばらまき、調子に乗ったΩに本来の立場をわからせてやる。
最も身近な仲間、家族の存在が花の心を後押しした。
「ですからぁ、あの淫乱女はぁ、誰とでも寝るから病気を持っているんですよぉ! 凪様が心配ですぅ……!」
茜による花の悪口はエスカレートしていく。
楽しい。言葉が止まらない。
正しいかどうかなんて知らない。茜にとっての花は、常に自分よりも下にいなければならない存在なのだ。
だが、話していると邪魔が入った。
「そこまでだ。我々を侮辱するのも大概にしろ」
知っている声だった。
「……っ!?」
恐る恐る後ろを振り向くと、そこには本日の主役である龍王凪本人が無表情で立っていた。




