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30:結婚式2

 客の中には、あからさまにΩに興味を見せ、ぶしつけな視線を送ってくる者も、失礼な質問をしてくる人もいる。

 それでも凪が隣に立っているから、花はそのことに耐えられた。


(凪さん……)


 契約の花嫁であっても、相手が彼でよかった。

 花を愛しているわけではないけれど、少なくとも彼は誠実であろうとしているように思える。

 それに、自分には一生縁がないと思っていた結婚式というものを体験できた。


(それで十分よね)


 予め教えられたマナーに沿い、花は凪の隣で当たり障りのない挨拶をした。

 主要な人たちへの挨拶を済ませ、ほっとしていたところ、近くで聞き覚えのある声が響く。


「そうなんですぅ! あの人、本当に素行が悪くてぇ」


 私はそちらを見た。

 派手に着飾った妹の茜が、凪の招待客に話しかけていた。


「今まで何人の男の人を部屋に連れ込んでいたか知っています? もう数え切れないくらいですよ。それにすぐ他人の持ち物を盗むんです、私も何回盗られたか……あんなのが凪様の花嫁だなんて、私、心配ですぅ」


 いつもよりなんトーンか高い声で彼女が話しているのは、全て花の悪口だった。

 それも、ないことばかりだ。花は顔をこわばらせた。


「Ωって、嫌らしいですよねぇ。信じられないですぅ」


 話しかけられている相手の人は、茜の言葉を鵜呑みにしているのだろうか。

 茜の近くから蒼の声も聞こえてきた。


「ええ、姉には迷惑しているんです。散財癖があって多額の借金作り、それを僕らが一家総出で返済しているんですよ。ええ、でも仕方がないですよね、あんなのでも家族なんですから。僕も学業の傍らで働いて家族に協力しています」


 こちらも嘘ばかりだった。

 さらには父や母の声まで響いてくる。

 彼らは取材陣を探し出し、彼らに率先して娘の話をしていた。


「もう本当に子供の頃から手がかかって。ええ、小学生のときには非行に走っていました」

「学校の成績も悪くて、本当、凪様に申し訳ないですわ」


 花が彼らに何をしたというのだろう。

 実家にいた頃だって、ただ大人しく言いなりになっているだけだった。

 どうして、こうも花を貶めることばかりしてくるのか。悲しい気持ちが抑えきれない。

 どこかでわかり合えるかもしれないとずっと期待していたが、そんな日はこの先も来ないのだろう。


 花嫁衣装を着たまま俯く花に気づいたのか、凪が「どうした?」と話しかけてきた。

 だが、花は自分が情けなく思え、家族の話をできない。

 あんなことを言われてしまう自分にも原因があるのだろうし、身に覚えがないとしても、内容を凪に聞かれてしまうのも恥ずかしかった。


「あの、な、なんでもないんです……」

 しかし、そのとき、ひときわ大きな声で妹が訴えた声が、凪の耳に届いてしまった。


「ですからぁ、あの淫乱女はぁ、誰とでも寝るから病気を持っているんですよぉ! 凪様が心配ですぅ……!」


 凪の顔から表情が抜け落ちる。


(聞かれてしまったわ)


 おろおろする花に、「大丈夫だ」と頷いた凪は、そのまま茜の方へ歩いて行った。

 花は慌てて彼のあとを追う。

 茜はまだ気がついておらず、自信満々に花の悪口をばらまいていた。


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