29:結婚式1
そうして、花は結婚式当日を迎えた。
有名な神社で、決められた手順に従い境内へ向かう。
あれだけ大丈夫だと思っていたのに、周りを見ていると、つくづく自分が場違いな場所に足を踏み入れてしまった感覚が強まる。
(やっぱり、私は凪さんにふさわしくない。だって、彼はあんなにも立派なのだから)
堂々と歩く凪の花婿姿は花ではなくとも見惚れてしまうだろう。
(うぬぼれてはいけないわ。私は愛されているわけではない)
大事にしてもらっているが、それは花の役目故のこと。
よくしてもらったぶん、花は凪たちの要望に応える。
そういう契約なのだと、花は何度も自分に言い聞かせた。でないと、勘違いしてしまいそうだから。
以前、凪は「嫉妬した」などと口走っていたが、それだって「自分の番」を他人に取られるのが嫌だという感覚だろう。
(そうよ、これは契約結婚)
挙式が終わり、披露宴が始まる。
赤の着物に着替えた花は、そのまま凪の隣で置物のように固まっていた。
隣には新郎の凪が堂々と座っていて、そんな彼の横顔に見とれてしまう。
しかし、凪の奥には……。
(本当に、取材の人がいっぱい来てる。カメラが向けられているわ)
花は震えた。
凪の知り合いらしき人々が集まってきて、次々に彼に声をかけていく。
花は当たり障りなく微笑むばかりだ。本当に今まで花のいた世界と違いすぎる。
そんな中、奥にいた花の家族たちが動き出した。
今までも睨みつけてくる視線は感じていたが、周りに迷惑をかけたりしないだろうかとハラハラしてしまう。
(私の家族のことで、凪さんを困らせたくない)
前回のように、情けない思いをするのは嫌だった。
落ち着かない気分でいると、正装姿の絢斗がやってくる。
「やっほー。花ちゃん、緊張してる?」
「絢斗さん……き、今日はありがとうございま……」
「堅苦しい挨拶はいいよ。花ちゃんは着物姿も可愛いね、今度俺の……」
絢斗と話していると凪が花の腕をぐっと引き寄せた。
体勢を崩した花は「きゃぁっ」と、凪にもたれかかってしまう。
「距離が近すぎる、花は諦めたんじゃないのか。まったく、油断も隙もないやつだな」
「凪君は厳しいなあ。友達なんだから、このくらいの距離は大丈夫だよ」
「駄目だ。私が禁じる」
「狭量だなあ、凪君は。花ちゃん、凪君の近くが息苦しくなったら、いつでも俺のところへおいで」
いつもの彼らのやりとりを見ていると、少しだけ安心できた。




