22:お出かけ
この日、花は朝から部屋で健康診断を受けていた。
凪と結婚したからには、健康な体を維持する必要があると言われている。
ちなみに二回目の診断だ。
「体重が増えていて良い傾向ですね。前回は典型的な栄養失調でしたから。しかし、まだまだ細いです。この調子で様子を見ましょう」
龍王家お抱えの女性医師は、そっと花に微笑みかけた。
「は、はい……」
最近、関わる全ての人が優しいので、花は毎日動揺している。
世界が百八十度変わったかのようだ。
付き添ってくれた静香がゆったりした動きで、医師を見送っている。
診察を終えると、花の部屋まで凪がやってきた。彼がわざわざ花のもとを訪れるのは珍しい。
「あの、どうかされましたか?」
問いかけると、彼はまじまじと花を見て難しい表情を浮かべた。
気に障ることでもしてしまったのだろうかと、花は不安になる。
凪は同じ顔のまま、花についてくるよう促した。
「出かけるぞ」
「ええと、どちらにですか?」
「外だ」
それはわかっているのだが、凪はすたすたと歩いて行ってしまう。花は慌てて彼のあとを追った。
車に乗り込んだ花は、恐る恐る凪に問いかける。
「あの、行き先を教えていただけませんか?」
「お前の買い物をしに行く」
予想外の答えが返ってきて、花は目を丸くする。
「お前は何も持っていないだろう。最低限のものは用意したが、これから暮らすには足りない。それにお前の趣味も反映できていない」
「今もたくさんよくしていただいています。服と日用品も揃えてくださって感謝しているんです……私なんかのために」
「自分を卑下するのは止めろ。お前は私の番なのだぞ」
凪はそう言うが、凄いのは彼であって花ではない。
花は自分に自信がないし、普通の人より何もできない自覚があった。
「取り寄せでも良かったが、お前は普段から屋敷で過ごしている。たまには出かけたくもなるだろう」
今日の凪はどうしてしまったのだろう。
いつもの彼からは考えられない行動を目の当たりにし、花はそわそわと落ち着かない気持ちになる。
いつの間にか車は最寄りの街に到着していた。
この辺りには、情報に疎い花でも聞いたことのあるような高級店がずらりと軒を連ねている。
「好きな店を選べ」
「……無理です」
綺麗なショーウィンドウに並ぶ、高級なアイテムを見ただけで、花の足は竦んでしまう。
入れないし、入ったところで何を買ったらいいのか見当も付かない。
第一、こんなに高いものを凪に買ってもらうのは気が引ける。
(服一着でも、私のお給料の二年分くらいするんじゃないかしら? とても買ってもらうなんてできないわ。今でさえ、日常生活のために何着も買ってもらっているのに)
花の様子を見て何を思ったのか、凪はさっさと近くの店に入って行ってしまう。
「ああっ、ま、待ってください」
またしても、花は駆け足で凪のあとを追った。




