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⑶『闇に帰らざるべきか』
⑶『闇に帰らざるべきか』
㈠
俺は常に、苦悩している。周囲にそれを伝えることもなく、すべての苦悩を、小説の中に刻印する。確かに、その執筆衝動は、闇に居る俺が発明した、一種のトリックの様なものだ。言ってしまえば、企業秘密、と言う訳なのである。
㈡
しかし、おかしな言い方になるが、自分では、その企業秘密の本質を、自覚していないのだ。だから、こうやって書こうとか、この事を書いてみようとか、そういった感覚が、まるで無いのである。不思議なことだが、俺は闇の中、芽生えた文字を、ひたすら両手に託して、キーボードに打っている。
㈢
何せ、自由だから、というのが、大きな理由である。自由に書いて良い、自由に最終章にして良い、そういう感覚があるから、俺は闇に居ることが出来る。闇に帰らざるべきか、俺はまだ、闇のほうが、心地が良いことだけは確かだ、この裏社会に居る心地よさが、脳髄を芸術に麻痺させる。