予知夢のセドリック
ただ、今日の出会いはあと三人も残っている。
次は義弟のセドリックだ。
予知夢の彼は、入学式が始まる少し前にアデリアーナに会いに来る。
そして両親の元へ戻る途中、アンセムに医務室まで運ばれ捻挫の手当が終わったばかりのパナピーアと出会うのだ。
予知夢のアンセ厶は出会いをしたあとパナピーアを医務室に送っている。
しかし彼女の側にずっといる訳にはいかない。
医務室にパナピーアを残し、後ろ髪を引かれる思いでエドウィンの元へ戻ってしまう。
そして独りになったパナピーアは渡り廊下の隅でお腹を空かせた子猫を見付けるのだ。
広い渡り廊下の隅でも、女生徒がしゃがみ込んでいる姿はとても目立つ。
まして彼女の髪色はパステルピンク。
目が行かないほうが不思議だろう。
「何をしているの? キミ新入生だよね?」
「え?」
驚いて顔を上げたパナピーアは動きが止まる。
自分の隣に立っているのが見た事もないような美少年だからだろう。
セドリックはまったく動かなくなった彼女を不思議に思い、ヒザに手を当て腰を折りできるだけ視線を合わせて話しかけた。
「もう式が始まるよ? 急いだほうが良いんじゃない?」
サラサラのシルバーブロンドがこぼれ落ち、義姉と同じブルーグレーの瞳が輝く。
ドキドキが止まらないパナピーアは、これ以上見ていたら心臓が壊れてしまうという危機感に駆られ我に返る。
「あ……忘れてた! 早く行かなきゃ!」
スクッと立ち上がったけれど何か気にかかるのか、抱きかかえている猫を困った顔で眺めた。
「でもこの子……お腹空いてるみたいなの」
猫のほうも、そうだそうだと訴えるように、ミャーミャー鳴く。
するとセドリックが苦笑した。
「……分かった。その猫はボクが預かって何か食べさせるから、キミは早く行きなよ」
「本当! ありがとう! それと……親が居なそうだし、私が飼おうかなって……」
その言葉に、面倒ごとに巻き込まれたなぁ、でもこんな可愛い子と子猫が困ってるなら仕方ないよね……って思ったセドリックは考える。
「式が終わったら……そうだなぁ、中庭のベンチのところで待っていて? ボクが連れていってあげるよ」
「わぁ、ありがとう! 嬉しい。約束だからね?」
そう言ってセドリックに抱き付き、ホッペにキスまでして嵐のように去っていく。
セドリックは公爵家に引き取られて以降、見せかけの笑顔の裏で意地悪な事を考えたり、人の不幸を面白がるのが上流貴族の令嬢なのだと学習していた。
公爵家一族の末端である男爵家で幼少期を過ごした彼は、そんな令嬢たちが苦手だ。
そこに貴族令嬢としては、見た事もないほど自由奔放でクルクル表情の変わるパナピーアは新鮮に映った。
結果セドリックはここで、まだ名前も知らない女の子に恋してしまう。
そして今。
アデリアーナは予知夢とは違って女性医師に付き添われて会場入りしてしまっている以上、このセドリックの出会いを阻止する事はできそうにない。
これは仕方ないと諦めて、大人しく入学式が始まるのを待つしかできなかった。
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