表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/25

アデリアーナの困惑

 入学式直後、ガイウスに抱き抱えられたアデリアーナのほうはどうだったかと言うと……。


 アデリアーナは教室の席まで降ろしてはもらえなかった。


「ありがとうございました」

「いやいや、こんな事はお安い御用。役得なので気にしないでいただきたい。それでは自分はこれで失礼する」


 彼の騎士らしい所作のおかげで、抱きかかえられていた事も色恋ごとではなく医療行為に順じる(おこな)いにしか見えないところが凄い。


「きゃあ! カウロ様カッコ良かったですわ」

「生カウロ様、初めてお目にかかりました〜」

「アデリアーナ様、お怪我なさった甲斐がございましたわね」

「怪我の甲斐……ですか?」


 あまりのポジティブさにアデリアーナは目を白黒させる。


「カウロ様ってエドウィン殿下のお側にいらっしゃるから、なかなか近くで拝見できないですものね」

「やっぱりがっしりなさっていて……あぁ、あの胸板の厚みといったら……!」

「お兄様から聞いたのですが、カウロ様の剣捌きは惚れ惚れするほどカッコ良いのですって」

「そういえば今度、剣闘会がありますでしょう?」

「私、兄に連れて行ってもらいますの」


 アデリアーナの周囲は令嬢たちで埋め尽くされ、(かしま)しいながらも楽しい空間が出来上がっていた。

 それを遠巻きに男子生徒がうっとりと眺め、至福の光景を楽しむ。


 ただ、このクラスの雰囲気もアデリアーナが見た予知夢と変わっているのだ。

 本来なら、アデリアーナの周囲には誰も近寄らず、遠巻きにされたはずで……。


 もしかして、あの予知夢の未来は閉ざされたのかもしれないと……アデリアーナは思い始めていた。


 そして家族との面談。


 今日から学生寮で暮らす生徒たちは、夏季休暇まで基本的に家族の元へは帰れない。

 だからこそ、しばしの別れを偲ぶのだが……。


義姉上(あねうえ)!」

「まぁ、セドリック。お父様とお母様は?」

「知り合いに捕まってるよ」

「置いて来たの?」

「だって大人の話は長いからね。あいさつはしたから大丈夫だよ」


 ちゃっかり者のセドリックらしい言い分だった。


義姉上(あねうえ)、ボクも来週から寮に入るからね」

「え?」

「飛び級試験、受けたら受かっちゃった。えへへ」

「えぇ⁉︎ なぜ? あなたは来年入学のはずでしょう?」 


 あまりの事に淑女の仮面もどこかへ飛んでしまった。


「だって、一年遅く入学して一年遅く卒業して……って結局二年も義姉上(あねうえ)と離れちゃうんだよ? 酷いと思わない?」

「酷いって……」

「ねぇ、ボク頑張ったんだよ?」


 褒めてほめてと強請るセドリックの頭を無意識に撫でるアデリアーナ。


 おかしい。

 去年まではここまで義姉(あね)を慕ってはいなかった気がする……と首を捻った。


 これは一体どうなっているのか?

 考えているところに両親が来て、思考は中断される。


 * * * * *


 そして今度は朝会えなかったエドウィンと、特別寮の王族専用リビングで会うことに……。


「アデリアーナ、久しぶり。やっと会えたね」


 いきなり出迎えられたと思ったらガッツリハグされて面くらう。


「エドウィン殿下もごきげん麗しく存じ上げます」

「ほかに誰も居ないんだし、堅苦しいあいさつなど要らないよ。さぁ、こっちへどうぞ」


 そう言って導かれたのは、ピッタリ寄り添わないと座れないラブソファー。


「え⁉︎」

「あれ? アデリアーナはこっちのほうが良かったかな?」


 言うのと同時に抱き上げられ、降ろされたのは殿下の膝の上。


「あの……」

「ん?」

「こここ、これは……?」


 半分天国に足をかけていたアデリアーナは、頑張って現実世界に止まろうとしたが、エドウィンの輝く笑顔に抗えない。


 エドウィンたちは昨年から学園生活を送っている。

 だからアデリアーナはこの一年間、長期休暇しかエドウィンとは会っていなかった。


 確かに以前よりはエドウィンの様子が変わって、アデリアーナを単なる政略結婚の相手として見ているわけでは無いのかもしれないと思われる事はあった。


 しかしここまで親しく、親密にされたのは初めてな気がする。


 この一年、いや半年ほどの間に、一体何があったのだろうか?

 変化の原因にまったく心当たりが無く、アデリアーナは困惑しきりだった。


「はい、あーん」

「あーん?」


 ポケーっと考え事をしている間に、口に何かが入れられた。

 何が起きたのか口にものが入って初めて気が付き、見る間に赤面する。


 待って、まって。

 今のって?


 もぐもぐもぐ……。


「王都で流行りのケーキだよ」


 きゃあ〜。

 殿下に食べさせてもらったのぉ〜!


 ひざから下ろしてももらえず、挙句の果てにあーん?

 

「おいしい?」 

「……おいしいです」


 アデリアーナの何かがゴリゴリと削られていく。


「来週にはセドリックも来るんだろう? なら今のうちに私はアデリアーナを独り占めしておかなくてはね」

「それはどういう?」

「いや、なんでもないよ。気にしなくて良いんだ」


 エドウィンがいい笑顔でそう言った。

よろしければブックマークや下の⭐︎印で評価頂けると励みになります。

イイねもお待ちしております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ