予知夢のエドウィン
そしてここでも謎の迷子設定が発揮され、林の中を彷徨って一般寮からはるか離れた特別寮──すなわち王族と上流貴族専用寮の敷地内に入り込み、王宮から連れて来られたばかりの愛馬に会いに来ていたエドウィンと出会うのだ。
エドウィンは林を彷徨って枯れ草や葉っぱをくっ付けたままの彼女に驚き、自分を見ても王子だと気が付かないパナピーアに興味を持つ。
しばらく話して愉快になり、愛馬に二人乗りして送っていく事に……。
この時エドウィンは胸の高鳴りを感じ、別れ難い思いをして『これが恋に落ちたというものか……』と気付く。
そうだ、もうどうせお父様は面談室なんて行かないでそのまま帰ってしまうんだから、このまま林に行っちゃおう。
そして厩舎にエドウィンが来るのを待っていても良いじゃない?
あの王子様、見るだけだって目の保養。
二次元じゃない生身の彼を堪能できるチャンスだわ。
そういうわけでパナピーアは林へ出かける。
ただ、特別寮は簡単には見つからない。
それはそうだ。
重要人物が暮らす場所は禁域魔法がかけられているのだから、普通の人なら無意識に避けるはずなのだ。
そこにヒロインが入り込むには、それなりの手順がある。
予知夢の──いや、ゲーム内のパナピーアは、ここまでに攻略対象三人と出会いイベントを熟している。
それがフラグとなっていて、すべての出会いイベントの会話を高得点でクリアした場合に、エドウィン王子とここで出会う。
もし失敗の場合、三人の好感度が上がって彼らから紹介されるまでエドウィン王子との出会いは起きない。
今のパナピーアは、出会いイベントをすべて失敗している。
だからなのか、禁域魔法を突破できずに特別寮からだいぶ離れた場所を歩き回っているのだが、パナピーアはゲームそのものでは無いのだから、ある程度融通が利くと考えていた。
それはこれまで生きてきた中で、多少ゲーム通りではなくても今日の入学式まで進んでこれたからで、彼女の中では根拠の無い自信に繋がっている。
「おかしい、おかしいわ。なんで着かないの?」
ようやく彼女が気が付いた時には、相当の時間が経っていた。
「……もう帰ろう。今日はダメだわ。きっと明日以降挽回できるはずよ。だってあたしはヒロインなんだから!」
そう叫んだ直後。
黒い影が複数現れた。
「ななな、なに⁉︎ やだ、あたしは大した事ない男爵令嬢よ! さらったって身代金は取れないし良い事ないわよ?」
色々喚いてみたものの、それらはまったく役に立たなかった。
ドスっと腹に一発食らって呆気なく意識を失う。
よろしければブックマークや下の⭐︎印で評価頂けると励みになります。
イイねもお待ちしております。