事情聴取
「入学式の行われるホールとは、かなり離れていますよ?」
「えーと、最初はホールの近くのトイレに行ったんですけど満員で、空いてるところ無いかなって歩いてたら迷子になっちゃって……」
パナピーアはあざとく微笑み教師をチラ見する。
どうやら本人は事の重大性が分かっていないらしい。
早く解放されたいのか、それとも怒られたくないのか、とにかく媚び売ってやり過ごす事に全力を注いでいた。
その様子を監視しつつ、ガイウスはうーん……と唸る。
「今のところ、怪しいと断言できる発言がないんだ」
「では偶然だと? そんなはずは無いでしょう。あの廊下は今日、一般の生徒は立ち入り禁止にしてあったのですよ?」
「いや、そうなんだけどな。もう片方の階段が教材搬入で使えなかっただろう? それで迂回させられた道を行って迷子になった……そう言っている」
「それを信じろと言われてもね?」
まったく信じないと顔に書いてあるアンセムに鋭い視線で睨まれて、ガイウスはまたも肩をすくめる。
「なぁ、本当に偶然って事は無いのか?」
「……だからあなたはすぐ騙されるんですよ」
「え? いや、そうか? いやいや、そんなに簡単には騙されないと思うが……」
ガイウスはバツが悪そうに目を逸らした。
アデリアーナが見た予知夢で彼は、言葉巧みに話しかけるパナピーアにただの噂話から重要な秘密まで渡してしまっている。
しかもそれを本人はほとんど気が付いていない。
パナピーアの認識でも彼は間違いなく脳筋で馬鹿正直だった。
だからこそ彼女の良い情報源として使われていたのだから。
そう考えるとアンセムの言うことも間違いではないのだろう。
「しかし、魔道具を使っても『嘘では無い』と出ている。今の俺たちにはこれ以上の事をする権限がない」
ガイウスも本心では不本意なのである。
渋面で腕を組む彼をアンセムが横目で睨んだ。
「本当に迷子になってあの場所にいたっていうのと、故意にぶつかったとのは両立できるんですがね?」
「それはそうなんだが……わざとぶつかったのかと聞いて、あの女は『いいえ』と答えた。それも嘘ではないと出たんだぞ? 他にどう聞けば良いんだよ?」
「故意では無い……? あのぶつかり方が偶然……?」
「怪しいのは分かっている。でも今の段階で騎士団に渡すには、理由付けが足りないんだ」
二人は黙り込む。
「とにかく何も疑わしい所を見付けられない以上、今日のところは厳重注意で帰すしかないだろう」
「……仕方ないですね」
この時アンセムは何か引っかかっていたのだが、それが何なのか分からない。
モヤモヤした気持ちではあったが、時間切れだった。
結局、パナピーアがアデリアーナと知っていて故意で怪我させたという証拠は見つからず、彼女は教員に連れられてあとから入学式に出ることになったのだ。
まだ始まったばかりの学園生活でパナピーアはアンセム、セドリックとの出会いを失敗し、このあと初対面となるはずだったガイウスにまで不信感を植え付けていた。
アデリアーナの預かり知らないところで、ほんの少し断罪から遠のいていたのだった。
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