冬の始まりの日
冬は走る
白銀の世界に吹き荒む風に白髪が大きく膨らむ。視界は白く、肺に入るのは氷のような空気。自分の吐く息の音だけが耳に響く。至る所が解れた黄ばんだ服は頼りなく風に揺られている。積雪の上を駆ける足は赤く、もはや感覚すらない。それでも、木々の間を縫うように走る。
私の中の何かが告げる。
このまま走り続けるのは無理だ。死んでしまう。でも、逃げなければ。もっともっと遠くへ。ただ遠くへ。
ドスンという音がすぐ近くから聞こえた。
いったい…何の音?
思考が逸れる。そのとき、消えていたはずの音が帰ってきた。ゴウゴウと体に叩きつける風の音、自分が踏みしめる雪の音。心臓が凍っているかのような痛み。全身のありとあらゆる部位が悲鳴をあげている。首に付けられた金属が自分を縛り付け、思わず足が止まる。後方から大きな爆発音が聞こえ、再び近くにドスンという音が起こる。
ああ。
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。
しかし、足は動けという命令を受け付けていなかった。なにより、自分が倒れていることすら気づいていなかった。雪に埋もれた体に感覚はもうなく、指先すら動かない。
かろうじて機能している耳がザクザクという雪を踏みしめる音を捉えた。
終わったのか。
子どもながらに私がこれからどうなるのか知っている。私に自由などない。どちらにせよ死ぬのなら今死にたい。しかし、そんな希望も潰えた。
「ハァ。ハァ。クソっ!手間かけさせやがって…異能持ちだから、優しくしてやってたってのによぉ!!」
年相応の小さな体が雪の上をゴロゴロと転がるのを感じる。体内から液体が口に押し寄せる。いつもの慣れた感覚。
異能。ふと思ってしまう。もし私が異能というものでなければ私は苦しまなくてすんだのだろうか。泣かずにすんだのだろうか。
などと考えているうちに思考に霧がかかったかのようにぼんやりと何も考えることが出来なくなる。
「なぁおい?手前の価値手前が下げんなよ?お前みたいな奴は良い値で売れるってのにさぁ?まぁ、いいか。雑巾になろうが、達磨になろうが買う奴は居るだろ」
再び体が転がるのを感じる。思考回路は麻痺し、ただ転がる音だけが体に響く。
刹那。
風の音が変わった。直感する。何かが来る。動かなかったはずの体がぎゅっと何かに耐えるように丸くなる。
尋常ではない程の風が、ミシミシと木が軋む程の雪が、弾丸のように体に叩きつけてくる。
僅かな視界の隅に人の頭が転がるのを見た。
どれくらい続いたのだろうか。数秒なのか、数分なのか、異常な程の吹雪は嘘のように去り、あたりを沈黙が包む。
蜘蛛の糸で繋ぎ止められていた意識がプツリと落ちる。
身体が地面に叩きつけられるような感覚に跳ね起きる。息が荒い。鼓動は早く、血液が体内を駆け回るのを感じる。湯気が経ちそうなほど体は熱く、頬を汗が伝う。それなのに歯がカチカチと音を立て、止めどなく溢れる不安と恐怖に体が震え、慌てて毛布に包まる。
今のは。今の夢は。全て忘れた。何も覚えていない。しかし、あの日のことだけは、忘れたいのに何度も何度も夢を見る。まるで、何かが私をあの日に縛り付けているかのように。
はぁっと大きなため息を着くと同時に、自分が呼吸を止めていたことに気づく。
震えは収まり、ただ暑さだけが返ってきた。堪らず毛布を蹴り飛ばし、汗で湿気ったベットから抜け出す。
時計の短針は6を指している。私にしては少し早い起床だ。まぁ、目覚めはかなり悪いが。
カーテンをかき分け、窓を開ける。まだ陽の射さぬ暗闇から心地よい風が吹いてくる。黒髪やカーテンが風を受け、嬉しそうにはためく。雪の「ゆ」すら感じないあっけらかんとした景色が広がる。考えてみれば雪景色なんてもう何年も見ていない。
あのころの私とは違う。鹿や猪よりも速く走れる脚がある。おじさんから叩き込まれた、生き抜く知識がある。ただの獣人として私はおじさんと生きると決めたのに。あんな力なんかなくたって私は…
なんて、自分に言い聞かし、膨らんだカーテンの下を暖簾のように潜り抜ける。
アイスでも食べよう。
夢のせいか、成長した双丘のせいか分からぬ肩凝りに悩みながら自室を後にする。
リビングに冬がいる
早朝の一仕事を終え帰宅すると、暖炉の前のソファーで大事そうにアイスを舐めていた。
珍しいこともあるものだ。
ふと、その姿に違和感を感じる。アイスは彼女の好物である。それなのにも関わらず、耳はペタリと伏せ、尻尾も力なくソファーに座っている。
心ここに在らず。何かあったのか。
などと考え、ドアの前で立ち尽くすを彼女の黒い眼が捉えた。おはようございます、と、挨拶をする彼女の姿はどこか小さく見えた。
挨拶を交わし、朝食の準備をする。トースターにパンをセットし、ベーコンを火にかける。そんな、最中も彼女のことが気掛かりだった。
いつもと違う。しかし、この感覚は初めてではない。果たしていつだったか。彼女に何があった。
思考を巡らせ、随分小さくなった記憶の引き出しを漁る。ベーコンが少し焦げ始めた頃、たった一つの思い当たる節にぶつかる。とはいえ私に何か出来るわけでもないことも知っている。そっとしておくのが吉だろう。
チンと焼けたパンにベーコン、その他洗った野菜を挟んででサンドイッチを作る。後は珈琲をと、珈琲豆の入った袋を開いた手がピタリと止まる。
…そうか。切れそうとは思っていたが既にもう無かったか。何れにしろ、冬が本格的に始まる前にそろそろ街におりて買い物をしなければならない。ちらりと彼女の方を見る。アイスは食べ終わった彼女は、黒猫とじゃれていた。顔は笑っているものの、耳は相変わらず伏せていた。出来たぞ、とだけ伝え何とか二人分の珈琲をつくりながら思考に意識を置く。
駄目だな。あの様子じゃ街なんて。一人で行くか…?いや、特別今日行く必要がある訳では無いのだ。無理させない方良い。しかし。今朝見た空。恐らく今日は快晴。明日からはいつ雨が降るかわからないような天候。遠くにある街に行くのには晴れていた方が幾分も都合がいい。
もはや白湯のような味の薄い珈琲を啜り、サンドイッチに齧り付く。心無しかサンドイッチの味付けが濃い気がする。
「今日、街におりる?」
声色は低く、言葉の節々に怯えを感じる。珈琲の薄さに気付かないわけが無い。しかも、相手は獣人だ。他人の感情を読むのには優れている。私の葛藤も恐らくバレているのだから、その質問は当然か。
「…そうだな」
沈黙が流れる。いつもならなんともない時間が息苦しい。カップのそこの見えた中、珈琲をこれでもかというくらいゆっくりと飲む。
「準備、してくるね」
食べ終えた彼女がすっと立ち上がる。ハッとし、何か言わなければと焦るものの、明日でもいいだとか、一人で行くだとか、陳腐な言葉しか出てこず口を紡ぐ。
「…私なら大丈夫だから」
そう言い残し自室へ消えていく彼女の背中を見送る。
心配だ。しかし、彼女自信がそう言うなら…成長したんだな。
気を使わせてしまった不甲斐なさを感じ、どうしたものかと悩みながら、いつの間にか膝の上にいる黒猫を撫でる。
冬は向き合う
自室にある化粧台。不安そうな黒い瞳で私を見つめる鏡の中の私が語りかける。
なぜ街に行くの?あそこは危険。忘れたとは言わせないよ?かつて、私を見た途端血相を変え、首歯を填め、私を束縛した。人という生き物とは必要以上に関わらない、自分を隠して生きていく。そう決めたのはあなた自身でしょ?
分かってる。怖いよ。でも。恐らくおじさんは悪夢を見たことを勘づいている。それでいて、私に気を使ってくれてる。これ以上おじさんに無駄な迷惑をかけたくない。
化粧台の引き出しをガラリと開ける。物がほとんど入っていない軽い引き出しの中には櫛と白色の拳銃が隅にちょこんと入っている。名前を貰ったあの日。これは御守りなのだと怯える私に優しく語りかけたあの眼。ポンと頭を叩いた暖かい手。思わず涙が出てくる。
ぎゅっと拳銃を握りしめて、ほぅっと息を吐く。
…私は。私はっ!
思わず全身の毛がぶわっと膨らむ。夢なんて、あんなものは忘れよう。今日だけでも勇気を出すんだ。
裾で涙を拭い、目の前の私をキッと睨みつけた。
ブロロロという体の芯を揺らすような音が辺りに響く。
私の二倍以上あるのだろうか。おじさんがカスタマイズしたという、二人乗りするのに十分な程大きなバイク。土煙を巻き起こしながら、ものすごい速さで林道を走る。優しく頬を撫でるような冷たい風を受け、黒髪が後ろで大きくはためく。
気持ちいい。全てを置き去りにし、何もかも忘れたような、解放されたような感覚。街は嫌い。出来れば行きたくないし、近付きたくもない。でも、この感覚は大好き。この瞬間を楽しめないというのは少し惜しい…
「寒くないか?」
前を向いたままおじさん尋ねる。
「大丈夫〜」
「…街に着く前にフード、被っておくように」
「はーい」
ふいに目の前の背中に目がいく。年々動かなくなっていくとボヤいていたその背中は確かに大きくて、触れると驚くくらいに暖かくて。思わず抱き締めてしまう。
「あまり、密着しないでくれ。手元が狂う」
少し荒い口調でそう言われ、慌てて離れる。でも、今のは驚きと照れ、そして恥ずかしいのを隠そうとした故の口調なのだと直感する。おじさんも私を一人の女性だと見てくれているのだ。尻尾は揺れ、口角が意に反して上がる。
そういえば、おじさんは今何歳だろうか。いつか聞いたことがあったが、思い出せない。はぐらかされたような気もするし、単に忘れているだけかもしれない。
40か。50か。はたまた60か。70…は多分いってない。でも、実は30なんだと言われても信じるくらいには幼くも見える。流石に私よりかは歳上だろうけども。…私よりも歳上。
私はおじさんがいるから今生きている。これからも生きていける。でも、いつかおじさんがいなくなったら?
ふいに、はためいていた髪を後ろから掴み、どこかに誘うように引っ張られているような、気持ちの悪い感覚が押し寄せる。後ろから銃声が聞こえた。あぁ。やつが、あの夢が、あの日々がすぐ後ろにいるのを感じる。
息が詰まる。ぞっとし思わず目の前の背中にしがみつく。
その先を想像し、果てのない恐怖が体を蝕む。甲高い耳鳴りがし、視界は暗く色褪せていく。
いつか訪れる当たり前なこと。でも、独り立ちし、生きていく覚悟も自信も私には無い。頼りきりではいけない。頭で分かっていても、心がついて行かない。
その時、パサりとフードがかけられ我に返る。思考の底なし沼から現実に抜け出す。止まっていた息を溜息として大きく吐く。次第に気持ちが落ち着き、視界に色が灯る。そして、再びおじさんをぎゅっと抱き締めていたことに気がつき、すっと離れる。
「…あぁ、すみません。邪魔ですよね」
返事はない。でも。
目から涙が溢れそうになるのを感じ、堪らずその大きな背中に抱きついた。
返事はやはり返ってこない。
冬と歩く
ひと泣きして元気になったのか、はたまた空元気なのか私には分かりかねるが、楽しそうに隣を歩いている彼女を見てほっとする。
不安だったが、なんとかなるか。…いや、そうは言っても、さっさと買うもの買って早く帰るに越したことはない。
深い、緑色のフードに身を包んだ彼女は上手く街に溶け込んでいる。彼女は人目を嫌う。視線を避けたがる。後遺症、といったところか。こうして、彼女がかつて心に負った傷は今も尚彼女を蝕み続けている。
無理もない。やはりというか、今日の彼女は格段と辛そうだ。しかし、これは彼女の問題。こればかりはどうにもならん。とはいえ、私にしてやれることは他にないのだろうか。
そう気を抜いて、上の空で歩いていたのが祟ったか。隣に彼女がいない。心にどすんとなにか重いものが落ちる。背中を生温い冷や汗が伝う。
まさか。いや、そんなこと。彼女は何処へ。
慌てて辺りを見渡すとすぐ後ろに彼女がいた。一点を見つめ立ち止まっていた。ほっとして、何か気になるものでもあったかという言葉が喉から出ようとしたその時、彼女の顔色が悪いことに気がつく。元々肌白いうえフードの影越し、それでも分かるほど真っ青になり、耳や尻尾はだらりと垂れ下がっている。息苦しそうに呼吸をする姿はバイクに乗っている時と似ていた。
彼女の視線の先には陽の当たらぬ路地裏があった。なにかいたのかと同じように路地裏を覗き込むと、がさりと物音がし、小さな鼠が路地裏の奥の方へ駆けていく。なんだ。という声が彼女から漏れた。今頃気にしている私のことに気付いたのだろうか。彼女は慌てて立ち止まっていたことに謝る。
やはり、無理せず今日は来なかった方が良かったか…?
路地裏を見つめる彼女の横顔が妙に頭に残った。
「おや。珍しい顔じゃあないかい。いや、そろそろ来る時期だと思ってたよ。調子はどうだい?」
行きつけの店に辿り着くと、待っていたのはいつも通りの店主だった。普段は気に食わない店主だが、今日は何故か顔を見ると安心する。イレギュラーな一日だからだろうか。
「変わらず、だな。いつもの詰めといてくれ」
「ほんと、相変わらず無愛想だねぇ?全く。お嬢ちゃんが可愛そうだよ。そうだ。昼はまだだろう?うちじゃあ昼飯は出してやれんけどね、ちょっとくらいは腹に詰め込んでいきな。焼き鳥食っていきなよ。最近、仕入れてね。今店も暇してるし、焼き立て作ってやろうか?美味いよ?」
焼き鳥か。悪くないな。
元々お腹が減っていたのもあってか、その言葉を聞くだけで唾液が口の中へ溢れる。はっとし、隣を見ると、彼女も同じように目を輝かせていた。
「…2本」
「あんがとね!ほな、ちょぉっと時間ちょうだいね?」
そう言い残し店主は店の奥に消えていった。
焼き鳥を待つ間、二人で店内を物色する。彼女は見たこともない食べ物が並んでいるのを面白そうに見ている。
なんとかなりそうだな。このままいけば、昼過ぎには街を出れそうだ。
そんな期待を突如聞こえた悲鳴が切り裂いた。
なんだなんだと二人で店の外に出る。
窃盗か、強盗か。一人の女性が泥棒!と叫んでおり、遠くの方に人や車を縫うように走り去るバイクが目に入る。
あの速度で、あの距離まで逃げられたら捕まえることは相当でない限り無理だ。
「まぁた鳶が出やがったかい?」
店内から店主が聞く。
「鳶だと?」
「あぁ。最近起きてる盗人のことさ。人の鞄や荷物をを毟り取るように奪ってバイクで逃げる。鳶みたいだろう?何回も何回も繰り返しても捕まらない狡猾さ。今時、すぐに捕まりそうなもんだけどね。なぁんでか逃げ切りやがるのさ。焼き鳥、もうすぐできるよ。お嬢ちゃんも呼んでおいで」
その言葉に疑問を感じる。
呼ぶ?すぐそこに…
辺りを見渡しても、そこにあったのは緑のパーカーだけだった。
冬は走る
気付けば脚が動いていた。
しかし、バイクに乗っている時にも覚えたあの感覚がまた襲う。冷たく、苦しく、束縛から抜け出そうとするような。そう。あの夢の、あの日の感覚。今は追いかけているはずなのに、何かから逃げているような。背後から銃声が鳴る。忘れたくても忘れられぬ、耳にこびりついたあの男の声が聞こえる。
「お前に何が出来る?異能こそがお前の価値。異能さえあればそれでいい。お前は商品だ。異能を嫌い、恐れ、隠し、逃げる。そんなお前に価値はねぇよ。異能さえあればいい。さぁ、受け入れろよ。異能を使えばあいつにも追いつけるさ。そうすりゃ、お前に価値が着く。それでこそお前だ」
力に従い生きる、それは私じゃないっ!…でも、そうだ。力を使わないように歩んできた。恐れ、隠して生きてきた。あんな力なんてなければ良かったと何度も思った。確かにそれは私ではないのだろう。
でも。
あの人と共に過ごした日々が脳裏に蘇る。あの人がくれた名前が心に響く。幼かった私に。震えていた私に優しく語り掛けてくれた声が身体中を駆け巡る。
「名前をあげよう。なに。悪くない名前だと思う。お前は…」
その瞬間、首から何かがかしゃんと外れる音が聞こえた。
ーあぁ、そうだ。
私は私だ。
私は冬だ。
白い髪が風を受けてはためく。聞こえるのは私の呼吸。鼓動。身体は軽く、空を翔るかのよう。
いつか、こうやって思いのまま駆けたかった。何もかもを置き去りにしてやりたかった。
あぁ。良いなぁ。
最早、冬に追いつくものなどなかった。地を踏みしめ、前へ前へ。
もっといける。まだ先へ。私はこんなものじゃないよね?
無限に加速する姿は正に異常。見える景色全てが川のように後ろへ流れていく。
街に溶け、逃げたバイクの気配を追う。間違いなく近付いている。しかし、それでもバイクはまだ遥か遠くにあることも分かる。
私の中の何かが告げる。
次の路地裏を通れ。このままじゃ、捕まえる前に気配を追い切れない。
路地裏。私の終わりの始まり。薄暗く、ジメジメとしたあの日の記憶。嫌な思い出。でも、それはもうただの過去でしかない。冬は止まらぬ。強く地面を蹴り、路地裏に飛び込む。
陽の気配のない冷たい風が体を包む。
白銀の尾を引き、冬は走る。走路にいた子鼠が思わず避ける。キラリと輝き、瞬く間に走り去るその姿が子鼠の目に映る。
狭く、障害物の多い路地裏を矢のように貫き走る。冬の頭の中は空っぽだった。ただ、走る。ただ、辿る。
陽の光を帯びた、眩い路地裏の出口が見えた。
ぐっと力を脚に入れ、大きく飛び出す。
眩しい光に少し目を細める。それでも視界は良好、こちらに向かってくる1台のバイクを捉える。脚は速くとも、暴走するバイクを止められる程の力はない。
腰に備えた白い拳銃に手を伸ばし、走り来るバイクへ向ける。
赤い瞳が標準越しにバイクを捉える。
狙うは一点。迷う余地なし。放たれるは銀の魔弾。それは酷寒の如く。まるで氷柱の如く。ただ、己の過去を貫け。
銃口が白熱し、白銀に発光する。
弾丸は前輪に当たった。着弾点が凍りつき、走行が不可能になったバイクは堪らず横転した。投げ出された盗人は腰を抜かし、這うようにして逃げようとしているが、どうでも良かった。バイクに近付き、盗まれた鞄を拾い上げる。
ふぅ、とため息を着くと同時に気がつく。沈黙が当たりを包んでいた。そして、周りの視線をこれでもかと集めていた。
慌ててフードを深く被ろうとするも、その手が空を掴む。背中にフードがない。
逃げようとするも、異能の代償か、はたまた反動か、脚の筋肉が痺れたように動かなかった。
まずい…あぁ。視線が痛い。フードは?なんでフードないの?
うぅ…
蹲り、どこか隠れたい衝動に駆られた時、わっと歓声があがる。
「おいおい!なんだァ今の?たまげたな!」「あの子すごい速度で路地裏から出てきたけど、何〜?格好いいじゃなぁい?」「ていうか、あの男、鳶じゃね?つーことは、鳶に追いついたってことか?」「…やばぁ」「かっけぇぇぇ!戦隊ライダーズみたい!」「いいもん見たなぁ。長生きして良かったわぁ」
湧き上がる止めどない声にたじろぐ。不思議と悪い気はしないが、恥ずかしいという気持ちが溢れる。どこかに隠れたい願うも、道路の真ん中に遮蔽物などない。
うぅ…見ないで。お願い。誰か、おじさん、助けて…っ!
願いが届いたのか、ぽん、と肩を叩かれる。ビクッとして振り返るとそこには緑色のフードを小脇に抱えたおじさんが立っていた。
「まぁ…なんだ。よくやった」
良かった。助かった。
さっきぶりなのに、久しく会ってなかったような寂しさと嬉しさが込み上げ、思わず抱きつく。
「…やめてくれ」
そして冬が始まる
右手には焼き鳥、左手にはアイスバー。全く合わないだろう食べ物をご満悦な様子で頬張る。
「いやぁ、あれは傑作だったね!お嬢ちゃんいなくなったことに気づいた時の慌てようったらおかしかったねぇ!あんたもあんな顔するんだねぇ。『冬は?冬はどこに行った?』なぁんて焦って飛び出した時にゃびっくりしたがね?隣のおっちゃんに走り出したこと聞いた途端、元の寡黙に戻っちゃうんだから。もうね!おばちゃん楽しかったわぁ!」
おじさんはさっきからずっと同じ調子の店主を横に縮こまっていた。
「にしても凄いねぇ?鳶捕まえちゃうなんて。やるじゃない。もうね。好きなだけ焼き鳥食べていきなさい。お代はいらないから」
はぁいと口をもごもごさせながら返事する。
フードはもう被ってなかった。なんというか、被ってしまうと戻ってしまうような。今の私じゃなくなるような気がしたから。
店主には話疲れることはないのだろうか、常に口を開く店主に嫌気が差したのか、居心地が悪くなったのか、おじさんは外に出ていった。
店の外、煙管をふかす影がひとつ。
鳶は捕まった。バイクから投げ出されたというのだから大怪我していてもおかしくなかったが、軽傷で済んだ。
渡していた拳銃を常に携帯していることは知っていたが、全く知らないところで発砲していたとは。後で注意しなければならない。
火皿から昇る細い煙をぼうっと眺める。
冬は吹っ切れたのだろうか。僅かの時間でこうも成長されると流石に驚きを禁じ得ない。まるで、雛の為に餌を取り、帰ってきたらそこには雛はいなかったような。立派な成鳥が同じように餌を捕まえていたような。
キスをするかのように口元に口を寄せて煙をふかす。
いつか彼女も独りで旅立つ日が来るのだ。それでも、彼女はやっていける。今日そう思わせてくれた。
今日は一日中快晴だと予想したのだが。通り雨か。
ふぅ、と溜息とともに煙が空へ昇って行くのをじっと見据えるように眺めた。
陽が傾き始め、早くも夕方に差しかかろうとしている。
冷たい風に髪が揺れる。少し肌寒い。
早足に帰る子ども立ちを横目に二人は歩く。
真っ赤に染まる西の空を背に我が家へ帰る。
ようやく冬が始まった。
どうも。ヒラメです。
なにか小説を書きたい。何を書こうか。なろう投稿者なのだ。一作くらいよくあるライトノベルみたいな異世界作品作ろうじゃあないか。
そうやってできたのがこの作品です。
異世界要素は獣人だけ残してどこかへ行きましたが、私らしい作品になったと思います。
しかし、改めて痛感しましたね。構成の荒らさ、表現力の拙さ、語彙力の低さ。小説家さんとか、作詞家さんとか、ストーリーライターさんとかほんと凄いなぁと実感しました。
ところで、新しい作品投稿する度にキーワード、タグみたいなやつ考えるの普通に辛いの何とかならないですかね。誰かこれ追加したらどうかみたいなのあれば遠慮なく教えて下さい。
また、どこかで会いましょう。では。