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コミュ障、ゲームの世界へ  作者: ちくちくわ
プロローグ
2/4

コミュ障の現在

空には宇宙が広がって、幾千幾万の星々がその輝きを暗い大地に振り散らす中で、俺は巨大で強大な存在と相対する。

その姿は一言で表すなら、異形。


頭から山羊の様な捻くれた角を生やし、端正ながらも狂気的な貌はヒトのものでありながら、ヒトらしさを一切感じさせずに此方を睥睨している。

その上半身は筋骨隆々なヒトそのものであるが、唯一、背から生える黒い骨の翼が異形を主張している。

頭から腰までで、俺を優に超える巨躯。

骨格からして巨人の様である。

そして更に下半身、これが問題だ。

あらゆる種族の身体を雑に組み合わせて形作られたそれは、百足の様で非常に悍ましい。上半身と下半身の繋ぎ目には、背から六の腕が交差している。

百足となった身体には既に命は宿っていないだろう、虚無を映す眼がそれを物語る。

彼等は、この【星屑の魔神】の魔神による犠牲者なのだろうか。


「──魔人が我に牙を剥くか」


決して大きな声ではないが、離れた俺にもよく聴こえる澄んだ声。


「……」


やばい、緊張して喋れない。


「……」


「……」


待ってくれてる……!優しい……!


「……届かぬと知れ」


あぁっ!!魔神と会話するチャンスが!流石に何時までも待ってはくれないよね……。


星屑の魔神が右腕を振ると、その手の内に鮮やかな光が産まれて武器が現れた。

蒼く輝く美しい大剣。

月光剣とかそんな感じなんだろうか……欲しいな。


いや──それにしても──。


「剣……かぁ」


腰から片手剣を抜いて、魔人に向ける。

負ける気がしないよ。




















《World announce:プレイヤー【イヴァ・グラウディン】様が【星屑の魔神・シャクスス】を単独討伐しました。【星屑の魔神・シャクスス】の初討伐により、これ以降、イベント【星降る夜】が各地で突発的に発生する様になります。》















「ふぅー」


ヘッドセットを外し、VRチェアから降りて一息。

流石に初見の新ボスをソロでやるのは疲れた……。

でも誰よりもはやく討伐出来るとは思ってなかったなぁ。まぁ、完全に運だろうけど。

あとはドロップも良かったし、称号も手に入って良かった。

ただ、ワールドアナウンスがなぁ……やっぱり恥ずかしいなぁ……初討伐かつ単独討伐は目立っちゃっただろうし、暫くは拠点で生産でもしてよっと。

あと、拠点も色々と手を加えたいな。NPCも増やすか……?コストも最近の懐事情から余り気にならなくなってきたし、有りかもしれない。


これからのゲームプレイに思いを馳せていると、ズボンの携帯が震えた。

メッセージかな、誰だろう。

携帯を取り出し確認すると、表示された名前は数少ない友人の一人。

アルバイトを紹介してくれた子でもある。

異性ではあるけど、【人魔大戦Online】も一緒にやってくれたりと、とても仲良くしてくれている子だ。


内容は時間があったら今から会えないかというもの。

丁度ゲームも止めた所だし、大丈夫なのでOKの返信をして外出の準備をする。


(こんな時間に珍しいなぁ、なんだろう?)


時刻は20時を廻っており、外は既に暗くなっている。


時間も時間だし急がないとね。


支度を急いで終えて、自室を出て階段を降りた先にあるリビングに繋がるドアを開ける。


「お母さん、ちょっと友達に会ってくるね」


「もう20時よ?」


「由紀ちゃんに呼ばれたんだ。何の用事かはわかんないけど、もう夜だし家まで送ってくるよ。遅くなり過ぎないようにするね」


「あら……女の子の夜道の一人歩きは心配ね……。送ってあげたらすぐ帰って来なさいね?」


「うん、いってきます」


「いってらっしゃい」


自宅を出た所で、ちょうど電話が掛かってきた。

表示はやっぱり由紀ちゃんだ。


「もしもし?今どこにいるかな?」


「ひみつ」


えっ。


携帯のスピーカーと背後の両方から声がして、吃驚して慌てて振り返る。


ぶにっと頬に指が突き刺さる。


「実戦ならば死んでいるぞ……」


「──吃驚した」


頬からスッと指が離されたので振り返るとニヤニヤとした女の子の姿。

制服姿のままだ。遊んだ帰りかな?


「随分タイミングいいね……」


「へへっ、〇〇くんの家が近くなってから連絡したからね!」


もしかして待ってたんだろうか……最近、夜は肌寒くなってきたし申し訳ないな……。


「待たせちゃったかな……ごめんね?寒いし俺の部屋上がる?」


言ってから気付いたけど、女の子を部屋に誘っていいもんなのか?いや、まぁ友達だからいいでしょう。


「──うん、いく……」


ん?ちょっと間が開かなかったか?これ気持ち悪がってないか!?警戒してないか!?!?


「ぁえっ、あっえっと寒いからね……身体冷やすと良くないって聞いたことあるし……え〜〜〜っと……」


やばいやばいやばいテンパってきた。

このテンパリ具合が一段とリアルな下心醸し出すんじゃないか????

確かに由紀ちゃんは美少女だけど、俺にはそんなつもりないっていうか、分不相応っていうか!下心なんて滅相もない!

あっ、変な汗出てきた。

キモさポイントUPした気がする。


「……ぷふっ、なんで焦ってるの?いいからお部屋いこーよ」


由紀ちゃんが俺の手を握る。

すいません……今、手汗やばいと思うんで……離して……。

っていうか手!!握られてる!!!

身体も近い!離れて!


「ちょっ!近いよ!……ん?」


誰かこっちに向かって走ってくる……。


「どしたの?……ヒッ!」


由紀ちゃんも気付いて怯える。……怯える?

よく見るとこっちに向かってくる人の様子がちょっとおかしい。鬼気迫るというか……。


「あの人っ最近ずっと私に付き纏ってるの!」


ストーカー!?もしかして今日の用事ってその話だったのか!?


よく見るとストーカーの手には包丁が握られている。


「誰だあああああああああ!その男はぁああッ!!手なんか握って!殺す!!!殺してやる!!!!」


「イヤァアアアアアッ!!!」


恐怖に怯える由紀ちゃんに抱きつかれてしまった。

これでは身動きが──ッ!?


「死ねっ!!」


接近したストーカー男が躊躇なく刃を振り下ろす。


不味い──ッ!その軌道は由紀ちゃんが──!!

ごめんッ!


ドンッ


咄嗟に由紀ちゃんを自宅前に突き飛ばし、包丁が俺の腕に刺さる。


「きゃっ!」


「アヅッ!由紀ちゃん!家に入って!!!警察呼んでくれっ!」


「〇〇くんっ!!!血が!?」


「いいから早くッッッ!!!」


間一髪で由紀ちゃんを逃がせた!

漫画で見たけど、刃物で刺されると本当に熱く感じるんだ……。ていうか俺ってこんなに大声出るんだなぁ。

まぁ、命が掛かってるし当たり前なのかな……。


「しねしねしねしねっ!しねっ!」


ストーカーがぶんぶんと包丁を振り回すが、身動きさえ取れれば当たる気がしない。

【人魔大戦Online】と身体能力の高さに感謝!

だけどこれ程までに狂乱していると、取り押さえるのは難しい……迂闊に近寄れないな……。

あぁ、左腕も痛いし……あれっ?


ズルッと足が滑る。


何故──?

──自分の血かッ!クソ!


体制が崩れてしまった!不味いッ!


「死ねぇ〜ッ!!!」


──覚悟を決めよう。


ドスッ


「キヒャヒャヒャッ!ざまぁみろッ!」


包丁が腹に深く突き刺さる。めちゃくちゃ熱痛い。

でも──。


「捕まえた──ッ!」


包丁を俺に突き刺すストーカーの右腕を取り、関節を決める。


バキッとベニヤ板を割ったような音が鳴る。骨が折れたのだろう。

包丁が手から滑り落ち、すぐさまそれを遠くに蹴り飛ばした。


「いぎゃあああっ!」


あまりの痛みにストーカーが地面に倒れ込み、すぐさま俺がその背に乗りチョークスリーパーを決める。


くそ……血が流れすぎたのか、力が入らない……。


「うぐぅ……はな”じぇ……」


暴れるストーカー。

話す訳が無い、こんな危ないヤツ逃がす訳にはいかない!こいつを逃がすような事があれば、由紀ちゃんが安心できないだろっ!

全身全霊の力を振り絞り、チョークスリーパーを決め続けるが、力を入れれば入れる程、腕と腹からの出血が激しくなる。


はやく──落ちろッ!

腕の血が滑るッ!やばい!抜けられるッ!


ズポッとストーカーの頭が拘束から抜け出す。


「くそ……最悪だ……」


「ウヒャヒャヒャ!ざま────」


ゴンッ


立ち上がったストーカーが高笑いし、突然ゆっくりと横に倒れこんだ。

その後ろには、ゴルフクラブを両手で持ち、肩で息をする由紀ちゃんの姿が見える。


「ハァッハァッ……〇〇くん……。〇〇くん!?凄い血……!大丈夫っ!?」


「由紀ちゃん……ナイススイング……」


そのゴルフクラブはお父さんのだね。


もう立ってられないので、ゆっくりと大の字に寝転がる。

力が入らない、目が霞んできた……。

死ぬんだろうか……。


「〇〇くんのお母さんが警察と救急車を呼んでるからっ!すぐ、絶対にすぐに、来るから!だから!〇〇くん……」


由紀ちゃんが俺の右手を握り、涙を流しながら言う。


「──しなないで……」


遠くからパトカーのサイレンが聞こえてきた、これでストーカー男は逮捕されるだろう。

由紀ちゃんに怪我が無くて良かった。これで安心、かな?


あー、もう起きてられないや。


死にたくないなー……。




















死にたくないなぁ。



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