第十九話:夜霧軽の相談
翌日の放課後、
「――はい、これで最後ですね」
「ふぅ、疲れた」
「お、終わったー……っ」
春休みの間、溜まりに溜まっていた大量の書類が、ようやく全て片付いた。
「いやぁ、ついにやり遂げましたね。我ながら、いい仕事をしてしまいました」
実際に処理した分量は、俺と白雪で9割強、桜が1割弱なのだが……。
まぁ一応、彼女なりに全力でやっていたっぽいので、そこには突っ込まないでおくとしよう。
「お二人とも、本当にお疲れさまでした。これでしばらくの間は、ゆっくりと過ごせますね」
「そりゃよかった」
ここ一週間、割とマジの書類地獄だったので、そろそろ一息つきたかったところだ。
「白雪さん、葛原くん。せっかくなので、ここは景気よく『お疲れ様パーティ』をしませんか?」
「いや、さすがにそれは――」
「――いいですね」
意外にも、白雪は賛同の意を示した。
「いいのか?」
「はい。今年度は期初の『発足会』を開いていないので、その分の予算が丸々残っていますから」
「なるほど、そういうことか」
確かにそれならば、問題ないだろう。
「ぃやった! お疲れ様パーティ、開催決定です! 今日はちょっと遅いので、明日の放課後にパーッとやりましょう!」
桜が高らかに宣言すると同時――コンコンコンとノックの音が鳴り、生徒会室の扉がガラガラと開かれた。
「――すみません、ちょっといいっすか?」
そこから現れたのは、見慣れた金髪ピアス。
「夜霧?」
「おー、葛男! いやぁよかった、お前がいてくれて一安心だぜ!」
夜霧軽。
高身長+イケメン+運動神経抜群という超ハイスペックを誇りながら、それを補って余りある数多のマイナス要素によって、まったくモテない残念な男だ。
「どうした、なんかようか?」
「まぁちっとばかしな」
夜霧はそう言って、生徒会室の奥へ目を向けた。
「――白雪さん。生徒会って確か、一般生徒からの相談とかも受けてますよね?」
「はい。お悩み相談は、生徒会業務の一環です」
「実は……どうしても相談したいことがあって、ちょいとお時間いただけますか?」
「そういうことでしたら、どうぞそちらへお掛けください」
白雪は来客用のソファを促し、夜霧は「あざっす」と言って、そこへ腰を下ろした。
その後、俺・白雪・桜の並びで対面のソファに座り、第一回お悩み相談の準備が完了。
本来ならば、生徒会長が真ん中に着くところなのだが……。
俺と夜霧は友人かつ男同士ということもあり、今回の進行役兼相談役は、俺が務めることになった。
「あ゛ー……それで夜霧、『どうしても相談したいこと』ってのはなんだ?」
「なんつったらいいのかな……。これはそう、俺の友達の話なんだが――」
「なるほど、お前の話か」
「……さすが大将、まるで容赦ねぇな」
夜霧はそう言って、がっくりと肩を落とした。
「あぁ、そうだ。俺の話だよ。そんでもって内容は――『恋愛相談』。俺さ、好きな人がいるんだ」
次の瞬間、
「――誰ですか!?」
THE・恋愛脳の桜が、凄まじい勢いで食らい付いた。
「桜さん、ちょっと落ち着いてください。夜霧くんが引いていますから」
「いやいや、これが落ち着いていられましょうか!? いえ、いられません! クラスメイトの恋愛相談なんて、最高ランクの面白話じゃないですか!」
爆裂にヒートアップする桜。
それを見た夜霧の瞳に、僅かな不安の色が交じる。
「あの、白雪さん……ここでの話って、オフレコで頼めますよね?」
「はい、もちろんです。生徒会には守秘義務がありますので、相談内容を外部へ漏らすことはありません。それにこう見えて桜さんは、とても口が堅いので安心してください」
へぇ、そりゃちょっと意外だな。
なんでもかんでも、すぐにベラベラと喋りそうなもんだが……白雪がここまで断言するのならば、きっと間違いないだろう。
「それでそれで! 意中のお相手はどなたなんですか!? ――いえ、ダイレクトに聞いてしまうのは、ちょっと味気ないですね。まずそもそもの話として、白凰の生徒なんですか!?」
「まぁ、そうっすね」
「くぅ~、学内恋愛ですね! これは熱い、激熱ですよ! ちなみに年上ですか!? 年下ですか!?」
「年……上っす」
「年上と言いますと、三年生ですね!」
さすがは恋愛脳というべきか、桜の顔は今までで一番輝いていた。
「さぁさぁそれではいよいよ、クラスと名前の発表を……!」
「三年一組の……」
「一組の……!?」
「――乙姫宮子」
「ぉ、おほー!」
桜は興奮のあまり悶絶し、
「なるほど、乙姫さんでしたか」
白雪は目を丸くした。
「へぇ……そりゃまた凄ぇのを狙ってんだな」
夜霧が惚れたのは、白雪冬花と同じ『白凰四大御伽姫』の一人、乙姫宮子。
白凰学園でも一・二を争う、絶世の美少女だった。