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始まりの一歩

 食事の後、今後の動きを二人で話していたら、かなり時間が経っていたらしい。


 入った時には昼過ぎぐらいだったはずだが、店の外に出ると、既に日も落ちかけていた。



 そういえば、今夜の寝床を確保して無いなと思いつつ、気になったことを彼女に尋ねる。



「アルルカは、いつもはどこで寝泊まりしてるんだ?」



「私ですか?屋根のあるところで外蓑に包まっていたり、寒い季節は下水の水路の中で寝たりしますね。どこかに拠点を構えるほど安定した収入はとても見込めないので」



 彼女は思ったよりも壮絶な生き方をしているようだ。平然と言う彼女にやるせない気分になる。


「なら、どこか安い宿を知らないか?二部屋借りれそうなところで」



「心当たりはありますが。本当に私は大丈夫です。慣れていますので」



「いや、俺が気にするんだ。もし、アルルカが宿に行かないなら俺も行かない」



「ですが、流石にそこまでしてもらうわけには」



「これは男の意地ってやつだ。引く気はないぞ」



 俺は育ての親に似たのか昔からこれだと決めたら梃子でも動かなかった。有難迷惑だというやつもいるだろう。だが、人間なんて皆自分勝手だ。だったら、自分の正しいと思うことをすればいい。



「……わかりました。ありがとうございます」



 そう考えながらしばし見つめ合っていると、彼女が先に折れ、そう答えた。



「自分勝手言って悪いな。だが、俺はこういうやつなんだ。すまんが慣れてくれ」



「異世界の方は皆アマギ様のようなのですか?」



「いや、俺は変わり者の部類だと思うぞ?昔からそう言われてきたし。周りとぶつかることも多かったしな」


 

 あまり周りに流されないタイプだったために周りと喧嘩することも多かった。今では多少は処世術を学べているはずだが。



「そうなのですか…………でも、私は、出逢えたのが貴方みたいな人でよかったと思っていますよ」


 彼女は少し恥ずかしそうにそう言う。そして、それを隠すようにこちらの反対を向くと早い歩調で歩き始める。


 そして俺は、その反応を見て嬉しくなり、すぐに彼女を追いかけたのだった。





 しばらく歩くと宿屋らしき建物が見えて来たので、中に入り手続きを済ませる。明日の予定は食事の時に話したので、特に問題は無い。


 

「とりあえず、明日は朝からコロッセオに向かおう。じゃあ、またな」



「はい。また明日」






◆◆◆◆◆





 翌朝、コロッセオに着くと彼女は観客席へ、俺は控室へと向かった。

 

 そして、待っていると俺の番が来る。


 

 今回は片手剣と盾を持った獣人のようだ。素早さは高いように見える。



 とりあえず、今日は眼の能力を色々と試すことにしていたので昨日のように一発で倒してしまわないように気を付けよう。



「お前ら、今日も頼むぞ。体の強化は最低限でいいから」


≪はーい≫


 

 相手に聞こえない程度の小声で精霊に語り掛けていると、運営のアナウンスが入る。



『それでは、両者構えてください……試合開始!!』



 相手は駆けると同時に、腰に装備していたらしい木製の短剣を複数放ってきた。



 予備動作がほとんどなく放たれたそれは本来は意表を突くものになったなるだろう。


 だが、意識を集中した状態ではまるで止まっているかのような速度に見える。それに、射線がどこに向かっているかに思考を傾けるとどの場所に飛んでくるかが明確に分かった。


 

 そして、それは相手の動きも同じで次にどこへ向かおうとしているかがわかる。


 

 近づく相手が剣を横薙ぎに払う、次に三連続で突き、その後は左手の盾で殴りつける。



 相手の動きを先回りするように最低限の動作で避けていく。



 

 どれほどそうしていただろうか。やがて、相手の体力が限界を迎えたようで勢いが弱まっていき、心が折れたのか降参の意を示した。



『勝者、アマギ!強い、強すぎる!!これからどうなっていくのか目が離せません』



 昨日のように歓声を浴びながら控室に戻る。そして、集中を切ると体が少し重く感じる。

 


「なるほど。やっぱりかなりの負担があるみたいだな。」 



 精霊たちが回復をしてくれるので問題にならないが、長時間の使用や、能力の使い過ぎは危険かもしれない。



「だが、手ごたえはある。このまま色々な能力を試させてもらおう」



 俺は、そのまま、一日中試合に臨んだ。

 







  

【杖を持ったゴブリン】


 開始早々、火球、風の刃、雷撃、氷の杭等が一斉に放たれる。だが、集中し、防御をイメージするとそれらが全てかき消えた。


 そして、そのまま相手の魔力が尽きるまで繰り返し、勝利。




 



【二刀を扱うリビングアーマー】


 相手は非常に洗練された剣技を見せるが、その動きをコピーし応戦していく。慣れない動きに体が悲鳴を上げるが、順応者のスキルのおかげなのか不思議なほどの速さでそれが馴染んでいく。

 

 そして、同等の技量に予測を併せ、競り勝つ形で勝利。







◆◆◆◆◆






 昨日の反省を生かし、人ごみに掴まらないように目立たないようにコロッセオを出ると、アルルカと合流する。


 

「どうだった?」



「凄いとしか言いようがありませんね。やはり、その眼の能力は次元が違うと思います」



「だよなー。改めて意識するとこりゃ強いわ」



「はい。あとは使用に慣れていくのに加え、魔術等の習熟も重ねていけばいいかと思います」



「そうだな。とりあえず、今日は大成功ということでお祝いをするか」



 全戦全勝で賞金もたんまりと貰ったし少しは散財しても問題ないだろう。



「お祝いですか?」



「ああ。めでたいときはパーッとお祝いするもんだ。嫌か?」



「……いいえ。ただ、その光景を見ることはあっても、あまり、自分自身で経験したことが無いものですから」



「なら、なおさらお祝いしよう。俺たちの第一歩だからな。これを祝わずして何を祝うんだ」



「そう、ですね。そうかもしれません。では、酒場へご案内しましょう」


 

 彼女は戸惑いもあるのだろうが、それ以上に期待しているように見える。


 少しでも楽しい気分になってくれるのならそれで俺は満足だ。



「頼む。今日は好きなだけ飲んで、食べてくれ。あ、ちなみに女の子に奢るってのも男の意地みたいなもんだからそれを断るのは無しな」



 おどけたようにそう伝えると、彼女は以前よりも柔らかい笑顔で笑った。



「ふふっ。男の意地というものはたくさんあるのですね。わかりました。甘えさせて頂きます」



「まあ、今日は細かい事は無しだ。今後の英気を養うためにも楽しんでくれ」



「はい。ありがとうございます」



 そう言って二人で夜の街に繰り出す。彼女は最初は落ち着かない様子だったが、お酒を飲み始めると少しずつ緊張がほぐれてきたようで柔らかい雰囲気になっていった。


 だが、彼女はほろ酔いの状態で楽しそうにしながらも、フードを深く被りその姿を隠し続けている。


 恐らくそれは、これまで彼女がどれだけその容姿によって傷つけられてきたかの証だろう。



 俺は、目の前にある酒の入った杯を飲み干す。


 いつか、彼女が身を隠さずとも生きていけるような世界にすることを。そして、いつも笑っていられるような世界にすることを。そう自分自身に誓う意味を込めて。

 


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