エピローグ
シャルロット達が出立し、しばらくが経った頃。
膨大な魔力が空を徐々に覆い隠し、黒く染め上げていくのが分かった。
「………………これで、終わり」
まるで夜になってしまったかのような暗さ。
この力の持ち主が誰かを知っている者達でも驚いてしまうような力に、民達が動揺しているのが視える。
「しばらくは、このまま、か」
恐慌状態になり、暴れるものがいない間は放置しろと伝えてある。
これは、彼らの心に象徴を刻み込むための楔、印象が強すぎるのに越したことはない。
(…………我慢も大事だ)
安心させてあげたいという気持ちをぐっとこらえ、耐える。
王である以上、心のままに行動することを抑えなくてはいけない時もあるのだから。
「………………上に立つ者は、孤独か」
それは、確かに事実なのだろう。
重責を背負い、全ての報いが自分に降りかかる。
「でも、俺はそうじゃない」
信頼できる人が、相談できる人が……そして、弱音を吐ける人たちがいる。
王だなんだのと言われても、結局俺は何も変わらない。
脆くて、弱いそんな男だ。
だから、みんなが支えてくれなければここまで歩き続けられることもなかったのだろう。
「…………よし。とりあえず、理想の国でも作るとするかな」
終わりは始まり。
昔のがよかったと、力で全てが決まる単純な世界がよかったという者もいる。
今がいいと。強い者に全てを奪われず、我が子を守れる今の世界がいいという者もいる。
正直、俺の掲げた優しい世界というのは曖昧で、移ろいやすいものなんてのは理解しているのだ。
でも、それで笑える人がいる。前よりも、たくさん。
生きていける人がいる。前よりも、たくさん。
なら、それでいい。もし俺が間違い始めたら、きっと俺の大事な人達がそれを正してくれるはずだから。
◆◆◆◆◆
統一歴、八二七年。
建国宣言以来、多くの生徒達を送り出してきたこの学校に、再び新しい雛たちが入ってきた。
「では、まずこの国の歴史から話すとしよう」
「「えー、いいよ別に。もっと楽しい話がいい」」
「静かにしなさい!これは、誰もが知っておくべきことだ」
「「…………はーい」」
「よろしい」
未だ、魔力のみで世界が動いていた時代。
力が強い者が奪い、そうでないものは奪われるだけ。
暗黒の時代と呼ぶ者もいるようなその時に、突如として現れた偉大な王を知らぬ者はいない。
あらゆる魔族を束ね、魔界を統一し、王の中の王と呼ばれた『魔皇帝』。
そして、月を思わせる銀色の魔力を纏った彼の側にいる五ツ星と呼ばれる者達も。
彼らは世界を変え、全てを手に入れ、全てを捧げた。
優しい世界、その実現のために。
故に、今の世界がある。
手を伸ばせば、努力すれば確かに届く世界。
魔力以外の価値観に溢れ、可能性を見出せる世界が。
「わかったか?自分達が、今どれだけ恵まれた時代を生きているかを理解するんだ」
「でもさ、先生。前の方がわかりやすいよね」
「そうだな。確かにわかりやすい。しかし、だからこそ残酷だ。お前は鬼人族より強いか?」
「え、そんなわけないじゃん」
「なら、お前は奪われる者だ。全てを奪われ、その日を食つなぐことすらできぬかもしれない」
「そんなの、屯所にいけば解決してくれるよね?それか、保護局に食べ物貰いに行くか」
「……………………そんなものはないんだよ。その頃には、国すらない。ただ種族でまとまって、力のあるものが方針を決める。それだけだ」
言いたいことが少しは理解できたのだろう。
再開した講義に、先ほどまで見られていた面倒くささは薄まっているように感じた。
(……こうして、紡いでいくのでしょうな)
自分の師……バロン様に教えられたものは多くの者に引き継がれ、そしてそれがさらに次の者達に託されていく。
終わりは、始まり。
魔皇帝陛下がよく使っていた言葉は恐らくこのことなのだろう。
「…………まぁ、不滅の存在が使うべき言葉なのかはわからないが」
代替わりも必要だと言ってほとんど表舞台に立つことはなくなったものの、いまだ健在であることは知っている。
なら、それでいい。もし私達が間違い始めたら、きっとあの方達がそれを正してくれるはずなのだから。
個別の話は書くかもしれませんが、一応終わりです。
各色が終わった段階で畳みに向かっていたのでぶつ切りに感じてしまったら申し訳ありません。
この作品の一番のテーマは色。
お付き合い頂いた方はありがとうございました。




