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繋がれた手

 ガイオスの勝利がわかると、一瞬の静寂の後に大きな歓声が沸き起こった。

 リリスに悪意があるわけではない。それでも、自分たちにとって、なじみ深い者が勝ったことが嬉しいのだろう。

 


「すげーよなっ!さすがはガイオスの大将だ!!」


「おうよ!でも、相手もすげーな。あそこだけ大地が抉れちまってるぜ」


「ああ。俺達からすりゃ、どっちとも化け物みたいに強いわ」



 周囲の音を風の魔力で集め反応を窺うも、懸念していた悪魔族を侮るような雰囲気は一切感じられずホッとする。

 いや、むしろその力に畏怖を感じているようで、いい塩梅に落ち着いたのかもしれない。

 


「………………反応は、悪くないわね」


「ああ、よかったよ。きっと、俺ではああはいかなかったはずだから」


「ふふっ。強すぎるというのも大変よね」



 遠目に視えるリリスの顔は晴れ晴れとしていて、不満を抱いている気配は一切ない。

 でもきっと、それはガイオスの竹を割ったような性格があったからこそで、俺が同じようにすれば相手はまた違った感情をぶつけてきたのだろうと思う。

 

 明らかに手加減されたと、侮辱されたと、そう思われても仕方ないほどにはリリスと俺の間に差があるはずだから。



「でも、まぁよかったわ。情報操作はしなくても済みそうだし」


「………………いつも、悪いな」


「別にいいわ。これは、私が一番向いている仕事だもの」



 国が大きくなればなるほど、そこに属する人の気持ちの流れを予測するのは難しい。

 しかし、それでも黙って見ているわけにもいかないのだ。

 継ぎ接ぎだらけの不安定なこの国においては、少なくとも歩いていく方向だけはある程度揃えていく必要がある。



「辛かったら…………いや、なんでもない」


 

 レオーネの強い視線に、代わるから、とその続く言葉を飲み込む。



「ほんと、貴方はどうしようもない人ね」


 

 呆れたように笑いながら言われたその言葉に対して、ただ肩を竦めて返すと、彼女の笑みが少しだけ柔らかいものに変わるのが見えた。



「バロンとアルルカには、結果は伝えておくわ」


「頼む。俺は、もう少しここにいなくちゃいけないから」


「ええ。じゃあ、また後で」


「ああ。また」



 相手の感情次第では、対応を変えるつもりだったものの、どうやらこのまま歓迎の宴は開くことができそうだ。

 ほとんどの力を使い果たしてしまったのか、ガイオスに背負われながらこちらへと近づいてくる、機嫌の良さそうなリリスの顔を見てそんなことを思った。








◆◆◆◆◆







 悪感情が向けられた場合に備えて一応周囲から距離を取って設けていた悪魔族の観覧席。

 その一番奥では、最後まで俺の隣にいると言い張っていたシャルロットが不貞腐れたような様子で大きな椅子に座っているのが見えた。



「では、アマギ殿。これから、世話になる」


「いや、ルシエル。こちらこそ、よろしく頼むよ」



 何も言わない主に苦笑しつつ、ルシエルが集団を代表してこちらに言葉をかけてくれる。

 後ろに立つ者たちが何も言わないことからも、しっかりと意見をまとめてくれたようだった。



「しかし、思った以上に強い戦士がいるものだね」


「ああ。自慢の仲間だよ」


「はっはっは、それは良いことだ。それに、こちらにもいい影響を与えてくれたようだ」



 少しだけ回復してきた様子ではあるものの、未だガイオスに背負われているリリスがバツの悪そうな顔で視線を背ける。

 その顔はほんのりと赤みを帯びていて、どうやら彼女は照れているようだった。



「昔から、お転婆な娘でね。そのくせ、私くらいしか手に追えなかったから大人しくなって何よりだよ」


「………………うるさい」


「はっはっは。まぁ、これからは君に面倒を任せようかな」


「おいおい。俺はそんな柄じゃあねぇぜ?一緒になって暴れちまう方だ」



 あまりにも素直なガイオスの台詞に、リリスとルシエルがキョトンとした顔をした後、体を震わせて笑い出し始める。



「なんだよ?」


「ははっ、いや、ちょっと面白くてね」


「ふっ、ふふふ。それも悪くはないかもしれんな」


「は?」



 理解できていないような顔は、余計に彼らのツボにハマったようでしばらくの間笑い声が響く。

 そして、やがてそれが収まった後、笑みを深めたルシエルが奥の方に手を向け、俺をそちらへと促した。



「では、我らが主のエスコート役は任せるよ」


「はぁ、面倒なだけだろ?」


「はっはっは。そうとも言うね」



 眉間にしわを寄せ、不機嫌ですと訴えかけてくるようなシャルロット。

 それを阻む者はもはやおらず、俺は諦めてゆっくりとそちらへと歩みを進めていく。



「シャルロット」



 そう声をかけると、紅い瞳が、濃厚な魔力と共に鋭く向けられ俺の後ろにいる悪魔達が少し騒めくのがわかった。


 同族ですら怖れを感じさせるような圧倒的な力の片鱗。

 でもそれは、ただ拗ねているだけなのだと、なんとなく伝わってくる。

 


「お待たせ、迎えに来たよ」


 

 そして俺は、あの日のようにもう一度手を差し出した。

 外へ行こうと、そう誘ったあの日のように。



「…………ん」



 繋がれた手の後に続く、とびっきりの笑顔。

 それは、まるで雲の隙間から顔を出した太陽のように眩しく感じた。


 

 


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