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世界への反逆者

 彼女は、力の残光が舞い降りるのを黙ってみていた。そして、それらが全て消えるとこちらをじっと見つめる。



「…………期待してもいいのでしょうか」



 その瞳には、疑念、期待、二つの感情が混ざり合っているように見えた。だから、俺はその目をじっと見つめ、強く言い切る。



「ああ。任せてくれ」



「…………私が返せるものなんて何もありませんよ?体を求めるというならそれはできますが」



 彼女は、俺の目線から逃げるように俯くと、弱々しくそう問いかけてきた。



「別に何もいらないよ。俺は、自分の信念を貫くためだけにそれをするんだから」



「…………そうですか」



 まだ、迷いがあるのかもしれない。彼女は黙り、沈黙が流れる。


 だが、その瞬間、力を使った影響なのか、俺の腹が盛大に空腹を訴えてきた。


 真面目な雰囲気が台無しになる。



「あー…………やっぱ訂正。この世界のことを君が教えてくれるのが交換条件ってことにしよう。とりあえず、飯屋を教えてくれ。気づいたら、今にも倒れそうなくらい腹が減ってきた」



「……ふふっ。わかりました。ご案内します」



 彼女は一瞬ポカンとした顔をした後、微かな笑顔を浮かべてそう答える。


 恐らく、彼女は気づいていないだろう。俺の顔が照れからくる赤みを帯びていることに。



 初めて見た彼女の笑顔は、少々刺激的過ぎるくらいには可愛かった。



 


◆◆◆◆◆




  

 彼女は、鞄に入れていた頭までをすっぽりと覆う外蓑を身に纏うと、表通りへと俺を誘導していく。


 怪しげな雰囲気だが、それほど周りは気にしていないようだ。


 というより、明らかに人外の外見をしたやつも多いからどちらかというとインパクトは控えめなようにも思える。



「いつもその姿なのか?」



「そうですね。外見さえ見せなければ私も普通に過ごせますから。この街は、良くも悪くも強さだけが評価される場所ですので」



「なるほど。それじゃ、ここを治める奴は相当強いってことか?」



「はい。この街を治めるガイオスは接近戦で無類の強さを誇る鬼人族の中でも、飛び抜けた強さを持つ男です。その証拠に、彼に挑んできた数々の強者が赤子を捻るほどに容易く叩きのめされてきました」



 そんなに強い奴なのか。だが、彼女との約束を守るためには、いつかぶつかることになるだろう。とりあえず、協力者もできたことだし、客観的な自分の立ち位置を知る必要があるかもしれない。


 そんなことを考えていると、店に着いたようで、彼女が中に入っていく。そして、俺もその後に続いた。






◆◆◆◆◆




 

 二人で食事をしながら話をする。



「そう言えば、なんて呼べばいい?」



「アルルカとお呼び下さい。アマギ様」



「わかった。けど、俺のことも呼び捨てでいいぞ?」



「いえ、これは口癖みたいなものなので」



「ならいいけど」


 

 それを聞いて、これまで彼女が他人とどういう距離間で接してきたかがわかる。


 俺は、その考えを振り払う意味もあり彼女に質問を投げかけた。

 


「アルルカは、天眼族ってどんな種族か知ってるか?俺は前の世界から魂だけ送られてな、その入れられた先がその種族のものだったみたいなんだ」



「天眼族ですか。一度だけ文献で見たことがあるだけですが、そこにはこう書いてありました。『神の眼を持つ者』と。その目は多くの異能を兼ね備えているそうです」


 

 遠視や透過に始まり、見えざるものを見る能力。


 相手の動きの予測や動作をコピーする能力。


 そして、スキルや魔術等を打ち消す能力を彼女は挙げていった。




「身に覚えのあるものも多いな。正直、かなり強そうな種族だと思うんだけど何でそんなに表に出てないんだ?」



「確かに能力自体は非常に優秀です。ですが、その行使には膨大な魔力を必要とし、極短時間しか使用できないそうです。加えて、身体自体も貧弱で、魔界の戦乱の中で他の弱小種族と同じようにそのほとんどが死に絶えたと言われています」



 そう言われて思い出すと、最初は数分使うと立てなくなっていたような気がする。精霊が力を分け与えてくれるようになってからは、そんなことは無くなっていたが。



「なるほど。ちなみに、魔力ってのはどんなもんなんだ?」



「魔力は、ほぼ全ての魔族が持つもので。身体強化や魔術に使用されます。私は実際に持っていないのであくまで聞いた話になりますが、魔力を消費することでイメージに即した力を行使できるようです。例えば、火の玉を放つとかですね」

 


 とりあえず、マッチの火をイメージして指を立てる。そうすると指の先に小さい火が発生した。どうやら呪文とかは必要ないようだ。



「これが、魔術か。これまでずっと精霊に頼んでやってもらってたから気づかなかった」



「アマギ様のものは少々特殊ですが、精霊に力を借りて行使するものを精霊術と呼びます。普通は、精霊と会話なんてできないので、精霊語と呼ばれる特殊な文字を何かに刻み込み、それを見せることで意思疎通を図ります。ですが、それが精霊に上手く伝わらないことも多く、手間がかかるうえに、威力の不安定な精霊術を学ぶ魔族は本当にごくわずかなんです」



「なんとなくわかってきた。つまり、この眼と精霊と会話できることが俺の強みってことだな」



「そうですね。アマギ様の精霊術は消費無く安定した魔術を放てるようなものですから。それに、精霊から魔力を取り込んでいるのですよね?ならば体が負荷に耐えられるところまでは眼の連続行使もできるでしょう。まあ本来、彼らはとても気難しいので、魔力を分け与えるなんてことはしないはずなのですが」


 

 俺の周りを飛んでいるこいつらは、飽き性だが特に気難しいと思ったことは無い。


 だが、戦場で楽し気にしていたところを見るにもしかしたら感性が大きく違うのかもしれない。




「よし!話を聞いているうちに、何となくいける気がしてきたよ。とりあえず、体を慣らすところから始めるか」



「それがいいかもしれません。まだあまり実戦経験は無いのですよね?」



「ああ。野生の動物を除けばまだ一戦だからな。けど、なんとかなるさ。任せとけって」



「……アマギ様は強いですね。その在り方が私には眩しく見えます」



 自分に自信が無いのだろう。表情にそれが見てとれる。



「俺よりもアルルカのが凄いよ。異世界があることや天眼族の知識を文献で見たと言ってたよな。これは勝手な想像だが、そんな境遇で知識を得るのは大変だっだんじゃないか?」



 彼女は、それに驚いた素振りを見せた後、微かに頷いた。



「ですが、これは……生き残るために仕方なくしていたことです。ほとんど無駄な努力ではありましたが」



「いや、無駄なんかじゃない。事実、今それに助けられている。だから、証明してみせるよ。その頑張りは確かに意味があったってことを。そして、俺も努力する。君に見合うようになるために」



 俺は、そこまで言い切ると拳を前に差し出す。


 そして、しばらくの逡巡の後、彼女もそれに拳を合わせた。



「アルルカ、俺たちは仲間だ。この理不尽な世界に反逆する、たった二人だけの仲間。だから、俺を信じてくれ。俺もお前を信じるから」


 フードに隠れ、顔は良く見えない。だが、その合わせた拳の震えが、彼女が泣いていることを教えてくれた。


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