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広がる灯火

 その場に流れについていけずに、何も言えないまま時間が流れる。



「ふむ。では、海人族の方はバルベリース殿で対応するいうことでいいかね?」


「いい」



 しかし、どうやらバロンはそうではなかったようで、呆けたような俺を一瞥すると、場を取り回し始めた。

 


「貴方もそれでいいな?」


「え?あ、ああ」


「がっはっはっは。こりゃ、面白いもんが見れたな」



 どうやら、今の俺は相当間の抜けた顔をしているのだろう。

 ガイオスが、腹を抱えながら、こちらを見て笑っている。



「それに、あんたのことは訳の分からないやつだと思ってたが。ちょっと、気に入ったぜ?」


「あら、それは光栄ね。でも、誰もが貴方ほどわかりやすくはいられないのよ」



 言われて見ると、ガイオスとレオーネが二人だけで話していることは確かにほとんど見たことはなかった。

 当然、険悪なわけではない。ただきっと、お互いの気質が正反対なほどに違い過ぎて、深く関りをもってこなかっただけなのだろう。



「ああ、今ならわかってるつもりだ。俺は強い、だからこそ好き勝手出来てるってことに」


「……そうね。その通りよ」


「だけどな、俺みたいな頭の足りないやつは、あんたやバロン、それにアルルカの嬢ちゃんみたいに何でも理解できるわけじゃないんだ。言いたいことがあるなら、はっきりと言ってくれ。そうじゃなきゃ、俺は分からない」


「…………確かに、そうよね。貴方、あまり頭はよく無さそうだもの」


「がっはっはっはっは!言うじゃねえか。でも、正解だ。戦事以外は、正直わからん」

 


 放たれた鋭い言葉に、あっけからんと笑い声を上げるガイオス。

 その反応に戸惑っていたようなレオーネは、やがて降参したような様子で苦笑いを返した。



「……私も、貴方のこと少しだけ、気に入ったかもしれないわ。ほんとに僅かばかりだけど」 


「それでいい。あんたもどうせ、かしらの下にずっといるんだろ?なら、米粒一つ分だけでも、少しずつ集めて、そしたら、最後にはデカいやつができてるさ」


「ふふっ。単純な考えね」


「単純でいいじゃねぇか。そっちのがわかりやすい。なぁ、食いしん坊の嬢ちゃん」


「いい。お米は、最強」


「がっはっはっ。ついでに、酒も最強だ」


「…………あれは、いらない」


「そうか?あんなに良いもんはないんだが」


 

 不思議な関係。それでも、輪は確かに、広がっていっている。

 俺が取り持たなくても、着実に。



「まぁ、ほどほどにしておけよ。君が給金を使い果たして泣きついてくるのは一度や二度じゃないはずだろう?」


「つれないこと言うなよバロン。部下と仲良くなるための必要経費ってやつだ」


「はぁ。アルルカ嬢がいつも、上手く回してくれているのを忘れるなよ?」



 確かに、財政のほとんどはアルルカが担っている。

 魔力も無く、頼れるような伝手もない、そんな全てがない中で生き抜いてきた彼女の仕事ぶりは、極めて無駄がなく、それでいて弱いところへもしっかりと手が伸びているようなものだったから。


 そして、俺がアルルカの方を見ているのがわかったのか、それに気づいた彼女が少し照れたように顔を伏せるのがわかった。

 


「……いいえ。私は、別に大したことはしていないので」


「いや、そうでもないだろう。はっきり言って、君がいなければ拡大し続けるこの国の予算はとうの昔に破綻していてもおかしくはなかった」


「ああ。俺も感謝してるんだぜ?部下達もアルルカの嬢ちゃんの言うことなら、素直に従うしな」


「…………ありがとう、ございます」



 ずっと、自信のないアルルカ。

 過去の中で擦り切れてしまったその自尊心を立ち直らせてあげるのは、並大抵のことではできない。

 俺の時がそうだったように、長い時間がかかるものだと理解している。



「アルルカ」


「え?あ、その、はい」



 帰ってきた時に話したはずなのに、なんだか、ずいぶんと久しぶりに言葉を交わすような気さえする。

 戻りつつあった自信を再び失い、以前のように怯えの感情を宿したその瞳の理由はまだよくわかっていない。

 だけど、それなら、俺は彼女を勇気づけてあげるだけだ。

 何度も、繰り返し、無理はさせずに、心に寄り添いながら。  



「いつも、ありがとうな」


「………………」


「すごく感謝してるんだ。本当に」


「…………はい」


 

 はにかむようにして向けられた笑顔に、何となく頭を撫でたくなって、手を上に乗せると体が一瞬びくっと震えたのがわかった。



「いや、だったか?」


「…………いいえ。少し、驚いただけです」



 小さな家に一緒に住んでいた時、初めてのことに戸惑いながらも、必死で頑張る彼女にこうしていたことを何となく思い出す。 

 


「俺は、アルルカに会えて本当によかったよ」


「……はい。私もです」



 ようやくしっかりと交わった視線に、映り合うお互いの笑顔。 

 始まりは、二人だけだった。

 そして、今はその周りを頼もしい仲間たちが取り囲んでいる。

 


 当然、それはいいことだと思うし、こうなるまでに歩んだ道を誇らしくさえ感じる。

 だけど、今だけは……あの小さな、何もなかった家をなんとなく恋しく思ってしまったのだ。 



多くのキャラの会話シーンを描ける人ってすごいなと改めて思います。

ごちゃごちゃしてめちゃくちゃ難しい(笑)

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