お米会
城の中をシャルロットに順番に案内していると、すぐに宴の時間になっていた。
本人も、厨房と俺の部屋くらいにしかあまり興味は無さそうなのでもしかしたらあまり必要は無かったのかもしれない。
「とりあえず、行くか」
「ん……お米食べに行く」
「ははっ。さっきからそればっかりじゃないか」
「私は、主役」
「ああ、そうだな。主役の好きなようにしてくれていい。さすがに、他の人とも仲良く欲しいけどな」
「…………気が向いたら、頑張る」
俺以外に頑なに名前を呼ばせないほどにプライドが高く、自分に絶対の自信を持っているシャルロット。
だが、しばらく考えていたようだった彼女は、それでも、歩み寄ることを選んでくれたらしい。
「ありがとう。助かるよ」
「……嬉しい?」
「ははっ。ああ、すごく嬉しい」
「なら、いい」
未だ彼女の放つ圧倒的な存在感に、怖れを抱き、遠巻きにしか関われない者も多い。
でも、それもいつかは大丈夫になると思う。
だって、この城にはアルルカがいる。
忌み嫌われる白に彩られた彼女が。そして、今は誰からも好かれている彼女が。
「…………まっ、なるようになるか」
「?」
「すまん。独り言だ」
いつか、一緒に笑える日が来るといい。
俺は、そう思いながら宴の会場にシャルロットを連れていった。
◆◆◆◆◆
目の前には、彼女の要望通り山ほどのおにぎりが置いてある。
それに、以前俺が伝えた話を覚えておいてくれたのかしっかりと海苔もどきが巻いてあることに少し感動する。
「皆、今日は集まってくれてありがとう」
盛大な歓声と、興奮したような笑顔。
それに手を振り応えながら視界を広げると、女たちの服装がより華やかになり、男たちの肉付きがさらによくなってきているのがわかった。
「まず、知っている者もいるかもしれないが、伝えておく。俺達の夢に、悪魔族も協力してくれることになった」
その言葉に、先ほどまでの笑顔は移り変わり、それぞれ異なる表情が浮かびだす。
喜び、安心、それに畏怖と不安。
これだけで判断することは難しいが、未知の存在に戸惑っている者も多いように思える。
「安心してくれ。俺は、変わらない。今までと同じ、お前たちにとって優しい王であり続ける」
最強の魔族。
やはり、それは、良くも悪くも、人の心に大きな影響を与えるようで予想以上の反応を起こしていた。
なら、俺はそれを静めなければいけない。それが、双方にとって不幸な結末を生まないようにするために。
「それに、強大な力を敬えど、怯える必要はない。全て、変わらず、今まで通りだ」
「そうだぞ、お前らっ!!一番強いやつは変わらねぇ。俺達の王が、最強だ」
後ろから突如響いたガイオスの大きな声に驚くも、その言葉に民衆が納得しつつあるのがわかり嬉しくなる。
俺は、本当に仲間に恵まれている。こうして、至らぬ王を何度も助けてくれるのだから。
「…………仲良くなることを強制もしないし、あくまでお互いの意志を尊重する。だけど、少しでいい。歩み寄って欲しいんだ」
それぞれに壁があることは当然把握している。
シャルロットにしてみても、おにぎり以外の周りをあまり気にしていなさそうなのがその証拠だろう。
王たる力を持つ彼女と、それ以外の非力な者達。同じ視野で物事を見れるはずもない。
だけど、それでも俺は出来るだけ仲良く、手を取り合って、歩んでいって欲しいのだ。この国の始まりがそうだったように。
「何度も言うが…………俺は、変わらない。だから、これからも手を貸してほしい。優しい世界を作るために」
多種多様な種族が混ざり合い、力を合わせながらこの国は成り立ってきた。
だから、願わくば彼女も……孤独な、時の牢獄の中でたった一人泣いていた彼女もその輪の中に入れてあげて欲しい。
力だけでは、救われないこともあるから。
「それだけだ。悪い、長くなったな。じゃあ、いつものやつだけやるとしようか」
そして、その言葉と共に俺が空に浮かびあがると、何故かシャルロットも同じようについてくる。
「どうした?別に、何もしなくてもいいぞ?」
「手伝う」
「…………そっか。なら、二人だからこそできることをしようか」
「ん」
彼女のことを、皆にも知って欲しい。
言葉数が少なくて、表情もわかりづらいやつだけど。それでも、優しくて、どこか抜けた楽しい女の子だと知って欲しい。
「そうだな。うん、あれでいいか」
「なに、するの?」
「ははっ、見てれば分かるよ。とりあえず、黒い四角型を作って貰っていいか?」
「ん」
濃厚な魔力と共に空中に綺麗な四角型の魔術が展開されると、その強すぎる力に民衆が動揺するのが視える。
「ああ。怖いだけじゃ、ダメだ。世の中、ギャップがなきゃな」
そして、俺は彼女の魔力を邪魔しないよう自分の魔力を丁寧に編み上げ、展開する。
「……美味しそう」
「ははっ。すごいだろ?」
「すごい。ユウトは、本当に、すごい」
目の前には巨大な銀色の三角と、それに少し被さるようにして組み合わされた黒色の四角。
その、まるでおにぎりのような形の力の融合は、押しつぶされてしまうほどの魔力を伴っていることには変わりはない。
「ありがとう。それに、みんなも同じようなことを思ってくれたみたいだしな」
しかし、先ほどまで不安げだった皆の表情は、驚きに、そして、やがて小さな笑顔になっていくのがわかった。
「……みんな、お米大好き?」
「どうかな?でも中には、同じくらい好きなやつもいるさ。見つけたら、美味しい食べ方を聞いてみればいい」
「ん。そうする」
大きな力は誤解を、孤独を招くのかもしれない。
だけど、きっとシャルロットなら大丈夫だ。
彼女は悲しみを知っている。そして、心の拠り所となる人の優しさも。
なら、間違いなんて起こらない。そう思うから。




