表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/57

留守を守る者

 その日の夜、政務を適当に切り上げた俺は、使用人たちに休むよう伝えた後、レオーネの部屋を訪ねる。


 ノックし、来訪を告げるとしばらくして扉が開いた。



「あら、珍しいわね」



 そこには、色香を漂わせる煽情的な服装をしたレオーネがこちらを不思議そうな顔で見ていた。



「夜分にすまない。少し、話があるんだがいいか?」


「……いいわよ。どうぞ、入って」



 中に入ると、部屋にはあまり物は置いておらず、簡単な私物と実用的な書物などしか置いていなかった。

 特に、見るつもりもなかったが、この眼が高性能なこともあり、様々な情報が入ってくる。



 例えば、窓までのルートに障害物が無く、有事の際の逃走ルートが確保されているらしいこと、ベッドの置いてある床の沈み込みが通常より深く何かしらのものが隠されていること。

 

 それに、バロンなど特殊なケースは別として、あまり魔界では本は流通していないし、そもそも読む者自体が少ないので、それが置いてあることも珍しい。

 


 彼女の慎重かつ無駄を好まない性格が顕著に出ている部屋だと俺には思えた。




「…………それで、どうしたの?夜這いにでも来たのかしら?」



 魅惑的な笑みを浮かべこちらを揶揄ってくるレオーネはとても魅力的だが、そのつもりは無いので首を振る。



「いや、違う。アルルカのことで、ちょっと頼みたいことがあるんだ」 


「アルルカの?ああ、落ち込んでたことへの対応ってとこかしら」


 

 ここ最近、彼女たちはよく一緒にいることは知っているし、そういった報告も上がっていた。


 最初は、この街に不慣れなレオーネをアルルカが引っ張るような形だったようだが、最近ではどちらかというと世情に疎いアルルカにレオーネが色々と世話を焼いていることが多いようだ。

 


「話が早くて助かる。まさにその件だ」 


「まぁ確かに、あの子は貴方のことを精神的な支えにしてる部分がありそうだし、影響は大きいかもしれないわね」


 

 やはり、彼女は人の機微という点にとても聡い。

 スキルがそちら方面に特化しているということもあるだろうが、恐らく、これまでかなりの苦労をしてきたのではないかと勝手に思う。


 人の性格は千差万別。それらを適切に分析するには、多くの人に関わることが必要だと俺は思っている。それに、善人から悪人、その関わった範囲が広くなればなるほどその精度は高まるはずだ。



「彼女は、人一倍頑張るし、息抜きの方法をあまり知らない。今までは俺もできる限り目を向けていたが、今回の遠征は少し長引く可能性も高い。だから、その間だけでもいい、彼女のことを気にかけてくれないだろうか」


 

 俺は、レオーネに対し、深く頭を下げてお願いする。バロンも気にかけてくれるだろうが、彼はとても忙しく、あまりそのことだけに目を向けていられないから。



「…………こんな大国の王様が、非公式とはいえ私なんかに頭を下げていいの?なんなら、命令すればそれでいいのに」



 レオーネは何やら思案気な顔をしてこちらにそう問いかけてくる。



「何度も言っただろ。俺は君の意志を尊重する。だから、俺も誠心誠意それを頼むんだ」



 この魔界では普通のやり方では無いのだろう。だけど、それこそ俺は弱小部族とも呼ばれる者達にも頭を下げてきた。

  

 必要なことを、必要なときに、必要なだけする。ただそれだけのことだ。



「はぁ、そう言われたら断りづらいわね。まぁ、いいわ。あの子に世話になった部分もあるし」

 


 会ったばかりの時であれば絶対に言わなかったであろうその言葉に俺はとても嬉しくなる。

 少なくとも、彼女の生活はしっかりとここで根付き始めてることがわかるから。



「ありがとう!すごく嬉しいよ」


「…………貴方、本当にズルいわよね。こっちの力が抜けちゃうくらいに」


「ん?どういうことだ?」


「いいの。貴方がそういうことを計算するタイプじゃないのは大体わかってきたから」

 

「ん?…………………ああ!交渉事の時とかは計算するぞ?だけど、俺はこの国の仲間達を大きな家族のように考えてる。なら、その時は誠意が一番重要だ」 

  

「家族、ね。今だから正直に言うけど、私はその言葉、反吐が出るくらい嫌いなの」



 彼女は苦々し気な表情で、そう言う。あまり過去を話そうとしない彼女にとってそれほどまでに嫌な記憶が伴うものなのだろう。



「そうか、それは悪かった」


「…………………いいえ。最近では、以前ほど嫌いじゃなくなったから。ふふっ、たぶん貴方のおかげよ」



 深く息を吐きだした後、彼女は優し気にこちらを見つめ、穏やかに笑いかけたきた。



「俺の?なんかあったっけ?」


「…………たぶん、わからないからこそ、いいの。だから、内緒にしておくことにする」


「めちゃくちゃ気になるが、まぁいいだろう」


「まっアルルカのことは暇なときにでも相手してあげるわ。それなりに、その分野は精通してることだし」


「ありがとう」


「どういたしまして」



 彼女は、奔放なようでいて、実は責任感が強い。それに、仕事をするときは慎重で抜かりが無く、極めて確実だ。


 それ故、俺は安心することができる。



 過去を話すことはほとんど無いし、考えていることもはっきりと表に出すタイプでも無い。

 

 それに、外見的にも誤解されやすく、悪意を集めやすい達でもある。



 だけど俺は、彼女が皆の幸せを最優先にし、自分をついでに考えるような優しい人だと知っている。だからこそ、留守を任せることができるのだ。 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ