祝杯
後日、改めて調整の機会を設けることを決め、帰国する。
行きは、戦闘前特有のピリ付いた雰囲気を伴っていたが、勝利をした帰り道ということもあり、兵士達の顔も穏やかだ。
そして、国境の砦を越えると、田畑を耕す人々の姿が遠くに見えてきた。
かつて、自分達の取り分を守ろうと周りと争っていた彼らは、もういない。
それに、兵士達の姿を見て安心したようにこちらに手を振っている。
取り立てるだけだった国の兵士達は、今は彼らを守護する盾となっていた。
昔は、こんな些細な光景ですらも、国中のどこを探しても見られなかった。
でも、今は違う。余裕のできた生活、期待の持てる未来にちゃんとその顔には笑顔が浮かんでいる。
以前、バロンやアルルカと共に何度も議論を重ねながら多くのことに取り組んだ。
定期的な兵士の治安維持、統一的な検地と権利の保障、飢饉に備えた社倉の国費負担による設置。
それに、今回の戦闘で使われた武具や銃器がその代表格ではあるが、その他にも農具や生活用具など、組織的な技術力を必要とする道具全般の大量生産についてもかなり力を入れている。
これまで、魔法が便利過ぎたこともあり、工業的な技術力は非常に拙く、ドワーフなど一定のノウハウを持っている部族でしか生産ができなかった。
高い魔力を持たない者達は自分達で食い扶持を作らなければならない、だけど、それを効率的にするには魔力が必要というジレンマ。
簡易的な農具であっても、それの投入による生産性の改善は劇的だった。
皆が手をとめ、俺達に手を振ってくれる。俺達は笑顔でそれに応え城へと向かった。
◆◆◆◆◆
街の門をくぐると、人口が多いこともあってこれまでとは比べられないほど盛大に出迎えられた。
兵士達が旗を掲げながら、歩みを進める中、勝利を祝うための花のカーテンが舞いあげられ、歓声が響く。
様々な種族の子供達がその光景を憧れの目で見ていて、男の子が木の棒を振り回して兵士の真似をしたり、女の子がセイレーン達の歌を真似したりしている。
未だ、種族間の差別を全て取り除けたわけでは無い。
だが、教育制度の導入もあり、弱小種族と呼ばれる者達も含めた複数の種族が同じ時、同じ場所にいる光景がよく見られるようになった。
幼い子供達は最も弱く、そして最も影響を受けやすい。
俺は、彼らの笑顔は国の豊かさの指標だと思っている。
彼らが笑って暮らせる国、そうでなければきっと理想の形にはならない。
だから、今、兵士達の真似事をして遊んでいる彼らが、そのまま真似事で終わればいい、そう思った。
◆◆◆◆◆
昼頃、俺は城に帰ると、帰宅の挨拶は早々に祝勝会の開始の合図をするために城の上、そのまたさらに上へと飛行魔法で上がっていく。
今日は、もともと国庫を開けての大きな祝勝会を予定していた。勝利の先触れを出したのもそのためで、既に国中にそれが通達されており、楽しい宴会の準備はほぼ終わっていた。
声を全員に届かせるのは難しい。だから、誰もが分かるような形で合図を出すことにした。
未だ不満を残している可能性のあるリザードマンやドワーフ達へ力を示すためにも少し手の込んだことをする予定だ。
そして、俺は空に浮かびながら精霊たちに話しかける。
「今日は祝いだ。盛大にやろう」
≪お祝い!お祝い!≫
濃密な魔力を集中させ、広大な空に薄い雲の輪を形作るようなイメージで広げていく。
そして、それは太陽の光を反射し、国中から見える天を覆うような煌めく日輪となり、幻想的な輝きを放つ。膨大な俺の魔力の残光である銀色の光を伴いながら。
下では、多くの民が呆然としてそれを眺めていたが、しばらくして歓声を上げながら祝杯をあげ始めるのが見えた。
「そうだ、宴の席は派手にいかなくちゃな。お前らも、いつもありがとう」
≪いいよ。変な王様、楽しいこと一杯教えてくれる≫
上機嫌に飛び回りながら妖精たちが口々にそういう。
時々こういった珍しいことをするが、彼らにとっても初めて見る景色が多いようで、いつも喜んでくれるから、こちらもついやりたくなってしまう。
雨雲にならないように滞留した水蒸気をすぐに霧散させると俺は高度を落とし、地面に降りていく。
樽を抱えて豪快に流し込むガイオスに、飲食不要のためワイングラスを持ち雰囲気だけ味わっているバロン。
穏やかな笑みを浮かべたアルルカに手を引かれ、戸惑ったようにその中に連れて行かれるレオーネ。
そして、周りには楽しそうな笑顔の人混み。
煌めく日輪は既に無い。しかし、下で広がる人の輪はそれ以上に強く、美しく輝いているように俺には思えた。




