背負った墓標
指定された平野に進軍すると、敵は既に布陣を終えているようだ
俺は、飛行して相手の代表に近づくと、その傍へ降り立つ。相手は、こちらを一瞥するだけで不機嫌そうな顔で鼻を鳴らした。
「本当に弱小種族ばかりのようだな。正に鎧袖一触。見世物にすらならん」
「すぐに結果はわかるさ。それで、お前達が負けたらこちらに全面的に降伏するということでいいんだな?文句を言ってもいいが、国の方針にはきっちり従ってもらうぞ」
「いいとも。だが、お前達が負ければ、その逆だ。そして、お前の首とあの女の首を貰い受ける」
「交渉成立だ。では、戦を始めよう。早く美味い酒が飲みたいからな」
「ふん。戯言を言えるのも首があるうちだ。精々今を楽しんでおくがいい」
お互いの軍が少し離れた場所で陣を敷いている。
そして、戦の始まりを告げる陣太鼓が鳴らされると両者は一斉に動いた。
リザードマン達が身体強化の魔法を纏い、凄まじい速さで進軍を開始する。どうやら、ドワーフ達と足並みを揃えるつもりは無いようで自分達の実力への自負がはっきりと伺える。
だが、まるで突風のように迫りくる強者に対し、こちらの軍は一切動揺することなく、瞬時に陣形を整えつつあった。
セイレーン達の歌声が周りに広がり、異なる種族でも伝わるように指示がなされる。
すると、鈍重だが力に優れるオークが巨大な盾を持って移動。四角い堅牢な陣を敷いた後、その下で複数のゴブリンとコボルト達が斜め上に突き上げるように長槍を構えた。
そして、その外側には、現代知識を元に試行錯誤して製作した単発打ち切りの大砲とマスケット銃を配置する。
リザードマン達が迫りつつある中、こちらの軍は冷静な面持ちでただただ相手を引き付けている。
そして、雷鳴のような音と共に一斉に放たれた砲弾と銃弾が相手の速度と合わさりつつ、彼らを切り刻んだ。
敵陣に広がる動揺に、勝機を得たと思ったが、さすがは優れた戦闘種族。そう甘くは無いらしい。
「狼狽えるな!!左右から周り込め!」
相手の指揮官がそう一喝すると、すぐにリザードマン達が態勢を整え突撃する。
だが、こちらの陣は要塞のように堅牢でリザードマン達は槍衾に貫かれていく。
「敵は鈍重なオークだ。動きで翻弄しろ!盾さえ突破してしまえば中からの攻撃で壊滅できる」
柔軟に思考を巡らし、的確な判断をする相手に対し、こちらもすぐに手を変える。
陣の中央に配置されたアイスマン達が、スキルで相手の温度をピンポイントに下げると、徐々にリザードマン達の速度を低下させていく。
更には、ドライアド達が木々の根を操作することで相手を転倒させた。
そして、倒れて無防備な相手に対し、動きの早いキャットマン達が追撃、陣の中を出たり入ったりして各個撃破していく。
数を減らされ、動きの鈍った相手。その後、決着が着くのはあっという間だった。
◆◆◆◆◆
リザードマン達の部隊が壊走すると同時にドワーフの部隊が姿を現す。
「リザードマン共が負けただと。総員、距離を取って警戒せよ」
相手とのにらみ合いが続く中、敵は岩石魔法による遠距離戦を仕掛けてきた。
だが、その全てを巨大で分厚い盾が阻み、こちらからは魔力を使わないマスケット、クロスボウの反撃が行われる。
「我らドワーフ以外にあのような武具が作れるとはな。それにあの遠距離の武器は何だ。魔力を使用しない魔道具とでもいうのか」
ドワーフは頑丈で、技術力に優れるが、魔力量はそれほど多くは無い。膠着状態が続くとともに、相手の方の焦りが強くなった。
「このままではジリ貧か。総員突撃の準備をせよ!オークの後続まで攻め込めれば我らの勝ちだ!!」
頑丈な体に分厚い盾を構え、犠牲を覚悟でドワーフ達が突撃を始める。
だが、その最中に再びセイレーン達の美しい声が響くと、こちらの軍は陣形を解除、これまで形作ってきたテルシオの陣形では無く、渦のような陣形、いわゆる車懸りの陣を構築する。
「何をするつもりだ?だが、好機か。こちらは少数でも個々の戦力では圧倒的。そのまま打ち倒せ!」
お互いの部隊が激突する。そのままドワーフ達が押し切ろうとするもこちらは渦状の陣形を回しながら新手を次々に投入していく。
そして、圧倒的な個体差がありながらも、戦力は拮抗。事前に魔力と体力を減らされたドワーフ達の戦力をさらに低下させていく。
戦闘は終始優勢だ。だが、あの陣形は諸刃の剣。こちらの被害も加速していた。
俺の眼には、あの渦の中、多数の命が飲み込まれ消えていくのがはっきりと見えている。だから、それから目を逸らさずに見つめ続けた。
「くそ!力を振り絞れ!!ここを堪えればあとはどうとでもなる」
敵の指揮官が味方を鼓舞し続ける。
しかし、最後の止めとしてセイレーン達が状態異常付与のスキルを伴った歌を歌い始めると、魔力と体力の双方を極限まで削られたドワーフ達が続々と睡眠状態に陥っていく。
そして、最後に残った指揮官をこちらが包囲すると、相手は降参の意を示した。
「……流石に勝てん。降伏する」
◆◆◆◆◆
「俺達の勝ちのようだな」
戦況の推移を呆然とした様子で見たいた代表達に告げる。
「……信じられんが、戦の結果は受け入れねばならぬ。それに、鬼人族無しでも勝てんのだ、ここで抵抗しても敗北は必至だろう」
もっと何か言ってくるかと思ったが、あっけない様子に意外に思う。
「案外素直なんだな」
「我らの種族は、戦を誇りとしておる。そして、戦では強いものが勝つのではない。勝ったものが強いのだ。正々堂々の戦の結果ならば我らは従わざるを得ん」
「そうか、ありがとう。正直、今の答えを聞いて貴方達ともうまくやっていけるような気がしているよ」
「……ふん。どうだかな」
戦は終わりを告げ、これでまた一歩、進むことが出来た。まだまだ先は長いが、それでもちゃんと近づいている。
恐らく、俺はこの先たくさんの死を見ることになるのだろう。だから、死んだ戦士達の顔はしっかりと心に刻み込み残していく。それが、俺の夢を一緒に背負ってくれた彼らにできる唯一のことだと思うから。




