その剣は折れず、曲がらず、全てを守る
城に戻ると、すぐさまアルルカ、バロン、ガイオスを集めて会議を行う。
レオーネにこれまでの経緯を説明してもらったうえでドワーフとリザードマンに喧嘩を売ってきたことを話す。
「がっはっはっは、流石は頭だ。そうでなくっちゃな」
ガイオスの地面を振るわせるような笑い声が響き、巨大な円卓すらも振動させる。
「まあ、仕方ないか。確かに、彼らの今の考え方では我が国の方針に馴染むのは難しかろう。一度思考の逆転をさせねばな」
バロンが冷静な声でそう呟くと、後ろに控えた分身体達が戦術案の作成を始めた。
「私は知っています。この国を守りたいのは私達だけではないこと、そして、彼らが必死に努力していることを。そうですよね、ガイオス様?」
アルルカは俺が無事に帰って来たことに安堵した後、終始笑顔で話を聞いていた。
そして、信じ切った目でガイオスの方を見るとそう言葉を投げかける。
「そうだ。アイツらはこの国の剣となって全てを切り拓くさ。たとえそれが戦に秀でたリザードマンやドワーフだとしてもな」
ガイオスは獰猛な笑顔でそう言い切ると、指示を出しに部屋を出て行く。
かつて自分の強さだけを追い求めていた彼はもういない。だが、それは彼は更に高みに昇らせようとしているようだ。
強さの象徴である蒼い鬼は今、護国の象徴として皆に愛されている。
「では、私は彼らの受け入れ体制を整えるとしようか。こちら側で見下すものが出始めては本末転倒だからな」
バロンはそう言って執務室に向かった。戦の勝敗が分かり切っているとでも言うように。
強者の代表格であったガイオスの変化に最も影響を受けているのは彼だろう。
強者は弱者の気持ちを理解することはできない、かつてそう言っていた彼は今ではその変化の可能性を信じているのだから。
「では、私達は祝勝会の準備をしましょうか?それに、貴方の好きな食べ物も教えてください」
アルルカが優し気な顔でそう問いかけると自分のことを指しているとは思わなかったのかレオーネが驚いた表情になる。
「私も参加するの?そもそもの原因なのに?」
「もちろんです。それこそ、この国は成り立ちが特殊です。昨日の敵は今日の友、それを繰り返してきたて。だからこそ、祝い事はみんなで、そう決まっています。ねえ、ユウト様」
「その通りだ。祝い事は皆でやった方がいいだろ?」
この国はもともと、平民達に余裕が無かったこともあってか祝い事をするような機会は全く無かった。それに、成り立ち故に多種族混成であることから国としてのまとまりに欠ける。
だから、祝いことも悲しいことも全て皆でやることにした。
最初は戸惑いもあったようだが、アルルカが勇気を振り絞って進んで姿を見せるようになってからはそれは急速に進んだ。
彼女には本当に感謝している。自分の外見へのトラウマで震える体を押さえつけながら、部屋から踏み出し、城から踏み出し、今ではその姿を見る者達へ勇気を与え続けている。
「……なるほど、これが貴方の言う家族ね」
「そうだ。すぐに慣れろとは言わない。でも、少しずつでもいい、知る努力をしてくれると嬉しい」
「わかったわ。貴方に救われようとしている命よ、望むとおりにするわ」
それではダメだ。そこには彼女の意志が全くないから。
「そうじゃない。もし君が馴染めなければそれでも構わない。俺は命令しているつもりはないんだ」
その部分だけは強く言い含める。
これまで、最終的な各自の意志を大事にしてきたからこそ国王との直接謁見制度や、方針に異論がある場合における、国外移動の支援策を整備してきた。
これはこの国の根幹だ、それ故彼女にも誤解して欲しくなかった。
「本当に変わった人。一度、考えてみるわ」
「ああ、そうしてくれ。俺は、君の意志を尊重する。例えそれが俺とは違うことであっても、誰かを傷つけないならば必ずな」
その言葉を最後に、アルルカとレオーネが部屋を出て行く。
綺麗ごとに過ぎないというのは分かっている。だが、綺麗ごとが唱えられるならそれに越したことは無い。
誰もは救えない、だが抱えたすべては守る。そう決めたんだ。
◆◆◆◆◆
相手との条件の確認、時期、場所等が全て終わり、戦の当日を迎えた。
自身は戦場に出ないが、闘気を漲らせたガイオスが武装を整えた兵士達の前に立つ。
「お前らの相手はリザードマンとドワーフの連合軍だ。魔界の中でも屈指の戦闘種族だろう」
両種族の名前が出ても兵士達に動揺はまるでない。
「だが、やることは今までと一切変わらない。ただ、目の前の敵を破る。それだけだ」
一糸乱れぬ様相で全ての兵士が頷く。
「そして、結果も一切変わらない。ただ、目の前の敵に勝つ。それだけだ」
再び、一糸乱れぬ様相で全ての兵士が頷く。
「この国の剣は折れず、曲がらず、全てを守る。いいな?」
その言葉と共に兵士達の力強い声が響く。その声は種族や、性別それらで全く違うが、その想いは一つ、それを感じさせる光景だった。
「頭も何か一言いうか?」
満足げなガイオスがこちらを振り返る。
あまり、柄じゃないが彼らはこれから命を懸けて戦う。それもいいだろうと思い前に立つ。
「俺は、君たちが勝つことを信じている。故に、負けたら俺の首を渡すことも了承した。同じ戦場には立てない、だが、行く先は同じだ。早く、美味い酒を飲もう」
咆哮のような歓声が響く。勝ちは疑っていない、だが、多少の犠牲は出るだろう。
俺は、彼らの顔を忘れないよう心に刻んだ。




