始まりの街
目を覚ますと、体に激痛が走っていた。それに、濃厚な血の匂いも漂ってくる。
なんとなく、これはまた死ぬんじゃないかと考えていると、目の端に何かよくわからない小さい存在が映る。
なんだこりゃと思っていると、そいつらは何やら遊んでいるのか、俺の周りを飛び回り、揶揄うような言葉で死んでる?と聞いてくる。
「……まだ生きてるよ。死にそうだけどな」
口だけでそう伝えると、彼らは驚いたように距離を取った。
そして、俺が動かないことが分かると再び近づいてくる。
≪僕たちの言葉がわかるの?≫
こんなにはっきりとわかるのに何を言ってるのかと不思議な気持ちになる。
「わかるさ」
そう伝えると、そいつらははしゃいだように飛び回り始める。なんなんだほんとに。
「お前ら、なんか薬とか持ってないか?」
≪持ってない≫
諦め半分に聞くと、やつらはそう答えた。こりゃ死ぬわと確信が深まってくる。
「そうか。体が少しでも良くなればよかったんだがな」
≪治したいの?それならできるよ!≫
思いがけない言葉に少し驚く。
「そりゃ助かる。体を治したいんだが、やってくれるか?」
≪任せて!≫
その瞬間、俺の体が光始め、痛みが治まっていくのが分かる。そして、光が消えると、俺の体は自由に動くようになっていた。
「まじかよ。本当に変なやつらだな。だけど、助かった。ありがとう」
≪お兄さんのが変な人なのに。でも、いいよ。許してあげる≫
変な人認定をお互いにした後、周りを見渡すと、まさに戦場と言った様相だった。
周りは血の匂いと死体が埋め尽くしており、正直気分が悪くなる。だが、このままここにいてもしょうがないので、とりあえず使えそうな剣を一本腰に差すと未だ俺の周りを飛び回るそいつらに声をかけた。
「お前ら、人のいるところ知ってるか?ちなみに、生きてる人な」
≪知ってるよ!こっち≫
「案内までしてくれるのか?そりゃ助かる。ちなみに、お前らって名前あるのか?」
≪無いよ。精霊って呼ぶ人が多いけど≫
「そうなのか……」
精霊とはえらくファンタジーな言葉だなと思いつつ着いていく。周りの殺伐とした雰囲気と楽し気な精霊な様子は全くかみ合っていないように感じた。
◆◆◆◆◆
あれからしばらく、野宿もしながら歩き続けたが、いろいろなことに気づいた。
まず、この体は完全に別人のもののようだ。顔も、体格も全てが違った。そして、身体能力は前とはほぼ変わらないものの、目の機能だけは異常だった。集中すれば、まるでスローモーションのように見えるし、次の動きの予測すらできる。
加えて、よくわからないが、角の生えた狼が放ってきた氷の塊を消すこともできた。
ただ、かなり力を消耗するようで、数分集中するだけで立てなくなるくらいだったが、途中から精霊達が力を分け与えてくれるようになり、ずっと使っていても問題が無くなった。
もし、この目が無ければ、その日の食料の調達すらできなかったので本当に感謝している。
次に、精霊達がかなりいろいろなことができるのに気づいた。力を分け与えるのはもちろんだが、やりたいことを伝えると大概のことはできた。
例えば、高い場所にある木の実を取りたいと伝えれば、風の刃を発生させたり、肉を冷やしたいと伝えれば、氷の塊を発生させたりができる。
それに、街まで遠いことを聞いて愚痴を言っていたら、身体能力の強化をしてくれたようで凄まじい速度で移動できるようになった。
彼らは飽き性だが、色々なことで助けてくれるので本当に助かっている。物を食べることはできないようなので、前の世界の話や、小ネタで仕込んだ手品等を見せて上げるるととても喜んでくれたようではしゃいでいた。
最初は変なやつらだと思っていたが、とても付きあいやすいので最近ではかなり可愛がっているくらいだった。
そして、案内についていくと、城壁に囲まれた大きな街にたどり着く。そして、城門付近には二メートルを優に超え、頭に角を生やした大男達が立っている。
「まさにファンタジーって感じだな」
≪ファンタジー!ファンタジー!≫
精霊は最近覚えたファンタジーという言葉を言いながら楽しそうに舞っている。
「お前ら、今から街に入るからくれぐれも静かにしてろよ?」
≪大丈夫。僕らの声は聞こえないから≫
「聞こえない?どうゆうことだ?」
≪普通は聞こえないの。聞こえる方がおかしいだけ≫
軽くバカにされたような感じもあるが、聞こえないというならそちらの方がいい。何もわからない状態で無駄に騒ぎを起こすのは不安があるし。
「ならいいや。あと、それなら俺も誰もいないところでしか基本話しかけ無いようにするからそのつもりで頼むよ。一人でしゃべる痛い奴と思われるのは勘弁だしな」
≪えー≫
「いやほんとに。頼むよ、な?このとおり」
≪……わかった≫
精霊を宥めつつ、頭を下げて頼むと彼らは折れてくれたようだ。
そして、俺は門の方に向かっていく。
「何だお前?ここは力を是とするガイオス様が治める街。無能者は入れんぞ」
「どうしたら入る許可がでるんだ?」
門番が俺を見下ろしながらそう言う。
「そこの水晶に手を当てて見ろ。それでだいたいの能力が分かる」
「わかった」
種族もスキルもわからないが、言われた通りに水晶に手を当てると、空中に文字が浮き出て来た。
◆◆◆◆◆
【固体名】
天城 優仁
【種族】
天眼族
【能力】
属性:風
体力:E
魔力:B
物理攻撃:E
物理防御:E
魔法攻撃:E
魔法防御:E
素早さ:E
技術:E
【スキル】
天眼:複写、予測を始めとした目に関する多様な能力を得る
言語翻訳:全ての言語を理解する
順応者:環境や肉体の変化等に柔軟に対応することができる
◆◆◆◆◆
よくわからないが、相手は微妙な反応をしている。どれが最低ラインかはわからないが、足切りラインのギリギリなのかもしれない。
そして、門番たちは少し話し合った後、街に入るのを許可した。
「変な名前な上に能力値的にはゴミだが、天眼族は希少だからな。中に入ってもいいと認める」
「ありがとう」
ゴミと言われたのは癪だが、顔には出さず、門番の横を通って街に入る。
一目で強そうだと思うような奴らがそこかしこに歩いている。中にはそうではないものもいるようだが、何かしらの能力はあるのだろう。
しかし、金も無いので何も買うことができない。とりあえず、何かしらの金策を見つける必要があるなと思いそこら辺の人に話しかける。
「金を稼ぎたい?伝手や経験が無くても稼げるってんならコロッセオだろうが。ある程度強くなきゃ無理だぜ?」
何人かに聞いてすげなく無視された後、気の良さそうなお兄さんがそう教えてくれる。正直、ビジネスマンとしての経験が生きてきそうな世界では無いので、未経験でもできる仕事なら一回話を聞いてみようかという気になる。
「ありがとうございます。話だけでも聞いてみます」
「まあ、話だけ聞いて無理ならやめときな。あんた強そうには見えないし」
相手に礼を言いつつその場を離れると、教えられた建物に入っていく。そして、受付の中でも比較的話しやすそうな外見の相手に話しかける。
「あのーすいません。コロッセオの説明を聞きたいんですが」
「初めての方ですね。では、説明させて頂きます」
どう思っているかはわからないが、相手は笑顔で説明してくれる。
どうやら、一対一の戦いを繰り返してていくもののようだ。収入としては、敗者側から勝者側にお金が払われるのを基本として、人気や勝率に応じて運営側からもボーナスが支払われる様な仕組みらしい。
また、ランクが決められ、それが高くなるほどに相手も強くなるが、動くお金も大きくなるみたいだ。
規定で殺害が禁止されていることで、死ぬことは無いみたいだし、この目と精霊の力を借りればなんとかなるような気もするが、そもそも負けた時に払えるお金が無い。
「ありがとうございます。ちなみに、最初にお金が無いと無理ってことですかね?」
「いいえ。最初の一戦分は保障されていますので安心してください。それ以降は自腹となりますが」
なるほど、ちゃんと救済措置も設けられているらしい。
「じゃあ、登録したいんですが、いいですか?」
「はい。ではこちらに名前をお書きください」
スキルにあった言語翻訳の影響だと思うが、文字も書くことが出来た。これは女神さまに感謝しなくてはいけないだろう。
「確認しました。この後すぐに戦える相手がいますが、戦いますか?」
「お願いします」
見切りをつけるなら早くしなくてはいけないので早速お願いする。
そして、控室のようなところに案内されると、競技用の武器を自由に使って良いと言われた。
特に扱える武器も無いので、近くにあった木刀のようなものを引き抜く。
試しに振っていたら、どうやら自分の番らしい。
「アマギ様、出番ですのでこちらのゲートを進んでください」
係員に言われるまま進んでいくと、広いスペースに出た。周りには大勢の観客がいるようで歓声が響いている。
前には、二足歩行のトカゲのような相手が立っており、運営側の説明が始まる。
『赤のゲートから出ましたのは、現在九連勝中、リザードマンのデイル。高い身体能力を活かした槍術はまるで雷のような速度です。また、これで勝てばランクが上がる彼は今まで以上に気合が入っているようにも思えます』
どうやら相当人気のある相手だったらしい。紹介の後に、凄い歓声が上がる。
『青のゲートから出ましたのは、今回初参戦、天眼族のアマギ。珍しい種族であることもあり、その実力は未知数。天眼族のその黒い瞳は全てを見切るという噂もありますので、期待が膨らみます』
『それでは、両者構えてください……試合開始!!』
始まりの合図がされると、相手が凄い速度でこちらに近づき、槍の連撃を叩き込んでくる。
だが、俺の目にはそれはスローモーションに見える。それに、何も言わずとも精霊達は力を貸してくれているようで、体の動きも軽い。
俺は、縦横無尽に繰り出されるそれらを全て回避した後、牽制の意味で蹴りを放った。
相手は、何とか槍の柄で防御をしたようだが、それが粉々に砕けるとともに、相手の体も壁まで吹き飛んでいき激突。相手は俯いたまま、立ち上がる気配は無い。
無音になる会場と驚きに固まる俺。
『え?………………えっと、勝者、アマギ』
そして、しばらくして呆然としたように運営がそう告げると鼓膜を破りそうなほどに大きな歓声が周りから響いた。
俺は、歓声を背に浴びながら控室に戻ると、思わず呟いた。
「え、まじで?」




