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眼では見えない感情

 話が一段落ついた時、ふと忘れていたことに気づいた。


「そう言えば、自己紹介をしてなかった。知ってるとは思うが俺は、アマギ ユウト、よろしくな」



「私はレオーネよ。まぁ親が名前を付けなかったから昔の知り合いの名前を使ってるだけなんだけど」


 

 名前が無い、恵まれていない境遇であることを暗に示す事実を彼女は淡々と言った。


 そこに暗さを感じ無いことが、その不幸を常識として捉えていることがわかった。


 気持ちは分からないでも無い。実の親と過ごしていた時の俺もさほど違いは無かっただろうから。



「……そう呼べばいいんだな?」



「ええ。そんな顔しなくてもいいのよ?名前なんてただの記号なんだから」



 名前は記号、確かにそうだ。でも、それだけじゃない。誰かの名前を呼ぶにしてもそこには感情が宿る。


 これまでの彼女の人生において、名前と言うものはただの区別するだけの記号だったのだろう。


 俺は、その光景に過去の自分を見ているようで嫌な気持ちを感じた。


 

「わかった。これからよろしくな、レオーネ」



「よろしくね。どれだけの付き合いになるかはわからないけれど」

 

 

 端的で突き放すような言葉に距離を感じさせる。


 一見その冷たさは強さにも感じられる。だが俺にはそれが臆病さの裏返しであるように思えたのだ。





◆◆◆◆◆

   



 少し今後のことを話していると周りの文官達が起き上がるのが分かった。


 俺は彼らに事情を説明し、今後の方針を伝えていったが困惑した者がほとんどのようだ。



「よろしいのですか?今後に禍根を残す可能性もありますが」


 

 文官のリーダー格の者がレオーネをチラリと見た後、おずおずと俺にそう伝えてくる。



「ああ。俺のわがままですまないとは思う。だけど、これは譲れないことなんだ」



「……かしこまりました。全く我らが王にも困ったものですな」


 

 その言葉を放ちながら、彼が周りを見渡すと皆が苦笑したような笑みを浮かべる。

 


「すまないな」



「いえ、我らも慣れておりますから。それに、貴方がこれまでも理想を現実に変えてきたのを良く存じ上げておりますので」


 

 あまりにも簡単に彼らが納得したからだろう。レオーネは少し驚いたような様子でこちらを見ているのが分かった。

 


「ありがとう。これからも信頼には必ず答えるつもりだ。では、始めるとしようか」 


 

 レオーネの方を見て頷いて見せると、彼女の魔力が周りから少しずつ薄れていくのが分かった。


 まずは、この場にいる代表たちと話を付ける、事前に話した通り最初の正念場に向けて俺は気合を入れた。





◆◆◆◆◆




 しばらくした後、リザードマンとドワーフ達が起き上がり出すと、意識の混濁はあるようだが知らない集団が周りにいることを警戒して彼らは手元の武器を構えた。



「お前たちはなんだ?」


「お主らはなんだ?」



 それぞれの代表達が言葉を投げかける。彼らの同盟もレオーネのスキル下で行われたことであると聞いているので三者が睨み合うような位置取りとなっていた。



「とりあえず、話を聞いて欲しい。俺は、アマギ ユウト。鬼人族達の国を降し、そこを現在治めている者だ」



 鬼人族の名前が出たことで二つの種族は大きく動揺する。以前から分かっていたことだが、ガイオスの、そして鬼人族と言う種族の存在感を改めて感じる。


 

「……話せ。変な動きをしたら容赦はしない」



 何とか聞く姿勢まで持って行けたようなのでこれまでのことを説明していく。

 

 そして、話が終わると、想像通り彼らの怒りは最高潮に達していた。



「ふざけるな!!百歩譲って同盟の検討は良い。ガイオスには以前負けておるしな。だが、そこの女の首だけは置いていってもらおう」



「儂らドワーフもそうだ。我らにも利があるようだし同盟は良い。だが、そやつには報いは受けて貰う必要がある」



 この国に来る前、彼らの部族について徹底的に調べた。まず、種族そのものが戦闘能力に優れている。そして、秀でたものを尊ぶことから個々人の能力を極めて重視する傾向があるそうだ。


 それ故、彼らは自分に劣っていると思っている者には決して従わないし慣れ合いもしない。


 恐らく今回レオーネの件が無くても俺の方針とはぶつかることだろう。


 故に、その常識を一度覆す策を講じることにした。



「論点のすり替えに聞こえるかもしれないが、一つ賭けをしよう。貴方達がそれに勝てば俺は全てを差し出すつもりだ。だが、負ければ今回のことは水に流してもらう。どうだ?割は良い賭けだろう?」


 

 彼らはそれを聞いて訝し気な顔を浮かべるが、損と利それらを天秤にかけ一度聞く気になったらしく、続きを促して来た。



「俺の国の軍とそちらの軍で模擬戦をする。ただし、俺達の方は貴方達が弱小部族と呼ぶ者達で構成された軍だ。気になるならここに簡単に書き連ねたから見てもらっていい」



 少し挑発するような口調で彼らに伝え、こちらの軍の構成を事前に書き連ねた紙を渡す。

 

 彼らは、それを見ると顔をまるで炎のように真っ赤にさせ怒鳴りつけてくる。  



「貴様、ふざけているのか!?なんだこの吹けば飛ぶような弱小軍は!鬼人族始め優れた部族が他にいるだろうに!」



「ふざけてなどいない。それが俺の自慢の軍だし、心から勝利できると信じている。だが、貴方達が戦うのが無理だというなら諦めよう」


 

 言うなれば、弱小部族でも勝てると言われたようなものだ。当然プライドの高い彼らはここまで言われて引き下がるわけがない。

 

 あまり好きな手法では無いが、外交のカードの一つとして今回は挑発も有効だろう。



「……いいだろう。負けたらお前の首も貰ってやる。覚悟しておけ」



 地を這うような低い声が響き血走った目がこちらを睨みつける。



「ありがとう。代わりに条件はそちらが選んでくれていいぞ。ハンデもある程度なら要望に応じよう」



 相手は最早言葉を交わすつもりも無いようで歯ぎしりと殺気が周りに立ち込める。文官達は徐々に青い顔をしているが、これで場は整った。恐らくうまくいくだろう。



「少ししたら城下の者達も目覚めるはずだ。今日のところはこれで失礼するよ」


 

 そう言ってゆっくりと歩いて退出し、荷物や馬を引き取ると城下町、城壁の外まで向かう。


 そして、しばらくして城が遠めに小さくなった頃、周りから安堵のため息が聞こえてきた。



「陛下、流石にやり過ぎでは?生きた心地が全くしませんでしたよ」



 文官のリーダー格の者が冷や汗でびしょ濡れになった首元を緩めながら話しかけてくる。


 

「これも必要なことだ。弱小部族に完膚なきまでに負ける、そうしなければ彼らの意識は変わらず融和は臨めない」



「……確かにそうでしょうな。陛下と鬼人族、それらを当てて降すのは容易でしょうが。それではいつしか共に歩くことはできなくなるでしょう」



「そうだ。彼らと共に歩く、そのために必要なことをした。ただそれだけさ」



 それからしばらく沈黙が続き、馬の歩く音だけがただ響いた。そして、その中でレオーネの視線がさり気なく俺に向いていることが分かった。


 それは、今だけじゃなくずっとだ。彼女は文官達が起きた後、ほとんど一言もしゃべらずずっとこちらを伺うようにしているのだから。



「俺は共に歩けるならば全ての者とそうしたいと思っている。それこそ、手を取り合って、大きな家族のようになれれば一番いいと思っているんだ」



 意識を向けている者でなければ分からないほどの声で俺はそう呟く。


 今はまだ、直接伝えても受け流されるだけだと分かっているから。

支離滅裂なとこがあったらすいません。やっぱ時間が空くと章の繋がりを失いますね(笑)

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