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夢の国

 あれから、二人は今まで以上に精力的に動くようになった。


 軍事と内政、その両輪はこの上ないほどに回転し、目に見える形で発展する場所に弱い種族を中心に外からも多くの部族が移り住んでくる。

 


 人が増え、消費が増え、経済が回り始める。



 更には戸籍の作成、道路の整備、通貨の発行など、国としての形は徐々に整えられ、効率的な運営がなされるようになっていく。



 そうして、一年が経ち、国力が増すにつれ、軍の規模も大きくなり、遂に魔界統一に向けて本格的に動き出した。




 

◆◆◆◆◆




 

 地図を広げて現状を確認する。



「進行を開始し、ここまで負けなし。領土は大きく広がり、これで魔界の十分の一程度は勢力下に入ったはずだ」

 


 バロンが、こちらの部隊毎の進行ルート、補給線等を書き込みながら説明をしていく。



「今じゃ戦う前から逃げ出す奴もいるくらいさ。俺の姿が見えなくてもな」

 


 ガイオスがさも当然のように頷きながらそれを補足している。彼の作り上げた軍隊は正に常勝無敗、一当てするだけで敵は崩れ、壊走するほどらしい。




「血が流れないのはいいことだと思います。最近では、こちらが伝える前に降伏を願い出てくる者も出てきましたし」




 圧倒的な戦闘だったとしても、多少なりとも血は流れる。それに心を痛めていたアルルカがそう呟いた。




「うむ。それに、先日のことだが、リザードマン、ドワーフの連合がこちらに降伏を願い出てきた。彼らの国はこの近辺では最大の勢力だ、それが降伏したというのは大きい」



 バロンが地図にある巨大な勢力に丸を付ける。領土としては、こちらの半分ほど、かなり大きな勢力であることが分かる。



「リザードマンとドワーフが連合組んでんのか?聞いたことがねえが。それに、以前そこの戦士とも戦ったが、どちらも戦う前に降伏するような性格じゃないはずなんだがな」



「少し前に急に連合を組んだようだ。それに、お前の分析も正しい。だが、密偵からも降伏は真実と思われるとの報告があった。そもそも、謀をするタイプの部族でないのは確かだしな」



「まあ、それには同意だが。なんか釈然としねえな」



「ただし、降伏の条件として直接話せる機会を設けることを示されている。受けるかどうかは貴方次第だが、どうする?」



 バロンが、こちらを見て問いかけてくる。そんなの決まっている。


 それが罠であれ、真実であれ、やることは同じだ。対話で終わるならそれを選ぶ。



「その話を受ける。場所は?」



「相手の首都だ。変更を提案してもいいが」



「ちょうどいい機会だ、相手の街を見てくるよ」



「わかった、相手には伝えておこう。それと、護衛の部隊を見繕っておく」



「いや、相手を無駄に刺激することになるしな。最小限の文官とその護衛以外はい必要ない。お前もだぞ、ガイオス」



 

 俺がそう言うと、ガイオスは不満そうな顔をした。


 その横ではバロンがこちらに顔を向けている。彼の本体は甲冑と中に入った影らしいので、厳密には目は無いはずだが、じっと見つめられているのが分かる。


 そして、しばらく、そうしていると、彼がため息を吐いた。




「…………相変わらず強情な王だ。わかったとも。どうせ、貴方より強い護衛などいないのだしな」



「ありがとう」




 敵地に行くのだ。万が一に備えて、あまり多くを連れて行きたくはない。

 

 多くなればなるほど、この手が全てを守り切れるとは限らなくなるから。




「……ユウト様、お気をつけて」




 アルルカがいつものように心配してくれる。ついていきたいようではあるが、彼女は自国内から出ることは無い。

 

 関係を築いた後であればいい。だが、その前に無駄な諍いを生みたくないと前に言っていた。



 俺は、その時にそれを強く否定はしたが、彼女としてそこは譲れないところらしかった。




「ああ。危なくなったら皆を守って逃げてくるよ」



 

 前は、自分が傷ついても、いいと思っていた。でも、今は違う。


 仲間は守る。それに加えて、自分も守る。そして、皆で夢を追いかける。そう決めたのだ。

 





◆◆◆◆◆






 そして、俺はリザードマン、ドワーフが連合を組む国に足を踏み入れた。



 都を囲む壁は厚く、高く聳え立っており、兵士達の装備も良い。


 

 それに加えて、街路や水路までもが整備されている。技術のドワーフに戦闘のリザードマン、その良さが相互に影響し合ったいい国だと言えるだろう。



 道行く人の顔は皆笑顔で、声がそこかしこから響いている。



「陛下、ここは良い国のようですね。街は整備され、人の顔も明るい。最初は不安でしたが、少し安心しました」



 バロンにも認められるほどの能力を持つ、今回の文官のリーダー格がこちらへ小さな声で声をかけてくる。


 当然その言葉を否定する要素など無い。




「…………ああ、そうだな」




 だが、俺は違和感を拭えなかった。どこを見ても皆笑顔だ。これこそ、理想的な姿だろう。


 でも、何故だろう。その笑顔は、声は、どこか空虚に見える。


 


 人形のように、作りもののように、感情が籠っていない。


 その光景は、昔見た光景を思い出させる。


 全員では無い。だが、物心つく前から施設で育ち、愛を与えられず、ただそう教え込まれて育ってきた者の中にはこんな笑顔を浮かべる子供もいた。


 


 俺は、この笑顔を好きになれそうにない。


 相手は、こちらに都合のいいように動こうとしているのだ。


 黙って見過ごせば楽だろう。気づかないふりをすればそれで終わるだろう。だが、それをするくらいなら、魔界の統一なんて言いださない。



 これは、俺の目指すべき場所とは違うと思うから。だからこそ、その理由を確かめる。

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