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黒き騎士 ―バロン―

 気高く、他と慣れ合うことを嫌うシャドウナイトの一族に生まれた私は初めから異端だった。


 親等は無く、影から突如発生する我らには個人差など無い。


 その性格は画一的で、不変。同じ方向を常に向いている。


 故に、弱者を哀れみ、あまつさえそれを救おうとする、私はこの上ないほどに異端だった。 

 

 


 その燻る想いは誰にも理解されず、しかし、全てを変えるほどの強者でもない。


 たった一人で悩み、その重さを抱え込む日々に嫌気がさした。


 だから、私はそこを出た、その現実から逃げるようにして。




 


 


 そして、悠久の時を流離う中で、気づけばはぐれ魔族達を率いるようになっていた。


 最初は数人、次第にそれは集落を作るほどに増え、私は集団で生きるすべを模索した。


 

 どこに行っても迫害され、優良な土地等望めない彼らを生かすには支え合うことが不可欠だったからだ。



 だが、どれだけ知識があろうとも、どれだけ頑張ろうとも、本質を変えることはできない。


 そして、たとえ歩む先に未来が無いと理解していても、私はそれをする他なかった。





 





 しかし、そんなある日、一人の男と出会った。



 鬼神と呼ばれ恐れられていたガイオスを降したという化け物。


 

 終わりを迎えることを覚悟した私に、だが彼ははぐれ魔族である我々すらも気遣う様子を見せる。




 その目や、雰囲気、口調には嘘は見られない。


 だが、長い時を過ごす中で、様々な王を見てきた私にはそれを純粋に信じることはできなかった。


 

 真の強者である彼に本当の意味で弱者の気持ちを理解することはできない。その考えを拭うことは決してできなかったから。



 

 

 そして、話を切り上げようとしたその時、彼の横から小柄な影が飛び出してくる。


 疑問に思う私に、その影が姿を晒したとき、私は少なからず衝撃を受けた。


 混じり気の無い純白の髪に、同じ色の肌。



 どこに行っても忌み嫌われるだろう、弱者の象徴。



 白に近いほど不吉な色とされるこの魔界において、これまで彼女がまともな生を送れてこなかったことは容易に想像がついた。




 過去に、同じような外見を持ったものを見たことはある。


 私の見たそれらは、例外なく闇の中で生き、その歩む道は不幸に彩られていた。



 正直、ここまで生きてこられたのが奇跡なくらいだろう。戯れに殺されていてもおかしくない。たとえ生きていたとしても、多くの悪意に晒されその目は暗く淀んでいるはずだった。


 



 だが、目の前の彼女の目は絶望になど染まっていない。むしろ、その目は力に溢れ、希望に満ちている。


 

 そして、少女は、声を枯らせながら語った。想いも、理屈も、心から納得させるほどの強さを持って。



 だから私は、その手を取ってみることにした。


 少しでも揺らぐようなことがあればすぐに袂を分かつつもりで。






◆◆◆◆◆







 それから、城での生活が始まり、様々なことに取り組んだ。



 そして、その中で、どこまでやるつもりなのかを探るために王を試した。


 


 最初は、ある程度まで本気ならそれで良い、そう思っていた。



 だが、その考えは甘かったようだ。



 彼を試すために突き立てた刃はどこまでも沈み込み、私達のようなはぐれ魔族をも飲み込もうとしている。

 


 それは正気の沙汰では無く、ある意味では狂人とも言えよう。だが、その眩しいほどの真っ直ぐさは、人に伝染し、広がっていくようだ。


 気づけば私も、周りと同じように、笑ってしまうような夢物語を信じさせられてしまっているのだから。


 

 

 




 だが、私は知っている。


 彼の心根は、決して強者ではない。その心は真っ直ぐな分、折れやすい。



 彼のおかげで、周りに迫害され、拒まれ続けたはぐれ魔族達はその居場所を得ることができた。未来を信じ生きていくことができるようになった。




 であるならば、そろそろいいだろう。




 優しい王が折れぬよう、私は彼の影となろう。常に寄り添い、同じ方向に歩き続けよう。  



 理解されない苦しみは痛いほどに知っている。それがとてつもなく重いことも。



 だから、それを一緒に背負うのだ。かつての私と同じ想いを持つ彼と一緒に。

 

思ったより早く解放されたので投稿します。

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