蒼き鬼 ―ガイオス―
殴り合いにおいて、最強とされる鬼人族の中でも、とりわけ強い力を持って産まれた俺は、一度も敗北することは無く、生まれてから十年が経つ頃には部族の長となっていた。
強くなるのは楽しい、戦いに明け暮れる毎日を過ごしていく中で、多くの部族と戦いを続けてきた。
だが、いつしか対等に戦えるものはいなくなり、やがて部族の者以外の誰もが俺を恐れ、距離を置くようになっていった。
それは、王と呼ばれるようになっても変わらず、退屈で、刺激の無い毎日、挑んでくる者、ましてや近づいてくる者すらもおらず、何をしても満たされない毎日に俺の心はいら立っていった。
しかし、そんなある日、一人の男を知った。
圧倒的な強さを誇りながらも、優しく、吟遊詩人に唄われる様な英雄。
期待をこれ以上無いほどに膨らませた俺に、そいつはそれ以上に応えてくれた。
その吹けば飛ぶような小さな体は、外見に見合わないほどの力を持っており搦手無しに正面からぶつかり合った。
何度地面に叩きつけても、その瞳は力を失わず、俺に恐怖することなく近づいてきた。
攻守が目まぐるしく移り変わり、そして、生まれて初めて本気を出した俺は、全てを出し切った上で負けた。
だが、不思議と悔しさは無かった。むしろ、真正面からぶつかり合い、語り合うことに清々しく晴れ渡る気持ちでいっぱいだった。
自分に優る、これ以上無いほどにそれを認めることができた。
このまま死んでも悔いは無いだろう、そう思っていた時に男は言った。
『世界を統一する。俺の下につけ』と。
それまで、そんなことに興味を覚えることは無かった。
だが、この男の下でならそれも楽しいかもしれない。俺は、笑いながらその話に乗る。
ずっと自分のためだけに振るっていた剣を彼に預けたのだ。
◆◆◆◆◆
それから、彼の指示に従って戦うようになった。
国境の警備に、賊の討伐。正直、最初は退屈だった。
だが、俺が勝つたびに彼は喜び、守った奴らにも感謝されることが続いているうちに、俺は不思議とそれに退屈さを覚えることは無くなっていった。
それに、今まで距離を置いていたような奴らを率い、戦う。
始めはわからなかったが、組織で戦う強さも奥が深い。だんだんと強さを増し、自分ですらも抑え込める様な部隊が出来上がっていくことは新しい強さの形を俺に教えてくれた。
そして、絶対的な王に、最強の力、それがあれば何でもできる。そう信じていた。
だが、今日、反乱を鎮圧した彼の、孤独な背中を見て思った。
その背中には多くのものを背負っている。絶対者である彼ですら持つのが大変なほどに。
俺は剣だ。難しいことは考えられないし、できることも限られている。
でも、体を引きずってでも前に進む、そんな時に支えになるくらいならできるはずだ。
だから、俺は自分にできる方法で彼を助ける。敵を傷つける以外の使い方もできると彼に教えて貰ったから。




