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銀の十字架

 襲撃の後、血に染まった大地を見た後、上を見上げる。


 そこには、雲一つない澄み渡った青空が広がっていた。


 綺麗な夢と流れる血。その対照的な光景は、俺に現実を教えているようだった。




「……大丈夫ですか?」



 腕の中でじっとしていたアルルカが心配するようにこちらを見ている。



「少し、辛いな。分かり合えないってのは」



「それは……ユウト様のせいじゃありません。だから、その」



 頭の回転が速い彼女が、言葉に迷うように焦っている。俺は、彼女をこれ以上心配させないように笑顔を作ると、それをアルルカに向けた。



「大丈夫だ。それに、感傷にばかり浸ってはいられないしな。すまんが、城に向かう」


 

 既に魔力はだんだんと練れるようになってきていた。



 彼女は終始何か言いたげな様子だったが、急ぐ俺を気遣ったのか何も言うことは無かった。





◆◆◆◆◆




 城に着き、バロンの執務室に向かうと、彼はこちらを心配するような雰囲気で見ていた。



「もう、知っているようだな。一部の有力部族が反乱を起こした」



「こちらにも襲撃があった。鎮圧には既に部隊が向かっているのか?」



「ああ。ガイオスが飛び出していったよ。私が命じる前にな」



「そうか。でも、俺も向かうよ」



 そう伝えると、バロンはこちらへと顔を向け、黙る。そして、俺の意志が変わらないことを見るとため息を吐いた。




「……別に、貴方がそれに直接関わる必要はないのだぞ?」



「わかってるさ。でも、これはケジメなんだ」



「ならば、止めはしない。どうせ、止めても行くのだろうしな」



「ああ。行ってくるよ」




 外に出ると、アルルカが立っていた。そして、こちらを気遣うように見ている。




「……私が行っても足手纏いなのはわかります。だから、今回は待っています。でも、これだけは覚えておいてください。貴方は一人じゃない、多くの人が信じ、待っているのだと」



「…………ありがとう」



 彼女の言葉はいつも俺に勇気をくれる。その言葉を胸に、俺は音を置きざりにするほどの速度で反乱が起きている領地へと向かった。





◆◆◆◆◆





 既に戦闘は始まっているようだ。そして、視界を拡大すると、敵が進軍してきた道の途中の集落が軒並み無残な姿になっているのが分かる。



 これは、俺の甘さの責任でもある。だったら、それに引導を直接渡さなければいけない。


  

 今後、中途半端に戦いが起きらないように、それこそ徹底的に。




 そして、俺はガイオスがいる付近に降り立つと声をかけた。



「ガイオス。ここからは俺がやる」



「おいおい。頭が直接出張る必要は無い。負けることは無いんだ。それに、胸糞の悪い戦だから尚更だ」



 以前のガイオスなら、それがたとえどんな戦だろうと戦えるのであれば喜んでそれに臨んだだろう。


 だが、今の彼は違う。この戦を胸糞悪いと言い、楽しんでいる様子はない。


 

 そして、俺にはそれで十分だった。わかってくれた者もいる。それだけで救われるから。




「いや、俺がやる。やらなくちゃいけないんだ」



「……分かった。味方はすぐに撤退させる」



「すまないな」



 ガイオスが指示を出し、鬼人族が巨大な太鼓で音を鳴らすと、味方が撤退していくのが分かる。


 相手は追撃を仕掛けるような雰囲気があったが、魔力を迸らせながら空に立つ俺を見ると、それを警戒したのか動きを止めた。





 放たれる敵の魔術を悉く掻き消しつつ、魔封じの剣を圧縮した土の槍で弾き飛ばしていく。



 その中で、俺は全力で魔力を練ると、極限まで拡大した視界に映る全ての敵に向かってそれを放った。




 美しい銀閃の筋が大地に降り注ぐ。


 まるで雨のようなそれは、魂を刈り取り、全てを無にした。悲鳴も怒声も何もかもを呑み込んで。



 

 そして、最後に空まで届く巨大な銀の十字架を形作ると大地に突き立てる。


 それは、少しずつ銀色の光の粒子となり消えていくが、はるか遠くからもはっきりと見えるほどに巨大だった。


 全ての者がそれを目にし、異常な光景に衝撃を受けた。

 

 後の世に王の力の象徴として語り継がれるほどに。





◆◆◆◆◆




 戦の後、後始末を任せると城に戻る。


 ガイオスやバロン、アルルカ達は心配し、声をかけてくれた。

 


 だが、今日だけは一人にして欲しいと伝え、今は自室に籠っている。




 

 テラスに寄りかかりながら夜空を見上げる。


 そこには、昼は太陽の光に隠されている星達が姿を現し、月を取り囲んでいた。



 輝く夢に照らされて見えなくなることもある。だが、実際には多くの人が、それぞれの人生を歩みながら周りを取り囲んでいる。


 


 恐らく、この先、踏みにじることになる命もあるだろう。いちいち感傷に浸ってはいられない。


 上に立つものは、力の分だけ、何かを背負っている。自分にとって都合のいいものも、そうでないものも。

 

 理解されることを求め過ぎてはいけない、王は、基本的には孤独なのだから。





 でも、俺の場合はそれを理解してくれる人たちがいる。それに、ようやく、少しは見えてきた気もする。だから、歩み続けよう。


 その先にあるものはきっと良いものだと信じて。



 俺は、月を掴もうとするかのように手を伸ばした。


明日は夜遅いのが決まったので更新ができないかもしれません。

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