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夢は返り血に染まって

 翌週、休息日とした日になり、アルルカと二人で城を立つ。


 

 護衛は特に連れずに、飛行魔法を使って移動し、以前見つけた深い森の中にある湖へと向かった。



 

「とても静かで良い所ですね」



 目の前では澄んだ水が輝いている。それに、近くに集落は無いため人もいない。



「かなり森の深いところにあるからな、誰にも邪魔されずに過ごすのにちょうどいいなと思ってたんだ。気に入ってくれたか?」



「はい、とても。せっかくですし、お茶でも沸かしょうか」



「そりゃ良かった。じゃあ、火だけ起こしておくよ」



「ありがとうございます」



 それぞれができることを分担してやる。俺が魔術で火を起こし、それを使ってアルルカが何かを作ってくれる、以前は良く見られた光景がとても懐かしく思えた。


 そして、差し出された湯呑を持つと、二人でお茶を啜った。




 木のざわめきや鳥の鳴き声だけが響く。


 隣のアルルカを見ると幸せそうに、穏やかな笑顔を浮かべていた。


 彼女にも無理をさせてきた、たまには労わなければ罰が当たるだろう。


 そんなことを考えているとき、アルルカの視線がこちらに向いたのを感じた。

 



「ユウト様と会ってから、私の周りは大きく変わりました。誰もいなかった周りにはどんどん人が増えて、それとともに私の姿を受け入れてくれる場所も広くなっていきました。顔を隠すことは無くなり、逆に私の顔を見ると、皆が近寄ってきてくれるほどです」

 


 

 彼女は、ゆっくりと噛みしめるように言葉を出していく。

 


「そうか」



 特に反応を求めているような様子は無く、どちらかというと独り言のような色を帯びているそれに、俺は簡単な言葉を返す。

 


「中には、受け入れてくれない人も当然います。でも、人は皆違う。良い人もいるんだと貴方を通じて知ることができました。それに、人に好かれることで、自分のことも前より好きになれてきた気がします。世界に感じていた恐怖は薄れ、今では希望を感じているくらいなんです」



 常に周りの顔色を伺い、自分を最も劣ったものと忌避していた少女は、自分を肯定することができるようになってきたようだ。


 湖と同じ、澄んだ綺麗な色をしたその瞳は、以前に比べて力強い輝きを放っている。


 


「だから、本当にありがとうございます。私は、ユウト様に会えて本当に幸せです」




 いつかの俺の言葉と同じように彼女がそう笑顔で言う。本当に幸せそうな顔に、俺まで嬉しくなってくる。




「ありがとう。俺は、本当に周りに恵まれている。どうしようもない俺だが、これからも手を貸してくれ」



「はい、喜んで!」



 人は分かり合える。その象徴である彼女を見る度に、俺は諦めそうになる心を奮い立たせることができるのだった。





◆◆◆◆◆




 

 そうして、ゆっくり過ごし、昼食を食べた後。


 アルルカが片付けをするのを見ながら、一寝入りしようかと目を瞑った時、声が聞こえた。



≪変な気配近づいてるよ。気を付けて≫


 

 普段から楽しそうに舞っている精霊の、珍しく真剣そうな声を聞いて俺は、すぐに立ち上がる。


 そして、眼を凝らしたとき、凄まじい数の剣が俺達に迫るのを感じた。




 それらは、魔術そのものでは無く、質量を持っているようで眼で掻き消すことはできなかった。

 

 故に、魔力で作った防壁を作ったのだが、それは剣に当たった瞬間に砕け散る。


 驚く俺。だが、アルルカに迫りつつあるそれに反射的に体を動かし、身に傷を受けながらも彼女を守る。




 かなりの傷を負ったが、致命傷は避けた。だが、魔力が上手く練れないのに気づく。



 俺は、そのまま立て続けに放たれる攻撃を回避することに専念し、アルルカを抱えて逃げ続ける。


 そして、攻撃が止むと美しかった自然は無残に傷つけられ、鳥のさえずりすら聞こえなくなっていた。


 


「流石ですね。今の攻撃でも倒せないとは」



 襲撃者が姿を現す。近接戦闘力で鬼人族に次ぐ人狼族と、魂を削って奇跡を行使する転魂族。


 

 それは、最近ではよく話題に出る相手だった。


 反抗的な態度を崩さず、最近では不穏な空気すらも漂わせていた有力部族、どうやら彼らは遂に実力行使に出てきたらしい。


 起こって欲しくなかった現実に、ため息が出る。




「余裕の態度ですな。ですが、我らの奇跡で作った魔封じの剣を受けた貴方はしばらく魔力が練れないはずです。苦しむ前に、大人しくその首を差し出したらどうですか?」



 なるほど、魔力が練れないのはこの剣が原因らしい。辛うじて、微弱な回復魔法が使える程度で、大規模な魔力行使は一切できそうになかった。


 そして、周りでは、人狼族が取り囲みつつあるのがわかる。



「俺達は、やはり分かり合えないのか?」

 


 そう問いかけると、この場にいる転魂族のリーダー格の者は、こちらを嘲笑するような目で見た。

 

 

「この状況でそれを問うとは、相変わらず甘いですな。それに、我々は下賤の者達と慣れ合うつもりはない。奴らの命を刈り取らねば、実験もできませんしな」



 魂を削って奇跡を行使する。それが望んでのものなら止める権利はない。だが、同意も得ずに、更にはわざと苦しませつつそれをすると聞いてからは俺は全面的に禁止していた。

 

 それが彼らにとっては従えないことだったのだろう。





「お前達も、やるつもりなんだな?」



 転魂族を説得することを諦め、次に人狼族の中で一際体の大きなものに話しかける。



「腑抜けた鬼人族は従ったようだが、俺達は違う。魔界を統一するための戦をすると言うから最初は従っていたが、戦闘以外で命を奪うなとか、降伏した相手を殺すなとかそういう下らないことを言い出すなら話は別だ。だから、俺達はあんたにはもう従わない」

 

 

 人狼族は非常に残忍で狡猾だ。戦というものを単純に好む鬼人族とは違い、相手を苦しませるような狩りを好む彼らは常にやり過ぎていた。よって、それを制限し、ルールを課した。


 それが彼らにとっては従えないことだったのだろう。

 



 二つの部族が徐々に不満を募らせているのは知っていた。そして、できる限り話し合いの機会を設け、説得してきた。


 だが、それは意味は無かったようだ。恐らく、俺の襲撃と共に彼らの本土でも反乱がおきているだろう。




「わかった。敵となるなら容赦はしない。お前達を排除する」



 俺は、覚悟を決め、戦う意思を固める。






「魔術が使えない貴方に何かができると?これは、転魂族も侮られたものですな」


「ガイオスを倒して調子に乗っているようだが、人狼族も奴らに負けちゃいない。舐めるのも大概にしろよ」



 相手から怒りの感情が伝わり、戦意が高まるのを感じる。


 そして、相手が動き出す瞬間、俺は小さく呟いた。





「助けてくれないか?どうしても、ここで負けるわけにはいかないんだ」



≪いいよ。変な王様、愉快な王様、優しい王様。僕たちの友達≫



 


 周囲に力が満ち、相手を包み込む魔力の檻が編まれる。転魂族はそれに動揺しながらも魔封じの剣を放つが、切り裂かれるそばからそれは修復され、逆に返される湖の水を基にした氷の刃に切り裂かれていった。


 そして、接近戦を挑もうとする人狼族は近づくそばから魔力で作られた槍に串刺しにされていく。


 

 

 しばしの時が流れると、そこには死体の山が積み重なっていた。



「なんだこれは……魔術は使えないはず」


「くそ!話が違う。ふざけるな」


 

 残ったのはこの場のリーダー格と思われる二人。彼らがこちらを見る瞳には恐怖の色が見え隠れしていた。



「すまないな。俺は、お前たちの亡骸を踏みつけてでも前に進ませてもらう。それが、始めた者の責任だから」

 


 彼らを銀色に輝く光の剣が取り囲む。そして、化け物という呟きを残して彼らの命の火は掻き消された。


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