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変わるもの、変わらないもの

 バロンの集落の人間が合流して半月ほどが経った。

 

 ずっと組織として動いてきたということもあって、彼らは本当にいい働きをしてくれた。


 特に、方針を理解した上で現場の者の指示、監督をできるという者を育成するのは大変難しいので、本当に助かっている。



 最初は、その異形な姿などに戸惑いや混乱も生じた。


 だが、魔界においては非常識な政策を取り続ける俺の行動に領民達がそれを受け入れられる土壌ができ始めていたのだろう。


 確かな能力を示す彼らは、それほど時間をかけずに順応していくことができた。







 前世で学んだ政治施策をバロンやアルルカ達と討論・検討、領軍の戦闘演習、有力者への協力依頼のための挨拶、領民の慰労の意味を込めた視察等



 大きな変化を生む改革に、未熟な組織、そして、最大の要因である各部署を管理する者の不在のために自分に上がってくる決裁は多かったが、これからは、それは格段に少なくなるだろう。



 加えて、集落の方に大半を割いていたバロンの分身体も合流したことにより、政務の効率は更に加速、来週の始めには俺とアルルカが一日休める日を作ることができるようにまでなっていた。


 そして、今はその不在の間の引継ぎをバロンと済ませている。





「では、一日の不在の間の権限は全て私に移譲するということでいいのだな?」



「ああ、それでいい。すまないが、よろしく頼むよ」



 基本的な方針は頻繁に共有しすり合わせているから問題は無い。方向性が同じであるならば、俺よりもうまく彼は処理してくれるだろう。



「わかった。アルルカ嬢と共に、ゆっくりと休め」



「ありがとう。そうさせて貰うよ」

 


「だが、一つだけ確認したいことがある。先日の我らの受け入れに係る抗議の件だ。穏便に済ますための策もあるが、よいのだな?」



 先日、集落の者を受け入れるに当たり、現場とは別の場所で問題が生じていた。


 異形の者を受け入れること、そして、その者達に辺境では無く通常の土地を与えることについて以前から俺の方針に反抗的な態度を崩さなかった一部地域の豪族達が、それに抗議を申し入れてきたのだ。



 どうやら、これまではぐれ魔族と呼ばれる彼らは最下層として見られており、同じ立場として扱われることに大きな不満があるようだった。

 

 そして、直接、集落の者達の働きに触れることが無い彼らは、平民と呼ばれる階層の領民達がそれを受け入れた後も繰り返し訴えてきている。その能力や人格はまるで考慮せずに。




「この件については、どれだけ衝突があっても曲げるつもりは無い。他の者と同じように扱う、それは絶対だ」




 これまで、できる限り豪族や有力者達を力で排除することを避けてきた俺の意志を汲んで、見かけ上は辺境に配しつつ、物的支援を行い補填をする策など、衝突を緩和する策を彼は示してくれた。


 だが、それでは何も変わらない。むしろ、最大の弱者を見せかけとはいえ隔離する、夢と大局的に位置するその対応を取るつもりは絶対に無かった。




「分かった……ありがとう。だが、不穏な空気もある。その際は、武力を用いることになるだろうが、それも覚悟しているな?」



 念押しの意味を込めて彼がそう伝えてくる。



「ああ。そのために、国王との直接謁見制度や、方針に異論がある場合における、国外移動の支援策を国中の全ての者に伝えているんだ。これまで、彼らには俺の考えを再三示し、それは覆ることが無いことを伝えてきた。そして、それに従えない、出て行く気も無いというなら血が流れるのも俺は辞さない」



 出来ることならそれはしたくない。そのために、可能な範囲で融和策や譲歩策を実行してきた。ガイオスやバロンに甘いと言われるほどには。


 だが、それでも必要ならそれをしなければならないのは分かっている。


 たとえ、それこそが暴力の証だと言う者がいるとしても、弱者に居場所が無い、そんな世界を俺は認めるわけにはいかないから。




「それなら、いい。甘いとは思うが、そのおかげで貴方に協力する者が増えたことは事実だ。好きにやればいいさ」



「そうだな。結局のところ、今までも、これからも、俺は自分の好きにやるだけだ。だから、貫くさ、最後まで」



「まあ、とりあえずは、二人で休んでこい。アルルカ嬢も楽しみにしているしな」



「いつもありがとう。じゃあ、いない間は頼むよ」



「承知した」




 バロンが部屋を出て行くと、ため息を吐いた。


 誰にも迷惑をかけていなくても、外見や考えなどが受け入れられないという理由だけで人は人を嫌う。



 そして、それが高まり、争いの香りを漂わせる。



 誰もが理解し合えるというのは幻想だと分かっているし、戦う覚悟もある。


 しかし、彼らがわかってくれればいい、何もなく、終わってくれればいいと心から願わざるにはいられなかった。


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