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その家は形を変えて

 書類にひと段落つけ、目頭を揉む。


 今日のものは主に、軍務に関してのものだ。ガイオス率いる領軍の国土防衛、治安維持活動に係る報告書。

 

 最初は鬼人族だけだったその部隊は徐々に規模を拡大し、戦闘力に長けた部族の混成部隊となっている。




 最初、ガイオスを含め、彼らはあまり、領地、国といった形式に拘りが無いようだった。


 始めた当初、他領から攻めてくる敵の撃退や国内の賊の討伐等、自分達の力を使い、弱い自国の魔族達を守ることに大きな不満を持っていた。


 

 弱いことは悪、そう言った価値観を持った彼らにとっては、戦う力が無いものが悪いといったところだろう。





 だが、俺が彼らに何度も、丁寧に説明し、頭を下げたことでやってくれるようになった。


 強者は絶対、一方的に命令することはあっても、頼むことは無い。それもあって、そこまで言うならという気持ちと共に受け入れられたことを後でガイオスが教えてくれた。






 徐々に積み重なる功績、そして、赴いた地で盛大に歓迎される優越感と、どこにいっても畏怖される誉れ。


 それに加えて、家畜や収穫が予想される農作量の生産量から割り出した彼らへの配分量、そのこれまでとは明らかに増加したものを明確に示したことで彼らは積極的に動くようになっている。



 

 

 俺も何度かそれを視察したが、その光景は強者と弱者、共に笑い合える理想的な関係がしっかりと息づき始めているのを感じさせてくれた。


 これまでは、両者の橋渡しをする者がいなかった。上手く利害を心情を調整し、共存を図るような存在が。

 

 でも、それをしてあげられれば、世界は変わる。彼らは別に憎しみ合っているわけでは無いのだから。





 読んだ報告書の内容を思い出しながら、今後の対応について頭の中で考えていると、扉がノックも無しに強い勢いで開かれる。


 どうやら、話題の部隊の主がちょうど来たようだった。




「頭、戻ったぞ」



「お疲れ。どうだった?」



「いつも通り、一方的に倒してやったぜ。南の連中は、もっと強かった気がするが、今回はそれを感じる間もなく終わってた」



「だろうな。個で戦う他領の者と、集団で戦う俺達、その差は歴然だ」



「なるほどな。だが、最近は頭の言う群を率いる強さってのがだいぶ分かってきた気がするぜ。こりゃなかなか楽しくていいな。それに、今までと違って戦えば戦うほど感謝されるのも悪くはない。後は、頭との戦闘演習に勝てばそれでいい酒が飲めるだろうよ」




 定期的に領軍の力を測る目的で戦闘をしている。未だ、黒星はついていないが、徐々に連携を高める彼らとの戦いはヒヤッとさせられる場面も多くなってきており、その力の高まりを確かに感じていた。




「まだ負ける気はないけどな。だけど、最近戦闘にも行っていないし、勘が鈍ってる。もしかしたら、次は危ないかもしれないな」



「……次回の演習は延期したらどうだ?最初は全く分からなかったが、形に見えるように変化が起きてきて、その政務とやらが大事なのはわかった。それに、ほとんど寝ていないんだろう?バロンから聞いた」




 戦闘演習が好きなのか、これまで、いつやるかとしか言ってこなかった彼が延期を提案してきたことに驚く。だが、それと同時に気遣ってくれたことがとても嬉しかった。




「心配してくれてありがとう。だけど、同じくらい大事なことなんだ。国防や治安維持を担うお前達は、この国の要。だから、やらせてくれ」



「……まあ、頭がそういうなら止めはしないが。アイツらも楽しみにしてるしな」



「ああ、予定通り行うと伝えておいてくれ。それと、ガイオス、本当にありがとう。そして、彼らにも伝えておいてくれ、本当にいつも感謝していると」



「なんだよ、急に。だが、まあ、その言葉は素直に受け取っておく。それとアイツらにも確かに伝えておくさ。邪魔しても悪いし、俺は行く。じゃあな、頭」



「ああ。お疲れ、今後も頼む」



 

 彼がいつものように慌ただしく部屋を出て行く。


 俺は、少しの間目を瞑ると、気合を入れるように再び政務に取り掛かった。







◆◆◆◆◆







 ノックが響き、反射的に入出の許可を出す。来訪者はアルルカだった。



 

「……また、お食べにならなかったのですか?」




 彼女は、悲しそうな顔でこちらに問いかける。


  

 そう言われて気づくと、部屋に夕日が差し込んでいた。目の前には冷めた食事。


 またやってしまった、と思うが後の祭りだ。




「すまない。後で食べるつもりだったんだが、気づいたら今になってた」



「……ユウト様がこの国をより良くしようと無理をされてるのは当然分かっています。ですが、どうか、ご自身のことも考えてください」




 今にも泣き出しそうな顔で聞かされるその言葉は、もう何度目になるだろうか。


 俺は、その顔を見る度に胸が痛くなる。だが、無理に止めようとしないのはそれが今は必要なことだと、彼女も理解できてしまうからだろう。




「今後は、もう少し気を付けるよ。それに、バロンの集落の者が合流したら、しばし休みを取るつもりだ」



「はい。一日だけでもいいのです。どこか、人のいない静かな場所で休息を取りましょう」 

 


 

 人が目に入ってしまえば、俺はまた政務に取り掛かるだろう。彼女が、それを見越して提案してきているのが分かった。

 

 


「わかった。そうだな、以前地図の作成の時に知った良い場所がある。そこでゆっくりと過ごそうかな」



「はい、そうしてください。その時は、私もお供しますので」




 休めるようにお目付け役も兼ねているかもしれない。だが、最近は二人になることがほとんど無かったし、それもちょうどいいかもしれない。


 城に来る前、二人だけで過ごしていた頃が遥か昔に思える。

 

 彼女もここしばらくは働きづめだ。一緒に休ませれば一石二鳥だろう。




「それはいい。また、弁当を作ってくれるか?全部を忘れて、ゆっくり過ごそう。前みたいに」



「っ!はい!!任せてください」




 

 最近は見ることが無かった彼女の笑顔を見れてほっとする。


 無理をした甲斐もあって、この国は上手く回り始めていた。


 最初は二人だった。でも今は、多くの人が理解し、助けてくれる。


 


 政務に頭を悩ませ、寝る間を惜しんで送る日々に、城に来る前の過去を懐かしく思う気持ちはある。だけど、今もそんなに悪くない。


 それは、俺達の夢が、二人だけの夢じゃなくなりつつあるという確かな証拠だと思うから。


話の構成上、野郎を先に出してるんですが、本当は今後二人のヒロイン風キャラを出す予定なんです。

しかし、アルルカの正妻力がプロットよりも高まり過ぎて、噛ませ犬にさせないようにできるかが不安になってきました(笑)

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