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英明な黒 ―バロン―

 翌日、返事を聞きに集落へ向かう。今回は返事を聞きに行くだけなのでアルルカには城のことをしてもらっている。



 山の麓に到着すると、扉の外には騎士の影が待機しており、こちらへ待つように言う。


 どうやら、意識を共有できるらしい。それに、口も何も分からない、ただの黒い影なのだが個別に動くうえ、話すことも可能なようだった。



 


 言われた通り待っていると、本体がこちらに近づいてきた。



「待たせたな」



「気にするな。それで、どうだった?」



「多少は論議もあったが、我々は貴方に協力することを決めた。これから、よろしく頼む」



「それは良かった。すぐにこちらに来るのか?」



「いや、すぐには難しいだろう。各々の片付けが終わり次第移動を始めるつもりだが、分身体を残してまずは私が行くことにした」



 確かに、移住するには色々と準備が必要だろう。だが、それ以外にも気になることがあった。



「その影達はずっと維持してられるのか?」



「ああ。同時に出せる数には限りがあるうえ、強い衝撃が与えられると消えるが、それまではずっと残る」



「そりゃ便利なスキルだ」



「確かに便利ではある。だが、出した分だけ影と本体それぞれの力は弱体化する。どちらにしろ貴方の前では鎧袖一触だろうが」



「なるほど、短所もあるわけか。これからすぐに街へ向かうってことでよかったか?」



「頼む。それと、まだ名乗っていなかったか。私の名はバロンだ。これからよろしく頼む」



「こちらこそ、よろしくな」



 そうして、お互いに握手をした後、俺達は、飛行魔術を使い街へ向かう。アルルカは魔術が使えないので、万が一に備えて手が伸ばせる距離に置いていたが、今回はその必要も無いので普通に飛ぶ。



「なるほど、これは、凄いな。こんなことをしていれば、すぐに魔力が枯渇してしまう。どうやら、貴方の魔力は桁違いのようだ」



「いや、魔力自体はそこまで多いわけじゃないんだ。ただ、俺は精霊と話せてな、使った分だけ彼らが魔力を注いでくれるんだ」



「……そんな話は聞いたことが無いが。実際に見せられてしまえば信じざるを得んか」



「それと、大っぴらには言ってないんだが、実は俺、異世界から来たんだ」



「異世界だと?まさか、本当にあったとはな。だが、それで逆に納得もいった。貴方は、異質だ。この魔界で、それだけの力を持つものとしての価値観では無い。それこそ、力と思想がチグハグで違和感を感じていたのだ」



 ガイオスに話したときは、それで?、だけの反応だったので少しはまともな反応が返ってきて嬉しい。



「以前にも変わっていると言われたことはあるな。そんなに変か?」



「ああ。恐らく、今この世を支配している強者達の中には相容れんものも出てくるかもしれん。彼らの中には、民が自分達のために全てを差し出すのは当然と考えている者も少なくないからな。守り、助ける、そんなことを考える者などいたとしてもほんの一握りだろう」


 

 改めて言われるとげんなりする。答えはそれぞれに違うし、俺の答えが絶対の正解というわけではないのもわかっている。


 だが、俺はその考え方が嫌いだ。だから、全てを差し出すのが当然なんてのは全力で否定させてもらう。



「ぶつかる可能性があるのは理解しているさ。それこそ、従わないものもたくさんいるだろう。でも、俺は、弱者が虐げられ、奪われるだけなんてのは嫌いだ。それを延々と見せられるくらいなら世界を変えたほうがマシだと思うくらいには」



「……嫌いか。そうだな。私も、その考えには賛同できる。同胞とは分かり合えなかった、でも、貴方となら分かり合えるかもしれない。だから、可能な範囲で力を貸そう」



「ありがとう。何となく光が見えてきた気がする。何をするにも個人主義で、組織を整えられる人材がいなさ過ぎてな。もしかしたら、それを変えようとしているのは間違ってるんじゃないかって毎日思わせられるほどだよ」



「ふっ、そうだろうな。そもそも強者達がそれを必要としていないのだから。だが、それが不要なわけでは無い。むしろ、その日の食事にも困る者達は、今この時も集団として生きている。必要に迫られてな。だから、安心しろ。貴方の行動を喜ぶ者はいるだろう。恐らく、下に広がっていけばはっきりとそれがわかるはずだ」



 必要なことではあるが、自分の行いは誰も幸せにしないんじゃないかと弱気な考えがよぎることもあった。だが、それを喜ぶ人がいるなら良かった。



「そうか、それを聞いて少しほっとしたよ。アルルカとの舌戦を見ていて思ったが、バロンは本当に物知りだな」



「アルルカ?ああ、あの少女のことか。まあ、私の場合は分身体が作れるうえに、意識も共有できるからな。戦闘としては並程度だと思っているが、知識という点では自負がある。そして、そんな私に拙いながらも対等に喰らいつける少女の才は並外れている。彼女は、たとえ知らないことでも、頭の中で考えることで同じ答えにたどり着いているような気配すらある」



「俺も、アルルカは凄いと素直に思うよ。最初は何も知らなかった。でも、教えれば教えるほど瞬く間に吸収して、更にそれを昇華させる。だから、余計に俺は悔しいんだ。そんな素敵な彼女が外見や魔力が無いだけで簡単に切り捨てられるこんな世界が」



 彼女と過ごすようになって、この世界を変えると言った気持ちは以前にも増して高まっている。



「信ぴょう性に欠ける部分もあるが、白が忌み嫌われることには理由があるようだ。遥か昔、天界と魔界が繋がっていた頃、魔界は劣勢で多くの者が殺され、奪われた。そして、天界の者は皆、白い髪、肌、翼を持っていたらしい。だから、白は憎しみとともに覚えられ、それを屠れるような強いものが尊ばれる風潮が生まれたと言われている」



「……今はその天界とやらとは繋がっていないのか?」



「ああ。当時の魔王達が力を合わせて、世界を繋ぐ門を閉じた後、二度と開かないようにそれを壊したと言われている」



「そうなのか。でも、それが本当なら、彼女は関係の無い過去に縛られているってことだ。なら、尚更それを変える。過去は過去だ。俺達は今を生きているんだから」



 過去は変えられない。自分の出自や、してきたこと、されたこと。でも、今は変えられる。俺はそれを知っているから。



「……そうだな。我々にも思うところはある。だが、過去に囚われるだけでは何も変わらん。未来を見据えなくてはな」



「ああ。先へ進もう。今日が、昨日より良くなるように。そして明日が、今日より良くなるように」



 きっと先には光があると信じて、俺達は今日も歩き続ける。







◆◆◆◆◆






 城にバロンが来てからしばらく。彼は、あっという間に滞っていた政務を片付け、新たな施策を実行していく。


 集落にも置いてきているため、城にいる分身体はそれほど多くない。


 だが、それでもかつてとは桁違いなほどの速さで組織は動き始めたのだ。


 


 組織を更に円滑にするための再構成、社会インフラの整備計画、ルールを統一化するための法律骨子の作成、国土防衛に関する防衛指針、産業育成のための支援制度など




 その動きは誰よりも早く、正確だった。


 ペンは剣よりも強し、騎士甲冑姿でペンを持つ彼は、どこかふざけたような外見だ。しかし、この戦場において、彼は正に無双だった。


 恐らく、今彼に本当の意味でついていけているのはアルルカだけだろう。


 彼のおかげでこの城が回っているのが肌で感じ取れるほどには、その能力は抜きんでてていた。











 それもあって俺は、バロンやアルルカの頑張りに負けないよう前にも増して努力を重ねている。


 皆は無理をし過ぎだと言って休ませようとしてくれるが、今立ち止まるわけにはいかない。


 せめて、集落の者が合流し、無理なくしっかりと回り始めるまでは頑張らなければいけない。


 

 努力はようやく、見える形で実を結びつつあるのだ。皆にはかなりの負担をかけている、だからこそ、始めた俺はそれに応えなければいけないと思うから。



 

 


 そんなことを考えていると部屋にノックの音が響き、バロンが中に入ってくる。



「しばらく部屋に戻っていないと聞いたぞ」



「大丈夫。まだやれる。それに、バロンの集落の人達が合流したら休むよ。護衛の部隊を送ってしばらくが経った。恐らくもう少しで到着するだろうし」



「ああ、あと一ヶ月もすれば到着するだろう。だが、貴方がそこまで無茶をする必要は無い。だから、少し休め」



「それは、ダメだ。今、この国は変わろうとしている。そして、王である俺が頑張る姿を見せればそれは更に加速する。違うか?」



「それはそうだが……それにしてもやり過ぎだ」



「無茶は分かっているさ。でも、反対する者も多い中、それで協力してくれるようになった奴らも少なくない。できるなら、力で押さえつけたくはないんだ。穏便に過ぎるならそれが一番良い」





 地方の豪族や有力な者にはできる限り顔を見せて協力を呼び掛けてきた。


 最初、彼らは何も言わないながらも不満があるのは丸わかりな様子だった。自分の利益が減るのだから当然だろう。


 でも、俺が本気で変えようとしているのが分かると、徐々に積極的に協力してくれる者も出てきた。想いは伝わる、わかり合える。それが俺には嬉しかった。





「確かに、有力者達の協力がここまで円滑に進んだことは貴方の行動故だろう」



「そうだろう?だから、もう少しだけ、それこそ後一ヶ月だけでいい。頑張らせてくれないか。理解してくれる人がいる、今はそれがとても嬉しいんだ」


 

「…………分かった。だが、アルルカ嬢が心配していることは忘れるなよ」



 彼は、強い口調で意志は伝えるが、最も深い部分に立ち入ってくることはしない。どちらかと言えば、他の豪族達と同じように協力者としての立場を明確にしている。


 恐らく、集団の長としての立場を優先しているのだろう。



「ああ、ありがとう。肝に銘じておくよ」


 

 アルルカが毎日俺を心配してくれているのは知っている。何度も話し合い、何とか納得してもらっているが、それでも悲しんでいるのは分かる。


 でも、あと少しだ。そしたら、休みを取ろう。

 

 誰かのために無茶をする。それが誰かの幸せに繋がるわけでは無いのが現実の厳しさを教えてくれた。

今日書いた分は息抜き目的で合間に書いてることもあり、まだほとんど再チェックをしてないのでめちゃくちゃな文章があったらすいません。



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