自分の居場所
お互いが動けるようになった後、ガイオスと連れ立って街に戻る途中、彼が話しかけてくる。
「頭はこれからどう動くんだ?」
頭と呼ばれると、何かの賊みたいに聞こえてくるが、まあ呼び方にこだわるつもりは無い。好きに呼ばせておく。
「とりあえず、今の領地の把握と、周辺の情報収集だな。ガイオスはそう言った情報は知ってるのか?」
「いや、全くだ。強い奴の情報は聞けば覚えてるが、知ってるやつとはもうほとんど戦ったから他は知らん」
「まあ、そうだろうな。部下とかでそういうのに長けたやつもいないんだよな?」
「ああ。俺の部族自体がそもそも力以外興味ない奴ばっかだからな」
惚れ惚れするほど脳筋らしい回答で逆に清々しい気分になってくる。まあ、無いものは仕方が無い。探せば、何かしら情報を集める手段くらいはあるだろう。
そんなことを話していると街が見えて来た。あれからどれくらい経ったのかは知らないが、正直クタクタだ。
早く家に帰りたい。
「とりあえず、今はお互い何もする気力が無いだろう。今日は休んで明日また話そう」
「そりゃいい。正直、今にも寝ちまいそうなくらいだったんだ」
ガイオスはそれを聞くと上機嫌になり速度を速めた。何ともわかりやすいやつだと少し呆れてしまう。
だが、裏とかを読まなくてもいいのは話していて楽だ。足元をすくいに来るタイプでは絶対無いだろうし。
ガイオスと別れ、俺は一直線に自宅へ向かう。
そして、家の扉を開き、中に入ると机で寝てしまっているアルルカがいた。
それに、近くにいる妖精たちが、俺に文句を言ってくる。
≪ずっと彼女待ってたのにー≫
≪ご飯がいっぱいダメになった≫
「本当に悪かったよ。お前らも留守番ありがとうな」
俺の声で起きたのだろう。アルルカは目を開けた後、寝ぼけた様子でこちらを見ている。
「ただいま、アルルカ」
「……ユウト様。心配致しました」
彼女は、眼を見開くと、俺に強く抱き着いてきた。かなり、心配をかけてしまったようだ。
胸元の部分が温かい液体で湿っていくのが分かった。
「本当にすまない。ずっと戦い続けてたからあまり分からないんだが、俺が出かけてからどれくらい経った?」
「……今日でちょうど一週間になります。私は、ユウト様を信じていなかったわけでは無いんです。でも、申し訳ありせん。一人でこの家にいる間、何かあったのか、もしかしたら、置いてどこかへ行ってしまったのかとつい考えてしまったんです。信じると言った私がそんなこと考えるなんていけないことなのに」
一週間、そんなに経っていたのか。そんなの、心配するに決まっている。
しかし、彼女はそうは考えなかったのだろう。信じているのだから心配するのはおかしいと自分を責めている。
俺は、その不器用で、真っすぐな、人との関わり方を知らない彼女を慰めたくて、つい頭を撫でてしまった。
そして、彼女はそれにびっくりしたように、上目遣いにこちらを見上げてくる。
「身近な人を心配するのは、当然だ。そこに、どれだけ信じているかは関係ないんだよ。だから、アルルカは間違ってない」
「それは、本当ですか?私は、しっかりやれていますか?」
涙ぐむ彼女がそう縋るように尋ねる。
「むしろ、やり過ぎているくらいさ。頑張りすぎなくていい、むしろ、もっと甘えてくれてもいいんだから。それと……心配してくれて嬉しかった。優しい君と会えたことは、本当に幸運だったと改めて思うよ」
「……幸運、なのでしょうか」
「ああ。信じられないなら、何度でも言うよ。俺は君と会えて、良かったし、幸せだ。だから……これからもずっとよろしく頼むな」
「っ!はい!!こちらこそ、よろしくお願いします!!!」
彼女は笑顔になると、勢いよくそう言った。
俺はようやく笑った彼女を見て、安心したからか盛大に腹を鳴らす。
「ふふっ。最初に会った時を思い出しますね」
「あー、確かに。締まらなくてごめんな。なんか俺、アルルカに腹の音ばかり聞かせている気がするよ」
「いえ、大丈夫です。それに、その音は、私にとっては幸せな音ですから」
彼女は最後にそう呟くと、鼻歌混じりに料理を作り出す。
どうやら、彼女の涙は止められたみたいだ。
そして、その光景を見ながら、思う。
正直、ガイオスとの戦いはギリギリだった。俺は満身創痍で、余裕なんか欠片も無かった。
恐らく、これから俺は多くの障害に当たり、無茶をするだろう。
まだ夢を掴むには程遠い。先は見通せず、道は未だ、長く、険しい。
でも、俺には不安はない。
自分を心配してくれる人がいる。ただ、それだけで、頑張れる。歩み続けられる。それを知っているから。
義父さん、義母さん……俺はまた、自分の居場所を見つけられたみたいだ。
だから、見ていてくれないか。俺はちゃんとやり遂げるから。
そして、後で自慢させてくれ。俺達で作る優しい世界を。




