鞘は剣に優しく寄り添う
※アマギ呼びが違和感があったので、「重なる手のひら」からユウト呼びへと変更しています。
最高位ランカーとしての登録や賞金の受取りを済ませて会場を出ると、外で大勢の人が待ち受けていた。
彼らは、俺を見つけるや否や、大声で名前を叫び出す。
以前からこういったことはあったが、それとは比較にならないほどの人数だ。
そして、それは会場付近だけではなく、家までの道すがらずっと同じ光景を見せられた。
自分の名前のコールをされることには恥ずかしく思う気持ちはある。だが、皆が浮かべたその笑顔はそれを上回るほどに嬉しかった。
力を是とするこの街は殺伐とした冷たい雰囲気がずっと流れているように感じていた。
住民たちの間には、常に品定めをしているような雰囲気が漂い、隙を伺う獣のようにも見えていた。
しかし、今この時だけは違う。皆の目には、光が宿っており、いつもは競い合う隣人と肩を組んで笑っている。
俺は、この光景を忘れないだろう。そして、いつかこれが日常になるようにする。
誰も、周りを傷つけたいわけじゃない、蹴落としたいわけじゃない。ただ、余裕が無いだけなのだ。
幸いにも俺には力がある。ならば、俺は、彼らに力を示し、希望を抱かせよう。
そして、世界を光で塗りつぶすのだ。どんな色にも染まらないような白で。
◆◆◆◆◆
「ただいま」
家の扉を開け、帰宅の挨拶をすると、笑顔のアルルカが出迎えてくれる。
「おかえりなさい」
目の前には、初めて見るような豪勢な料理がいくつも並び、お祝いムードだ。
それは、言葉は無くとも、彼女が信じてくれていることをこの上ないほどに感じさせてくれた。
「今日はいつもに増して旨そうだ」
「はい。今日のは特に自信がありますよ」
「それなら、早く食べなくちゃな」
俺達は、椅子に腰かけると、いつものように食事の挨拶をした。
「「いただきます」」
本当にうまい料理だ。前の世界を含めてこんなにおいしい物は初めてかもしれない。
俺も簡単な料理は作れるが、ザ・男の料理といった感じで手の込んだものは作ったことが無かったし。
「ガイオスのことで知っていることを教えて貰ってもいいか?」
食事を始めてしばらくした後、アルルカに尋ねる。
「はい。ガイオスの戦い方は身体強化による接近戦、スキルはその強化を更に跳ね上げる鬼神化。スキルを使った状態での彼は、残像を残しながら移動、地形を変えるほどの攻撃を放ち、更にはその防御力で一筋のかすり傷さえ負わせることさえできないと言われています」
「なるほど。純粋な肉弾戦になるってことか」
「恐らく、搦手無しの正面からのぶつかり合いになるでしょう」
だったら話は簡単だ。ただ、ぶつかり、競り勝つ。それだけでいい。
「単純明快でいいじゃないか。正々堂々、勝たせてもらうとしようか」
「それと、鬼人化による強化は魔力では無く気力が続く限り維持できるようです。でも、意地の張り合いならユウト様は負けないでしょう?」
彼女は何かを思い出しているのか、微かに笑うようにして、そう言う。
「そうだな。頑固一徹、意地の比べ合いなら誰にも負ける気はしない」
俺が自信満々にそう伝えると、彼女は腹を抱えて笑い出した。そして、笑いが治まると、こちらを向いた。
「私は、何があってもユウト様を支えます。それは、たとえ、どこかで夢が破れたとしても。私は、貴方が何と言おうと、どんな道を辿るとしても、ずっと一緒にいますから」
彼女は、強い決意を含ませる声でそう言い切った後、再び笑顔を浮かべる。
以前、気弱そうに、伺うようにこちらを見ていた彼女はもうどこにもいない。
美しく、儚げな白い花は、今、満面の花を咲かせていた。
◆◆◆◆◆
自分の部屋に戻ると、俺は今まで以上に気持ちが高ぶっていた。
今日、改めて思った。世界は変えられる。
アルルカは夢が破れたとしても支えてくれると言った。
恐らく、彼女は、俺がどこまで堕ちようとも優しく寄り添ってくれるだろう。それこそ、育ての両親のように。
もしかしたら俺は、育ての親が死んでから、心の奥底で孤独を感じていたのかもしれない。
その言葉を聞いた時、心が温かさに包まれるような感覚さえ感じ、思わず泣きそうになった。
そして、なおさら負けるわけにはいかないと強く思った。
堕ちた俺を支えるような人生が、幸せな人生だとはとても思えないから。
優しく、人が手を取り合えるような世界を作る。そして、彼女にはそこで笑って生きて貰う。
だから、俺は勝ち続けなきゃならない。誰にも負けるわけにはいかない。
これから、どんな苦難があっても、たとえ、どれだけ苦しくても歩み続ける。
それが、アルルカや街の住人に少しでも夢を見せた俺の責任なのだから。




