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水面下ならば潜ろうか  作者: 森羅秋
瞬とカンゴウムシ事件と夏休み
9/56

同じ内容

文字数1900くらいです。


「え!?」

 瞬は酷く驚いたように目を見開くばかりか、思わずコップを落としそうになる。

 いつものリアクションではない? と不思議そうに見つめるアルの視線から少し逃げるように、瞬は目線を下に向けた。

 だが動揺は隠せない。なんたって先ほど、女神に頼まれた内容そのものだからだ。

 小さく呼吸をして動揺を落ち着かせてから、ゆっくりと顔を上げる。

「……まじで?」

 濁音混じりで言い返すと、アルは不可解と言わんばかりに眉をひそめた。

「そうだけど……」

「そっか」

 瞬の態度が煮え切らない。普段なら返事一つで嬉々として飛びついてくるはずなのに、今日は困惑色が強い。アルは怪訝そうに首を捻った。

「何かあったのか?」

「え? ああ……」

 瞬はゆっくりと首を傾げる。先ほどの女神との会話をいう事は出来ない。仮に言ったとすれば酷く驚かれるばかりか、どうしてそうなったのか詰問されるだろう。自分でも良く分からないので答える事が出来ない。そして女神からが『兵士に言わないように』と言われている。つまり警護隊及び兵士所属には誰一人いう事ができないのだ。

 目の前のアルにも言えない事だ。

 瞬は口角を上げて笑った。

「ごめんごめん。自宅でカンゴウムシのニュース見たばかりだったから。もしかしたらそのうちアルから言われるようになるかもーって思ってたから、タイミング良くてびっくりしただけ」

「そうか?」

「うん。それで? 詳しく話してよ」

「なら話を続けるけど……」

不思議に思いながらもアルは本題に戻った。

「実はなぁ。ここの所、こっちのホープの入り口にカンゴウムシが目撃される事が多くて。……泉都市にまた増えてきているんじゃないかって話になっている。自然発生だと思うがその数が異常でさ。パニックにならないよう密かに調べたいんだけど兵士だと目立つ。本来なら連携を組める隊員達も……今はちょっとトラブル続きでイマイチなんだ。ギオは未熟だから別行動できない。しかし隊員に内密を頼めるほどの知り合いは……いない」

「だから、私に頼むって事にしたの?」

「まー、瞬の方が明らかに信頼度高くて、確実かなって」

「確実?」

 言葉に引っかかったので聞き返すと、アルは少し視線を斜め下に移動させて眉を潜める。

 言いにくそうに、複雑な表情のまま瞬に向き直った。

「さっき連係組めないって言っただろ。共有関係の隊員達に対してと、カンゴウムシに関してなんだが、最近、どうも一部の兵士が妙な動きをしているみたいなんだ」

「妙な動き?」

「不仲にさせている、というか、連携を機能させないようにしている輩がいる。でも誰か分からないんだ。その調査とけん制も兼ねて俺が動くことになったから、カンゴウムシの件まで手が回らなくなったんだ」

「大変だねぇ」

 労いの言葉をかけると、アルは嬉しそうに口角をあげる。

「無論、瞬の出来る範囲でいいんだ。頼まれてくれないか?」

「やる!」

 キラキラ目を輝かせながら瞬が元気良くオッケーの返事を返すと、アルはビシッと言い返した。

「遊びじゃないぞ」

 口ではそういいつつも、顔は笑っているので説得力がまったく無い。

「分かってる。それと質問、一部の妙な動きってどーいうこと?」

「うっ」

 この質問が一番痛かったのか、アルは苦いものを舐めるように舌で唇を舐めると、苦笑いを浮かべた。

「勝手に動く。命令してないのに独自の判断で行動し、その結果、事態が悪化し余計に手がかかる案件が増えてきている、という事だ」

「うわ。不穏な動きってやつ?…………西地域全般の取締役って、大変な役職だねぇ」

「ああ。心労が増える、増える、チームワークで足並みそろえさせなきゃいけないし、もう責任重大、勘弁してほしい」

 アルが重々しいため息を吐くと、

「大変だね」

 と瞬は笑いながらねぎらいの言葉をかけた。

「そう言ってくれると嬉しい」

 とアルが苦笑して答える。

 その仕草が可愛くて、瞬は微苦笑するとコーヒーを一気に飲み干した。

 空になったコップをテーブルに置いて立ち上がる。

「それじゃぁ、土・日はさんで調べるから、月曜日にまた来るよ」

「帰るのか?」

「うん、母さんが早く帰って来いって。もうすぐ7時だし、頃合はいいでしょ?」

「そ、だな」

 少々残念そうに呟くとアルも立ち上がった。そのままドアの前でさよならはせずにホープ出入り口までしっかりと瞬を送り届ける。

「じゃね、アル。また来るよ~」

「またいつでも来いよ~」

 瞬は手を振りながらホープに向かって歩き、彼女を見送ったアルはアクアソフィーへ戻った。

 

 目を細めて景色を眺めながら、瞬は今日の出来事を考えていた。


『今、泉都市に発生しているカンゴウムシについて、調べてほしいのです』

『悪いんだけど、カンゴウムシの種類調べ、手伝って欲しい』


 女神とアルから同じ日に同じ内容を依頼された。女神は兵士に言わないように念を押す。アルは一部の兵士が不穏な動きをしており、まだそれが誰か把握できてないという。

(これって、偶然?…………二つの依頼はほとんど同じ、そして兵士を疑っている。一体何が起こっているの?)

 瞬は頭の中で色々考えてみたが、回答は得られなかった。




やっと調査の動機が出来ました。ヤバそうな匂いがしますね。

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