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水面下ならば潜ろうか  作者: 森羅秋
瞬とカンゴウムシ事件と夏休み
7/56

女神の頼み事

文字数2200くらい


「……」

『……』


 しーんとあたりが沈黙で静まりかえった後、

「へ?」

 と瞬はまぬけな声を出して顔をあげた。


 見上げると、湖ギリギリまで近づいた女神ミナが笑みを浮かている。何度も瞬きを繰り返す瞬にもう一度同じ言葉をかけた。


『貴女に頼みたいことがあるのですが、引き受けてくれますか?』

「え?」


 届いた声を脳内で何回か反芻させてから、躊躇いがちに声を出す。


「頼みたいこと……って、なんですか? その、私は一般人ですけど……」


 どのような頼み事なのだろうか?

 まさか、ちょっとそこまで買出しという訳ではないだろうけど。


『貴女だったら、きっと私の頼みを聞いてくれると思っています』


 拒否権ないのでは? という言葉が喉まで出かかって飲み込む。


「たのみとは、なんでしょう」


 瞬は蒼い顔のまま、声を震わせつつ聞き返すと、女神ミナは想定外な頼み事をしてきた。


『今、泉都市に発生しているカンゴウムシについて、調べてほしいのです』


 瞬は女神ミナから言われた事を脳の一番端から端まで浸透させてから、腰を抜かすほど驚いた。


「ええ! そ、そんなこと!? わ、私は一般人ですよ?」


 再度強調する。そう、瞬は一般人である。瞬の()()を女神は知らない。なのに、ピンポイントに刺さる頼みをしてくる。出来なくはないというか、()()()()()()()だが、素直に頷くことは出来ない。それは警護隊の仕事だからだ。瞬が大々的にすることではないと重々承知している。


「それは兵士がやることでは? 私では……」


 断りの返事を出そうとしたら、女神ミナは寂しそうな表情を浮かべて、瞬と目線をあわせる為に膝を折り座った。


「うえ?」


 驚く瞬の目を女神ミナは捕えた。水色の瞳が瞬を映して放さない。


『頼みます』


 その一言が瞬の肩にズシッとのしかかる。決して女神の戯れではなく真剣だと瞬時に判断した。だからこそ、慌てる。


「あの、ええと、その。……ど、どうして私なんですか?」


 焦れば焦るほど、逆に頭の一部が冷静になっていく。そして慌てた感情が一周して落ち着いた。落ち着いたら疑問点が明確に浮かんでくる。

 瞬はゆっくり深呼吸をしてから、女神ミナに問いかけた。


「もしかして、兵士を頼れない理由があるのですか?」


 女神ミナの目がほくそ笑んだ。すぐにやましい魂胆が消え、代わりに真摯な眼差しが浮かんだ。


『ええ、兵士では説得力が足りない。一般人だからこそ説得力が増します』


 瞬は首を傾げる。


「ええと。一般人なら、私以外でもよろしいのでは?」

『何人か迷い込む人はいましたが、ここまで来る者はいませんでした。恐れ知らずで好奇心旺盛な人だと感じたからこそ、貴女に頼もうと思ったのです』


 あううう。と瞬は呻いた。褒められているのか、阿保と言われているのか分からない。


『どうか、聞き入れてください。貴女にしか頼めないのです』


 瞬は目を瞑って考える。初めから瞬を選んでいたような口ぶりがあるが、そんな訳はないと一蹴して。もう一度、女神ミナを見る為に瞼をあげる。女神は懇願する視線を瞬に送っているままだ。


(いやもう、めちゃくちゃ可愛いっていうか、美しい)


 またしても見惚れて数秒固まり、それどころではないと思考を戻す。


(兵士だと説得力が足りないって、なんで? 一般人の説得力って一体?)


 意味が全く分からないが、女神の頼みごとは断れない。瞬は腹を括って頷いた。


「わかりました。素人で出来る範囲で構わないなら調べてきます」

『感謝します』


 承諾に喜び、女神ミナは美しい笑顔を浮かべる。直視してしまい、あまりの綺麗さに瞬は顔が赤くなった。


『頼みを承諾してくれて助かりました』

「では、カンゴウムシの何を調べたらよろしいのですか?」

『泉都市に出没している範囲と種類を明確にして頂きたいのです』


 そして女神は少し顔を曇らせた。


『もし、貴女から見て異常発生しているようなら、直接私に会いに来てください』

「会いに? 直接!?」


 思わず叫んだら、そうよと頷く女神ミナ。


『兵士や隊員に何も知らせず、私にだけ。そうね。貴女のタイミングで良いわ。ここに来て。すぐにわかるから』


「な、え!?」


(直接女神様に報告!? なにそれ意味わからない!?)


 驚愕しすぎて固まった瞬に、女神ミナは柔らかく微笑むと、

『頼みましたよ』

 と一声かけるな否や、用件は済んだとばかりに湖へ沈んでいった。


 静かな湖畔へ戻る。

 瞬は呆然としながらも、言葉を脳内で反芻させる。

 女神から依頼されるなんてそんな夢物語……、もしかしたらこれは夢かもしれないと、自身の手首をつねってみたが痛い。まぎれもない現実だ。


(ええと、確かに、この数日にニュースで異常発生してるって聞いてるけど……。兵士に頼まずに私に頼むってどういうこと? なんで? もうわかんない!?)


 油汗を浮かべたまま呆然と立ち尽くす。女神に問い詰めたいが出来るはずもなく、仁王立ちして数分経過。湖に通じる通路から兵士の姿がちらりと見えて、ハッと我に返った。


(ヤバ! 早くかえろ!)


 折角女神が許してくれたのに兵士に見つかってしまっては意味がない。秘密って言われた以上、ここで瞬が見つかっても女神ミナは庇ってくれない気がする。瞬は見つからないようにこそこそと、来た道を戻った。石畳に案内されるように林を抜け、小道の出口に差し掛かった時だ。


「ん? これは」


 小道の出口、茂みを掻き分けて手に何か当たる。『関係者以外立ち入り禁止』と書かれた小さな看板だった。


「こんなのが……あったなんて」


 瞬は苦々しく舌打ちをする。


(誰だ抜いたやつ! ちゃんと立ってれば入らなかったのに!)


 もう一度毒づきながら、看板を地面に刺して固定し、手を払いながらアクアソフィーへ歩いて向かった。なんだかんだで、一時間経過したのでアルの元へ行くことにした。



あとがきに書くことがなくなってきました。

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