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水面下ならば潜ろうか  作者: 森羅秋
瞬とカンゴウムシ事件と夏休み
6/56

香紋の公邸

文字数2300くらい


 公園の林を歩いていたはずが、いつの間にか様相が代わり、木々の隙間から透明なパイプが頭上の空へと広がるのが見えた。


(なんだろう? あれ)


 気になった瞬は上を見上げながらどんどん進んでいく。細かいパイプが合流し、どんどん本数が少なくなって更に先へ伸びている。パイプの中を細かい空気の泡が通り抜けているのを見て、これは水を運んでいる透明な水道管だと気がつく。


「あ!」


 気づいたところで視界が開け、青く広がる湖に来ていた。アクアソフィーに近い位置にある湖。湖の各場所からパイプが突き出ており、生活に使う水が各地に送られている。


 ここは『個水(こすい)』と呼ばれる湖であり、島の神聖な場所の入り口だ。島の守り神でもある、女神が宿っている湖へ続く道だからだ。


「もしやここ、個水こすい?」


 女神の住処に足を踏み入れるのはご法度。政を行う一部の人しか入る事を許されない。


「や、ばい」


 とんでもない場所に足を踏み入れてしまった。と理解して、誰にも見つからずに引き返そうとするが。

 不意に、湖の色が目に飛び込んできた。


「わぁ……」


 遥か前方にキラキラ光る群生。色とりどりの光る色に惹かれるように、焦燥が一気に飛んでしまった。


「すごく、綺麗……」


 ふらふらと導かれるように湖にゆっくりと近づくと、水面の輝く色に自分が映り込む。ぼうっと呆けているような表情だ。目にまた色が飛び込んでくる。まるで誘うかのように、色が湖の奥へ移動するように輝く。興味を惹かれた瞬は色を追っていく。

 

 ふらふらとした足取りで水際を半周して、更に奥へ進むと別の湖に辿り着いた。

 コバルトブルーの湖は神聖な空気を孕んでいる。水面から伸びた木々が綺麗な林を形成していた。林を囲うように七色を彩っている花々が水の上に咲いている。光が当たる角度で様々に色を変える花達は、空と湖の色を跳ね除けるかのような力強さをだしている。


「すっご……!」


 見渡す限りに広がる素晴らしい景色をみて、まるで巨大な美しいステンドガラスだ。と、瞬は感嘆の言葉をはく。

 

 ここは『香紋(かもん)の公邸』と呼ばれている湖。

 島の真の統率者『浄化の女神ミナ』と『波及の女神ユク』の二人の女神が住んでいる。


 女神達がいつ誕生したの分かっていない。

 古の昔よりミズナビトの神として崇められており、島が統一された時にリクビトの神にもなった。

 水源がほぼない島に清らかな水を生み出し隅々まで行き渡らせ、汚水を浄化してまた清らかな水を生み出す。

 彼女達がいなければ島の資源は維持できず、岩だらけの土地になっていただろう。

 女神たちは島の食糧事情自然状態を管理し、外の侵略者に対しての防衛主力を尽くすことを使命としている。

 

 そんな島の心臓部でもある女神達が一般人にほいほい姿を現すことはない。女神達と話を出来るのはごく限られた者たちだけ。


 見つかれば説教だけでは済まないだろう。誰にも見つからない内に去ったほうがいいと分かっているのに。

 その当たり前の常識が、何故か瞬からごっそりと抜け落ちていた。


「すっごいなぁ~」


 無垢なままで景色に感動していると、前方の水面がゆっくりと盛り上がった。

 水の盛り上がりは人の形になり、色が広がり、あっという間にしなやかで美しいし女性の姿に変化する。知的を思わせる水色の瞳、ピンク色の唇、水面にまで届くストレートの黄緑の髪、モデルのような体系の体にはローブのような布に包まれて、長くて深いスリットが左横に入っている。

 瞬は目を丸くした。何度かテレビで見た事がある。彼女は浄化の女神だ。


「!?」


 瞬はぬるま湯にいきなり氷水を突っ込まれたような衝撃が走り、数秒固まった。そしてこの場所が香紋の公邸だと気づき、愕然とした。


(ぎゃぁぁ!)


 内心叫びまくり混乱するも後の祭りである。


(うわぁぁぁ! 立ち入り禁止区域だぁぁぁ! どうしよぉぉぉぉ! みつかっちゃったあああ! よりによって女神様に!)


 完全に硬直してしまった瞬は、近づく女神ミナに会釈することも出来ない。

「あ、の」

 と辛うじて声が出るくらいだ。徐々に涙目になってくる。


「す、すみ、すみま、し、せ」

『そこの貴女、落ち着いて』


 涙目になっている瞬を見て、女神ミナは優しく呼びかける。


『大丈夫だから』

「はい!」


 反射的にびくぅっと背筋を整えて、瞬は冷や汗を浮かべながらにへらっと意味なく微笑んだ。


『そのままそこで待っていて』


 女神ミナはじっと瞬を見つめながらゆっくりと水面を歩き、近づいてくる。女神の身長は瞬より頭数個分高い、200~250㎝くらいは余裕でありそうだ。


 湖を歩いて来る度に覗く白い足がチラリチラリと見え、瞬はかぁっと顔を赤くした。女なのにどきどきしながら見惚れている事に気づき、更に顔が赤くなる。


(ハ! こんなことをしている余裕ないし!)


 そしてすぐに現実に戻り血の気が引く。


(どうしょう……)


 落ち着いていたのにまたパニックに陥る。立ち入り禁止に勝手に入って、よりによって女神に見つかってしまった。

 不審者だと問答無用で兵士にしょっ引かれて、お説教が轟々鳴るに違いない。いやお説教で済むはずがない。絶対にアルに迷惑がかかる。とばっちりで謹慎処分は下されるかもしれない。


(あああ、アルごめん、ほんとごめん)


 だからと言って、何も言わずに逃げては駄目だ。変な風に疑われる。本当に悪気はなかったのだ。

 それだけは理解してもらいたいので逃げたい気持ちを必死にこらえて、女神が近付く姿から目をそらさない。心臓のバクバクした音が耳に響く。冷や汗タラタラの青い顔をしているが、意思の宿る眼は常に女神ミナを見つめていた。


 女神ミナが瞬の前で止まったので、勢い良く丁寧なお辞儀をする。


「ご……ごめんなさい! 勝手に入ってしまいました!」

『あの、頼みたいことがあるのですが、引き受けてくれますか?』


 瞬は頭を下げ謝るのと、女神ミナが言葉を話すのが同時になった。


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