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水面下ならば潜ろうか  作者: 森羅秋
瞬とカンゴウムシ事件と夏休み
52/56

やりかえす

文字数3200くらい


「それに貴様は」

「詳しい話はあとで聞きます」

 さらっと言葉を遮ると、

「シフォンーーーーっ!」

 怒り心頭になったガリウォントが暴れ出した。アルに掴みかかろうと全身を大きく振って拘束を振りほどこうとする。

(なーるほーどねー。しょーもない理由だけども、まぁ、気持ちは理解できるかな)

 その光景を眺めていた瞬は腕を組みなおしながら苦笑する。

(あの顔と比べるのがそもそも間違いだよゲマイン)

 今、アルは兜を装着していないので素顔が晒されている。凛々しく整った顔立ちは美男子の部類だ。瞬ですら羨ましいと嫉妬してしまう顔である。

 ガリウォントはアルの顔に憧れを抱いたのかもしれない。誰からも無条件で好かれる容姿が羨ましかったのかもしれない。

 だからこそ憎むべき存在になった。自分に無いものを持つ人間に出会うと、好意か敵意のどちらかに転がる。ガリウォントは敵意に傾いた。

 瞬はガリウォントの劣等感や心情をある程度理解した上で、気に入らないと眼光を鋭くする。

(かといって、それですべて水に流してやるなんて、全然思ってないんだからね!)

 一歩間違えれば、アルは反逆者にされていた。ガリウォントの犯してた罪をそのまま肩代わりする数歩手前だった。証拠が間に合ったから良いものの、それだけは絶対許せない。単に捕まえるだけじゃ腹の虫が収まらない。

(やられた分は、きっちりやり返す。地獄みせてやるわ)

 瞬はにやりと凶悪な笑みを浮かべる。

「どけえええっ! 離せえええっ!」

「確かにーー! ゲマインの言う事は一理あるーー!」

 怒り狂って兵士たちを振りほどこうとしているガリウォントに聞こえるように、瞬は大きい声を出した。

 ガリウォントがピタリと止まる。まだそこに居たのかと驚いていた。アルばかり見ているので周りが見えていない。注意散漫のようで好都合。

「瞬?」

 何故わざわざ注意を惹くんだ? と不思議に思うアル。

 ガリウォントと目があった瞬は、ザマァミロと侮蔑色を濃くした目をむける。馬鹿にされていると気づいたガリウォントは目を大きく見開いて睨んだ。

 こちらに惹きつけたと感じた所で、たきつけるため挑発する。

「アルとゲマインの顔は比べようがないわ! 比べようと思ってもあんな顔と比べたらアルに滅茶苦茶失礼だわ! じゃあ性格は? そこで比べてもやっぱアルが圧勝だよね。比べること自体が難を極めるよね! もう土台が違うもん! 土台違いすぎて話にならないわ! 誰がどう見たってアルは格好いいし性格もいいし非の付け所がない! それでもあえて、あーえーてー比べて例えるとしたら、ゲマインは粗大ゴミね。リサイクル出来ないタイプ。うーん、でも燃えやすい感じだから生ゴミかな! 見るだけで悪寒するもの。こっち見ないで欲しいなぁ!」


――――そこまで言うか?――――


 笑顔になって嬉々として喋る瞬に、何とも言えない空気が漂う。

 ガリウォントの言葉に多少なりとも、ちょっとだけ気持ちが分かると共感した者は、瞬の容赦ない言葉に絶句する。

「え、そんな、て、照れる……」

 そんな空気でもアルだけは瞬からの賛辞をしっかり噛み締めて、頬を赤くして照れている。

 なんだこのバカップルか。と思ったのは一人や二人ではないだろう。

 ガリウォントは久しぶりに受けた酷評に驚いて目を丸くしている。

 その場にいた兵士達は、一瞬だけ、ガリウォントに同情の視線を向けた。

 四方から突き刺さる格下からの同情。一番ほしくないものを一身に受けたガリウォントは

「ゆ…………」

 目から、どす黒い殺意がほとばしる。

「許・さ・ん! 許さんぞぉぉぉぉぉぉぉ!」

 完全にプツっとキレた。

 血走った目を大きく見開き、押さえつけていた兵士を火事場の糞力で跳ね除けながら、兵士の腰から剣を奪う。そのまま猛ダッシュで一気に瞬に近づいた。

「まて!」

 アルですら咄嗟に対応できず、焦りながら瞬に向かって呼びかける。

「瞬! 無茶するな!」

 アルは逃走を呼びかけず、怪我に気をつけろと注意した。瞬が狙って煽っていたことに気づいている。とはいえ、何を企んでいるか分からないし、失敗することだってあるはずだ。万が一に対応すべく、急いでガリウォントの背中を追う。

 ガリウォントの動きに、兵士達が反応しきれていない中、

「はい。ばかがきた」

 この瞬間を待っていましたと、瞬はこの場の誰よりも素早く動く。

「しねええええええ!」

 ガリウォントが剣を振り上げたタイミングを見計らって、彼の懐へするりと飛び込む。

 足に怪我をしているとは思えない速さだ。

「!?」

 ガリウォントは、瞬が間合いを詰めてきたことにかなり焦った。振り降ろすタイミングを完全に外し、慌てて、振りから突きに構え直そうとして……隙ができる。

 ――――そこを見逃すはずがない。

「地獄見ろ!」

 瞬はガリウォントの首の襟を掴んで顔を引き寄せると、握っていたおやつ数個をガリウォントの口の中に突っ込んだ。

「…………!」

 ガリウォントは口の中に入った物の正体に気づき、慌てて吐きだそうとする。それも予測済みだ。

「させない!」

 瞬は拳を下から上に突き出しアッパーカットを繰り出した。ガリウォントは下顎を強打し体勢が崩れた。その瞬間

「んぐっ」

 口の中に果汁の味がした。ゾワっと鳥肌をたてるガリウォント。瞬は更に右ストレートをくらわせ追撃する。

「んがっ。ごく」

 少女とは思えないほど威力があった拳を受け、ガリウォントは歯を食いしばりながら屋根に沈む。殴られた瞬間に口の中に広がる果汁を思いっきり飲みこんでしまった。茫然とする間もなく、すぐに身体が過剰反応を起こす。

「ひっ! ぐっ! うっ!」

 ガリウォントはアナフィラキシーショックを発症した。顔が腫れ、軌道を塞いだか喉を押さえてのたうち回った。

 あっという間の出来事に、誰もがその光景を呆然と眺めていた。

「よっしゃああああ! 上手く行ったあああああ!」

 仕返しが出来てガッツポーズする瞬に、やりすぎだと言わんばかりに兵士から白い視線がチクチク刺さる。勿論気にしない。

 ガリウォントはのたうち回りながら、瞬に向かって途切れ途切れに言葉をかける。

 「ひ、ひぃ、か、じゅう、だと、さい、しょ、から、き、さ、これ、ねら、て」

 瞬は見下ろしながらドヤァと胸を張る。

「へっへー。そのお菓子特別だから、あんたにはよぉぉぉく効くと思うよー! 普段は私のおやつだけど、弱点知ったあとはいざっていう時の切り札としてポケットに入れてたからね!」

「ぐっっ、うっ、か、はっ!」

「ふっふっふ。あんたの弱点把握済みですよーっだ! ざまーみろ!」

 本来ならここまでやる必要はなかったが、散々殺されそうになった瞬に情けはない。寧ろ怖かった気持ちを思いしれ! 悪事に対する天罰くらえ! な気分だ。

 同じ果汁アレルギーをもつギオは、蕁麻疹に苦しむ日々を脳裏に過らせてしまい「ひでぇ」と小さく呟くが、そもそもの元凶はあっちだ。つまり「自業自得だ」と言い直す。

 追い付いたアルは呆れたような視線を瞬に向ける。

「瞬、無事で良かったけど、人殺しはまずい」

「やられそうになったからやりかえしただけでーす!」

 当然。と胸を張って言い切る瞬に何を言っても無駄だ。無事に済んで良かったと思うことにする、とある種の悟りの境地に至ったアルはやれやれと肩をすくめた。

「まぁいいか。瞬に怪我がないし」

 そう呟いてから、屋根でもがき苦しんでいるガリウォントの傍にしゃがみ込んだ。呼吸が浅く脈拍も弱い。瀕死だ。もはや拘束は必要ない。

「ゲマインさんもう少し耐えてください。救護班来てるよな! 処置急げ!」

 意識が朦朧としているのか、ガリウォントはアルの言葉に少し頷く。そして瞬を見た。死にかけていても彼女を見る眼がギラギラと殺気立っている。これは相当恨まれたに違いない。

 瞬はガリウォントと目が合って、にやりと小悪魔的に笑った。

「次からは、獲物はさっさと仕留める事をお勧めするわ」

 口から泡を吐き痙攣しているガリウォントに向かって、瞬は満足げに忠告した。


明日はお休み、次回更新は金曜日です。


*)良い子の皆はやっちゃダメだよ。。。

アレルギーある人にアレルギー食品食べさせちゃダメだからね!

冗談にならないからね!(重度だと命に関わるから、本当に注意してね!)

フィクションだからやってるんだよ!!!!←←←

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