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水面下ならば潜ろうか  作者: 森羅秋
瞬とカンゴウムシ事件と夏休み
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長引く待ち合わせ

「それだったら、私が来る前に知らせてくれれば。もっとゆとりを持って来れたのに!」


 遅刻しそうだと慌てた分、なんだか損をしたような気になり、瞬は両腰に手を添えて言い放った。

 アルは笑いを耐えるように肩を震わせると、瞬がムッとした顔でどんと強めに押す。アルの体が大きく横に揺れた時、腰に付けた長剣がベンチに当たってガチャンと鳴った。


「一応言っておこうと思って待ってた。いないと、俺のとこまで来るだろう? 入れ違いは避けたいなって思ったんだ」


「………そーだね。行くと思う」


 待ち合わせ時間に来ていなければ、瞬は間違いなくアルの職場へ行くだろう。部外者が勝手に顔を出すのも問題だが、アルは西区を管理している部長である。機密事項が多いため、信用問題に発展する可能性があった。


「まぁ、瞬はもう顔パスになってるから、来ても問題ないけど。待つのは嫌だろう?」


 アルが兵士に鳴った頃から、瞬は度々勝手に中に入り、逢いに行っていた。

 注意しても警告しても一向に直らなかったため、ここで見聞きしたことを他言しないよう誓約書を書いて今に至る。勿論、秘密を漏らしたことは一度もない。

 さらに出世したアルが関係者に許可を貰いに行ったこと。

 瞬が足を突っ込んで積み重なった功績のおかげで、環境警備課西区部を歩いていたとしても、咎める者は殆どいなくなった。


 だが、それでも瞬は部外者だ。勝手に歩いていたら、怒られるのはアルである。

 その辺の事情もよく知っているので、瞬はゆっくりと頷いた。


「だから、外で待たせるけど、ちゃんと知らせたほうが良いかな~って」


「それじゃぁ、その辺適当にプラプラしてるよ。どの位かかりそう?」


 瞬が聞くと、アルは考えるように腕を組んだ。


「んんん……三十分? もしくは一時間?」


「かなり掛かるじゃん」


「一時間以内には済ますから、部長室に来てほしい。はいこれ、許可証」


 アルはズボンのポケットからカードサイズの許可書を取り出して、瞬に渡した。


「はいはい、オーケー、オーケー」


 瞬は許可書をズボンのポケットに入れると、アルは立ち上がり、「それじゃ、あとで」と言い残して、駆け足で去っていった。


「あとでねー」


 アルの姿が見えなくなると、瞬はつまらなそうな表情になり、髪の毛をカリカリと掻く。


 一時間の暇つぶしを考えなければならない。

 面白いモノがどこかに転がってないかなと思いながら、アクアソフィー正面玄関に向かって歩く。

 バタバタと足音を響かせて、茶色鎧の兵士が瞬の横を通り過ぎる。


(ここの兵士はいつも忙しそうだなぁ。そういえば警護隊も、カンゴウムシで忙しそうだった)


 水清の孤島の安全を守る職業が二つある。

 リクビトの警護隊は警察に近い組織。

 一方でミズナビトは兵士と呼ばれ、重い意味を担っている。

 人々を守り導く者として、知恵を持ち、戦える者が下を導く――そんな価値観が根付いており、政にも関わることができた。


(リクビトでいえば軍事政権って、匠が説明してくれたっけ)


 アクアソフィーは一階の公共広場を除けば、ほとんど兵士の職場だ。

 瞬は、一時間後に向かう建物を見上げた。


(メガトポリスとは違って、あそこは政のみなんだよねぇ)


 女神に意見を伝える代表を頂点に、環境長・警備長・生活保護長の三つがある。

 その下に環境警備課・環境保護課・警備課・開発課・医学課・文学課が並び、課は東西南北の地域ごとに分かれている。


「おい、あったか!?」

「ない! やばい、ゲマインさんにボコられる!」


 目の前で兵士が慌しく通り過ぎる。

 鎧が動いているだけで、瞬は物々しい雰囲気を感じた。


(動きにくそう……)


 兵士の制服はミズナビトの歴史に由来するもので、不人気なのに、伝統だからと今も着用されている。

 兜のプルームと両肩には、階級や所属を現すネームプレート代わりのアイデェンティファイカラーがつていて、取れていたらすぐにつけ直すことが義務付けられいる。

 武器は剣であり、好きな物を選べるらしく、ロングソードが一番人気である。


(アルが鎧を嫌がる理由が分かるわ。確か、カラーのない着用は禁止で、違反すれば処罰されるんだっけ。だから鎧は暗証番号式のロッカーにいれるとか……考えただけで大変だ)


 特に若い世代のミズナビトには鎧が不評である。

 あと十数年もすれば、リクビトの服装で統一されるかもしれない。


 リクビトの服装は軍服で、耐久防御に加え軽さ重視だ。生地は刃物と銃弾と炎に強い素材でできている。

 階級の紋章をつけた厚手のブレザーとベレー帽、黒い長ズボン。腰に両刃の剣である。

 古代戦争時に使われたモデルをそのまま使っているらしい。

 

 警備隊は、別の島から侵略に備えて結成された組織だ。

 過去には銃を持った侵略者が何度も襲来した記録があるため、現在でも防衛力を保つため、警護隊の需要は衰えない。


(他の島の入り口が泉都市にあるから、自然と役割が分かれたみたいなんだよねぇ)


 考えに没頭していた瞬は、つい兵士専用口に足を向けて、そのまま中に入った。

 わざとではない。兵士と隊員が出入りしているのを見ていたら、足が勝手にそっちへと進んでしまった。


(あ……またやっちゃった。引き返そうか……ううん。変な動きをして職務質問されても困るから、このまま進もう)


 少ないながら一般人も通行しているので、大丈夫だろうと思い、瞬は堂々と歩いた。

 しかし、やはり場違いなのか、兵士に見られている。


(……だよねぇ)


 やましいことはないが、睨まれない内に急いでその場を去った。






(どこで時間を潰そうかなぁ?)


 瞬はアクアソフィー周辺にある、小さな林の中を歩いていた。

 ここは人工的に作られた木の生い茂る広場であり、女神の催事の際に会場として使われる場所であった。女神が住む湖が近くにあるため立ち入り禁止の看板も多いが、それ以外の道を散歩するのは問題なかった。


 家族連れとすれ違いながら、瞬は「つまらない」とぼやく。


 アルは多忙だ。呼び出されても、仕事が長引いて待たされることなんて日常茶飯事。

 瞬はその時間つぶしのため、ここを歩くことが多かった。


(前回もここで時間潰ししたから、何周も歩くのは味気ないなぁ。何か面白いことないかなぁ)


 足取り重く歩いていると、ちかっと、目に光が入った。

 自然光ではないと感じて、瞬は光が飛んできた方向に顔を向ける。


(あれ? こんな場所に小道なんてあったっけ?)


 木々の隙間から小さな道が見えた。

 木々の枝を押しのけて覗いてみると、整頓されている石畳の道が先へ続いている。


(ここは何度も通っていたのに、今まで全く気づかなかった。あの道を辿ると何があるんだろう)


 瞬は好奇心に駆られて小道に入ると、奥に進んだ。

 彼女が踏み込む足の反対側に、何かが抜かれた跡があった。

 少し横の生い茂った枝の葉の隙間を見ると、『関係者以外立ち入り禁止』の小さな看板が倒れており、根元に土がついていることから、あえて引き抜かれていることが窺えた。


 だが不運な事に、それが瞬の目に止まる事はなかった。

 


面白いと感じてもらえたらいいな

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