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水面下ならば潜ろうか  作者: 森羅秋
瞬とカンゴウムシ事件と夏休み
39/56

彼もまた同じ目に

文字数2400くらい


 二人が入っている留置場の正面にも同じ部屋がある。その中に、リクビト男子が鉄格子に張り付く様にこちらを覗いていた。

「なぁなぁ! 今の話本当か!?」

 驚いて興奮しながら話しかけてきた。

 年齢は同い年か上くらい。背は瞬と同じくらいか少し高め。服装はティーシャツの上にシャツを着て、ジーパンを穿いている。

 眉は太くたれ目、やや頬がこけているが精悍な顔をしており、短めな黒い髪が左横だけ乱雑に跳ねていた。

「誰だそいつ! 教えてくれ! 滅茶苦茶迷惑してるんだ!」

 もう一度聞き返す少年に、瞬は冷たい口調で

「誰?」

 と、尋ねた。

「ああ、ごめん」

 少年は軽く謝ると、興奮を抑えて冷静に話した。

「俺はトミヤ。里川トミヤです。あんたらが来る前の、ついさっき、ここに引っ張られて閉じ込められたんだ」

「もしかして、カンゴウムシ取ってた?」

 瞬の問いかけにトミヤ頷く

「そう。避難する前に、あまりにも多くて部屋の中に入りそうだったんで、家に張り付くカンゴウムシを取ってたらいきなり『お前が放しているんだな!』って言われて、年齢と外見が似てるって言われて」

「御気の毒」

 瞬が哀れみを向けると、トミヤは項垂れた。

「父さんが事情を話してくれたけど、疑いありってことで、そのまま連れてこられた」

「うわぁ……」

 と、瞬が呻き。

「酷い」

 と、芙美が呟く。

「厄日だ」

 と、トミヤは落胆した。

(私達と捕まった時間誤差が少ない。本当に手あたり次第に連れてきているんだ)

 瞬は頭を抱えたがすぐに気分を切り替えて、あえて明るく話しかけた。

「そっか。それは災難だったね。はじめまして、私は古林瞬。こっちは……」

「え! ええ!? その声、もしかして女だったのか!?

「…………」

「でも、名前が『瞬』だし……え? どっち?」

 今度は別の意味で、瞬は額に手を当てて重いため息をはいた。

 外見は男と思われがちだが、声が高く柔らかで優しい音をしているらしく、声で女だと分かるらしい。性別を間違われる事に慣れているが、時間がないので省略したいと思ってしまう。

「女です」

「そ、そうか! ごめん!」

 慌てて謝るトミヤ。動揺して片手で顔全体を触っている。

「慣れてる」

 と、瞬はいつものこととあっさりと流すが。

「良くない! 瞬は女の子だよ、間違えないで!」

 芙美が憤慨した。鉄格子を握り絞めて顔を近づけ、鼻先を隙間から出すほどだ。

「うん! ほんとごめんな!」

 芙美の勢いに圧倒され反射的に謝るトミヤ。本気で謝っていると感じた芙美はふわっとした笑顔を浮かべた。

「分かればよろしい。私は加田芙美。よろしくね」

「っっ!」

 トミヤが芙美に釘づけになった。頬がほんのり赤くなって、バッと目をそらした。こちらに背中を向けている。

 瞬は、チラッチラッと二人を交互にみる

(これは……もしや芙美に一目ぼれ?)

 そわぁ。と好奇心がうずく。色恋に興味があるお年頃だが今は追及していい場面ではない。

 芙美は気づいていないようなので、瞬も今だけは気づかないふりをする。

 心拍数を落ち着かせていたトミヤは挨拶の途中だった事を思いだす。また振り返って芙美と視線を合わせる。頬の高揚感は落ち着いていたが、目の輝きは増えていた。

「よ、よろしく! そ、れで。さっきの話は本当?」

 騒いで誰か来るかもと警戒したのか、トミヤは声を潜めつつ入り口の方向を見つめた。瞬も同じように入り口方向を警戒して、足音がない事を確認してから頷く。

「本当。改造カンゴウムシの出所を調べていたら行き付いちゃった」

 トミヤは呆れながら

「なんだそれ」

 と呟いた。

 芙美は感心しながら

「行き付いちゃったのね」

 と納得した。

「でも多分、私が突き止めたとは確信してないと思う。色々嗅ぎまわってたのはうっすら気づいているようだから、尋問するために探してたんだと思う」

「ふえぇ」

「うわぁ……」

 芙美とトミヤは嫌そうに声をあげた。

「瞬ってば、何者なの?」

 芙美が怪訝そうに聞く。彼女の印象は『探究心旺盛な活発な女の子』だったが、今この瞬間、印象が大きく変わり、『この人は只者ではない!』と凄い人に認識された。

 瞬は笑って首を左右に振る。

「ただの女子高生だよ」

 「嘘だー」と芙美が否定すると、

「ほんとだよー。趣味がちょっと変なだけ~」

 瞬はお道化てクスクス笑う。

「それで、誰なんだよ。こんなふざけたことやったの」

 トミヤの催促に、瞬は真面目な顔を作った。気迫を感じてゴクリと喉を鳴らす二人。

「絶対に大きな声を出さない。えーと、念のため、二人とも口を塞いで」

 芙美とトミヤは言われた通り、自分の口を手でふさいだ。それを見て瞬は「よし」と頷き、先程よりも声のトーンを低くする。耳を澄ませないと聞き取れないほどに小さくゆっくりと。

「主犯は恐らく、環境警備課の部長で東地域全般の取締役のガリウォント=ゲマイン」

「ーーー!?」

 二人の目が見開いて、閉じた口から声が強い吐息が漏れた。

「恐らく、今から事情聴取で確認しにくるのはこいつ。なので、来たら二人はあいつに目をつけられないように少し奥の方に居て。何を言われても絶対に反論しない。絡んじゃ駄目だよ」

 シーンと静まり返る。

「え? それマジか?」

 トミヤが小声で確認すると、

「ほんとなの? すごく責任がある職なのに……」

 芙美それに習った。

 瞬は驚いて目を丸くする。

(わあ。すんなり受け入れてくれるなんて予想外の反応。『まさかそんなバカな!』と笑い飛ばすかと思ったのに)

 予想は外れたが悪い気はしない。寧ろ、二人を抱きしめて最高と声を高らかに云いたいくらいだ。

 歓喜を落ち着かせて、瞬は控えめに笑う。

「色々探していたら、芋づる式にそいつが暗躍しているところに行き付いたんだよね」

「なんてやつ」

「女神反逆者だったのね」

 不貞野郎だ。と、トミヤと芙美は難しい表情で腕組みをしながら頻りに頷く。似てる動作だなと思いながら、瞬はもう一度聞いてみた。

「……この話、信じてくれるの?」

「勿論!」

 力強い芙美の答えに対して、

「俺は半信半疑」

 トミヤは慎重さを見せた。

 それもそうだ。出会ってわずか10分。よく半分も信じてくれたもんだと感心する。

「女神反逆者かどうかは不明だけど、自分が犯した罪を他人に着せようとしている」

「え? 誰……」

 芙美の問いかけをトミヤが遮る。

「シッ! 階段の方から足音がする」

 カツンカツンと小さな音が聞こえて、すぐに全員が口を噤んだ。

 足音が階段から降りてくる。通路に降りると足早にこちらに近寄ってくる。3人は鉄格子から離れて部屋の中央へ移動した。

 瞬はポーチからペンを取り出しスイッチを起動させる。画像は取れなくても音声は拾えるかもしれない。


カツン。


カツン。


カツン。



 瞬と芙美が入っている鉄格子の前に、兜をつけた白金の鎧を着た兵士が立ち止まった。黒が強いグリーンの飾り色がある。予想は正しかった。

(さて、肝を据えるしかない。二人の命を守りながら、敵から情報を搾り取れるだけ搾り取って、出し抜く!)

 白金鎧は瞬を見下ろした。

「また会ったなクソガキ」

 だみ声静寂に響く。

「ガリウォント=ゲマイン」

 瞬は静かに敵の名前を呟いた。


明日はお休みです。

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