首謀者の狙い
文字数2900くらい
匠の指示通り、最北端にあるホープへ移動した瞬は先にコンクリートのコテージを調査する。一日前に到着したが、誰かいるかもしれないと用心して中に入るが、誰もいなかった。しかし今尚機械は稼働しておりカンゴウムシの生育が行われているから、頻繁に訪れる人は存在する。
(でもまぁ、殆ど認知されてない場所だから、人が来ないと思いこんでいて、侵入されている事に気づかれていないみたいだけど)
瞬は研究室内に小型の赤外線暗視型防犯カメラ音声録音付きをセットし、入り口にも隠すように備え付ける。更に周囲の草むらにもいくつかこれを隠す。
(沢山借りてきたけど、足りるかなぁ?)
どこで話が始まるか分からない。至る所に仕込みたいが、多すぎるとその分バレてしまう確率が高くなる。大方、重要な話は研究室内だろうと思いつつも、外で話す可能性もあるので油断は出来ない。
(加減が難しい)
結構勘頼りになったが、準備は出来た。瞬は出入り口が映る位置に暗視望遠カメラをセットする。隠し盗聴カメラに気づかれても、顔写真くらいは確保できるように、そして身バレせず逃げられるように結構遠くに構えたので、大丈夫だろう。
(さぁ、これで夜まで暇だな!)
一人用のテントを張って、一息ついて休もうと思った矢先に、カサコソとカンゴウムシが向かってくる。
「もぉ。こっち来ないでよ」
毒づきながら、カンゴウムシが苦手な匂いをテントの入り口に置いてみる。途端にサァーっと蜘蛛の子散らす勢いで逃げていった。
(よしよし。これでのんびりできる)
瞬はゴロゴロしていたが寝落ちしてしまい。気づいたら夕方だった。ノーパソを開いてチェックする。まだ誰も来ていないようだ。ホッとして、今のうちにとお弁当を食べたり、漫画を読んだりして時間を潰した。そうこうしている内に、夕日が沈み、空が黒く染まり始め、星が輝きを増した頃、ホープから誰か出てきた。先に一人が出てきて、小さな懐中電灯の明かりを頼りに慣れた足取りでコンクリートのコテージに入っていく。
暗視望遠カメラで確認したら、研究員パトリック=ビリオートとステン=ホルムだと確認できた。この二人は黒だな。と瞬はシャッターを切る。その後すぐにノーパソを開き、盗聴カメラの映像を確認する。改造カンゴウムシを育成している姿が映っていた。音声を聞くと、どうやらこのカンゴウムシを販売するようで、その取引相手がここに訪れるという話をしている。その際の報酬に胸を躍らせ、ガリウォントの名を度々出し、彼の案に乗って良かったなど話し合っていた。
(ふーむ)
瞬が話に耳を傾けていると、ホープからまた誰か来たようだ。覗いて確認すると、懐中電灯を手に持ち、コンクリートコテージに歩み寄る白金の鎧が居た。肩の線と兜の飾り色は黒が強いグリーン色。
(おおおおおう。仕事着で来てるよ……。隠す気なし! ……いやこれはもしやバレた際に、実は取り締まるために来ましたを演出するつもりなのか? きっとそうだ)
映像を押さえながら、もう少し待つ。内部に入ると兜だけ脱いで顔を露わにする。間違いなくガリウォントだ。彼が来ると研究員たちから歓迎の声が出される。計画は順調で取引が楽しみという声に同意するガリウォントの声。
(これは十分証拠になるんじゃ?)
そう思って数分後、更にホープから誰かやってきた。黒いローブに身を包んだ人物三人、懐中電灯を片手に急ぎ足でコンクリートコテージにやってくる。映像を納めるものの、顔ははっきりとは分からないかもしれない。中に入るとフードを取るかもしれないので、盗聴カメラに期待しよう。
(これで全員そろったのかな?)
瞬は映像をチェックし始めた。どうやら誰も内部に設置した盗聴カメラには気づいていないようだ。難問一つクリアと瞬はホッと胸をなでおろす。
フードを被っていた人は中に入ると素顔を露わにする。全員ミズナビトで年代は20代だと思われる。女性一人男性二人。彼らはスラムのとある組織の一員と名乗り、カンゴウムシ改造の技術を買い取りたいと申し出ていた。
<このような素晴らしい技術は伝授しなければならないと思い、是非技術を譲っていただきたく>
<高値で買わせて頂くと同時に、貴方達の後ろ盾になりましょう>
<この事実が暴露されても、こちらで身代わりを用意することが出来ます。決して損はさせません>
彼らの言葉に研究員は喜びを露わにして、自分たちの研究結果が評価されたと喜んでいた。ガリウォントも満足そうに頷いて交渉はスムーズに行われた。
(うわぁ……。これはもう言い逃れできないレベルだなー)
それと同時に、ばれたら命無くなるわと再確認して背筋がゾクゾクする。
交渉が済み、解散するまでの一部始終を録画して証拠に納めた。これを匠に渡せば任務完了である。
ファイルは大きいが、即座にデータを転送して匠のパソコンに送る。これで万が一にノーパソを壊さないと行けない場合も大丈夫だ。
(ガリと研究員たちはこのまま夜明けまでここにいるのかなー?)
夜明け前には戻りたいんだけど、そう思いつつ画面を眺めていると、ふと研究員がガリウォントに質問した。
<いやぁ。最初にカンゴウムシを改造してくれって脅された時には何事かと思いましたけど、こうやってお金になるならやってて良かったって思います>
<そうですよ。最初からこの取引が目的だったんですか?>
<そんなわけない。本来の目的は、あいつに改造の罪と女神殺害未遂の罪を擦り付けて、死刑級の犯罪者にするためだ>
<ははは、それは怖い。いったい誰を狙っているんですか?>
<西担当の同じ役職の奴だ>
研究者たちが固まった。同時に瞬も固まった。
<え? まさかそれって………………彼、ですか? その、シフォンさん?>
<だとしたらどうする? 今更止めると言ったらここで容赦なく切り殺すが?>
<い、いえ。大金を目の前にして死ねません。ですけど、彼が何かしたんですか? そんなに怨恨を持っているなんて>
<何かしただと? あいつの存在自体が害だろうが!>
ドキッパリと言い切ったガリウォントに、研究員二人は口を閉ざした。彼らはその人物に怨恨はなく、寧ろ好感度が高いが、ガリウォントを止める事はしなかった。その代りに
<では、彼に疑いがかかるよう、こっちでも協力します>
この一言で話は終わった。
「…………」
瞬はずっと画面を睨んでいた。思わず親指の爪を噛むほどイラついていた。
(ふぅん。あいつアルを狙ってたんだ。良い度胸じゃん。絶対に計画を潰す)
思わぬ収穫を得て、瞬は目が座った。陽が昇る前にコテージから出た彼らをまた写真に収めて、その後一時間ほど様子を見てからコテージに侵入し、盗聴カメラを回収して回る。その後、最後のデータを転送し終えたタイミングで匠からメールがあり、途中のバス停付近まで迎えに来てくれることになった。
朝霧が立ち込める森を歩いて降りる。スッキリとした清々しい空気だったが、瞬の心はドロドロとした溶岩のように怒りに満ちていた。
「なにがあったんだ?」
指定されたバス停で待っていただけで不穏な気配を感じとったか、匠が吃驚してすぐに声をかけてきた。
「あのさぁ」
話を聞いて瞬の怒りに納得する匠。
「それは徹底的に潰さないとな!」
「少し休んだら、ゲマインの行動を追ってみるわ。あいつ絶対に許さない」
「意気込みすぎて尻尾だすなよ」
「わかってる。虎視眈々と狙い喉元一気に噛み切っやるわ」
瞬はギラギラした目を窓の外へ向けた。
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