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水面下ならば潜ろうか  作者: 森羅秋
瞬とカンゴウムシ事件と夏休み
27/56

実験施設

文字数1500くらい


「たのもーーー!」

 バァンと派手な音を立てつつ勢いよくドアを開く匠。音と勢いで驚かせようとしたらしい。薄暗い室内の中に、ポコポコいう水音と、ヴーンという機械音と、カサコソと動く籠の中に入った数体のカンゴウムシがいた。

「誰もいないな」

「誰もいないね」

 匠と瞬は中へ入った。ドアの傍にあるスイッチをつけると電気がつく。

「わぁ、証拠の山ですな」

 瞬はきょろきょろと見渡して内部を確認した。デスクの上に複数の精密機械が置かれ、改造虫の標本および育成がされている。棚がグルリを囲んでいて、色々な薬品が並べられていた。一つ一つ棚を調べてファイルから書類を取り出す瞬は、計画順路、ムシの改造記録、実名入りの研究員の実験日記を発見する。

(迂闊だなぁ……)

 こちらは助かるけど、と書類を押さえる。

 匠はパソコンを起動して、実験結果やデータをまるっコピーしてから、あろうことか大元のデータを消去し始めた。瞬はひょっこり顔を出して片っ端からパソコンを壊している匠の声をかける。

「消していいの?」

「いいのいいの、物証おさえたし、こんなデータ無いほうがいいからな」

 ほくほく顔の二人は証拠品を回収して建物から出る。一度では運び切れ適ったので三回に分けて往復する。一通り車に詰み終わると、帰宅するために助手席に乗り込んだ瞬は、匠に視線を向ける。

「じゃぁ、あとはこの証拠品を整理してアルに渡せばいいね。匠もどこかに渡すんでしょ?」

「ああ。俺の分までやってくれて助かったぞ」

「どういたしまして」

 同じものをまるっと渡すことになるだろうなぁと思いつつ、瞬は大あくびをした。完徹して山登りから荷物運び、疲労がピークを越えてしまって眠気に抗えなくなってきた。

「寝てていいぞ。自宅まで送ってやる」

「じゃぁよろしく」

 そう言いながら目を瞑ろうとして、カッと目を開ける。

「あ! ついでにこの辺の改造カンゴウムシを数体回収していい!? ライニディーネーが有効かどうか確かめなきゃ!」

 キィィと車を急停止する匠。林道なので急停止でも特に問題はないが、瞬は突然の急停止に心臓が飛び出るかと思った。

「なんだって?」

 引きつったような笑顔を浮かべた匠が瞬を見ろした。瞬はハッと気づいてしまったと言わんばかりに口を押えたが、出てしまったものは仕方がない。誤魔化すことはせず正直に話した。

「あのね。ええと、その、うん、匠なら大丈夫だね! 女神ミナ様がね、改造虫に有効かどうか確かめるようにってライニディーネーを授けてくれたの。だから実験しないと!」

「はぁ!?」

 なんだそりゃ!? と言わんばかりの相槌だったが、匠はすぐに額を押さえ「うーん」と呻く。

「瞬、その件を最初から話してもらえるか? 何故女神様の力を預かっているんだ?」

 女神とのやりとりを知らない匠からすると、青天霹靂の展開である。瞬は女神との出会いと依頼を頼まれたことと、ライニディーネーを預かった経緯を話した。匠は更に眉間に深い皺を寄せて腕を組む。予想外のクライアント発覚に様々な思考が巡っているのだろう。そうしてため息を吐いて力を抜いた。

「はぁー。なんつーことに。まぁいいか。瞬、俺が確保している新種の虫で試すといい。今日その水持ってこい、実験に付き合ってやる」

「え! ほんと! ありがとー!」

「そしてさっさとお役御免してこい」

「わぁ、不機嫌だね。そんなにマズイ?」

 匠は再度ため息を吐いた。眉間に皺が寄っているので自分でそれを伸ばしている。

「女神様から直接お願いされたなんて知れたら、方々から嫉妬や怨念を喰らうからな。十分マズイ」

 そこまで深く考えなかったといえず、「うん、そうだと思った」と言葉を濁す。

「でも引き受けたなら仕方ないな。やり切るぞ」

「うぃーっす!」

「だから今は寝てろ」

「うん。安全運転よろしくー…………」

 スヤァと眠りについた瞬。二時間後に瞬の家の近くに到着するまで爆睡していた。



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