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水面下ならば潜ろうか  作者: 森羅秋
瞬とカンゴウムシ事件と夏休み
11/56

それは人為的

文字数1600くらい

 

 数日後、結果が出たとアルから電話がかかり瞬はアクアソフィーへ出向いた。そこでアルの口から衝撃的な事実を聞かされる。

「この新種は自然発生じゃない。改造されたモノらしい」

「改造!?」

 今回瞬が発見したカンゴウムシは、自然にできた物にしては生物として不可解な部分が多く発見され、今、研究陣が論議をかもしだしているが、今のところの説は―――

「違う個体同士を無理やりくっつけた、いわゆるキメラってこと?」

 アルは首を上下に動かした。

「ああ。おそらく胚の段階で手を加えられた人為的なカンゴウムシだろうと。どれも従来よりも多く卵を持っていることも厄介だが、もっと厄介なのは発見されたカンゴウムシ全て毒をもつ種類だったことだ。例えば、シュガーは毒を持っていないのに、瞬が見つけてきたシュガーの、尾の形が二つに別れているヤツ」

 ムカデ型シュガー。ムカデの体をベースに細かな足を太くさせお尻の部分にサソリのような針があるもので、毒素は殆どないカンゴウムシだ。

「その一つに神経毒が発見されてーーーーって、人の話聞けよ」

 話半分で席を立つ瞬にアルは口を尖らせた。これから詳しく説明しようというのだ、腰を据えて聞いてもらいたい。

「ごめん。だけど、もう少し調査場所を広げてみるから、その続きはまた今度にして。今日はもう帰る」

 瞬も衝撃を受けていると判断したアルは「ふぅ~」と息を吐く。

「分かったよ瞬」

 やれやれと言いながら笑顔で立ち上がった。

「もう少し詳しく調べてみてくれ。こっちももっと詳しく解剖をするよう伝える」

「うん、頑張ってね。私も少しでも多くのサンプルを捕まえてくるね」

「頼むよ」

 毒に気をつけるようにと念を押すと、瞬は苦笑を浮かべた。

「分かったってば。いつも気をつけてる。じゃ、またね」

 何事もなかったように足早にこの場を後にしたのだが、瞬の頭の中は不安でいっぱいだった。

(人があまり出入りしない林や森を中心に調査してみよう。万が一でも、もし、全地域に広がっていたら、とんでもない事になってしまう)

 カンゴウムシの平均繁殖スピードは卵から成虫まで約三週間だ。一度の産卵は50~150個程度。多種多様の種類なゆえ産卵に波があるものの、ほとんど外敵がいないため自然淘汰はされにくく必ず人の手で駆除しなければならない。

 ただでさえ厄介な虫なのに、それが人為的に繁殖能力をあげられているとなると、今この時点でもネズミ算式に増え続けていることになる。瞬は思わず頭を抱えた。

(うーん、定期的にカンゴウムシは調査していたのに。今までそんな異変なんてなかった)

 彼女はカンゴウムシに興味があり、定期的に島の各地で種類や数を調査していた。それなのに、ついこの前まで気づかなかった。

(ってことは、本当に、夏に入る前の六月くらいに、なにかあったんだ)

 五月の最終日で調査したのが最後である。その後は別の用件でうろうろしていたので、しばらく調査は行って居なかった。

(嫌な予感しまくりじゃん)

 嫌な予感ほどよく的中するものだ。一週間ほど学校に行くふりをしてサボったり、早引きしたり時間を作って島のあちこちの森を調査してみたが、瞬が捕獲したカンゴウムシのほとんどが改良されたものだった。

 おまけに元のより凶悪になっているカンゴウムシばかりで、瞬を見つけると逃げるどころか飛びかかってくる始末。

 アルの言葉を裏付けるように、ホープがある地域全てに新種のカンゴウムシが見つかり、ホープがない場所ではあまり見つからなかった。

 範囲的にはホープから半径六キロ未満の森や林、草むらなどの範囲内で新種のカンゴウムシが多く生息し定着しようとしている。日に日に数が増加しているのは間違いなさそうだ。

 新種と思われるカンゴウムシを瓶に詰め込みながら瞬は冷や汗を浮かべる。これは誰かが改造した虫を泉都市に放し、人工的に増やそうとしていると言っても過言ではなさそうだ。

「ったくもう。これ本気でヤバイ事態じゃん」

 夜の草むらの中、瞬は大きなため息を吐いた。



嵐の前の静けさかな。

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