情報も愛情も過剰
夕焼けが差し込み、オレンジ色に染まった放課後の教室。授業が終わった教室に既に人はおらず、グラウンドで部活をしている声だけが響いている。
そこに、二つの人影。
片方は平均的な体格、なんとなくやや暗い印象を与える男子。緊張と不安が顔だけでなく体全体から滲み出ている。落ち着かないのか目線は動き回り、手はじんわりと汗で湿っている。
もう片方はやや小柄な、明るく可愛らしい印象を受ける女子。あまり乗り気じゃないのを隠しきれない様に携帯をチラ見している。特に理由もなくつぅぃったーを開いている。
「あ、あのっ、僕っ、一目見たときから好きで、ずっと見てました!」
「そうなんだ」
「最初はたまに見かけるのが嬉しくて、見つけた時に目で追いかける程度でした。だんだんもっと見ていたいって思うようになって。昼休みにあなたのクラス付近に様子見に行ったり、どこかに行くのを遠くから眺めたり。放課後も見ていたい、と思う様になるまでに大した時間はかかりませんでした。放課後の帰り道を少し離れた位置から見ていて、家の場所も知りました。それからは、朝の登校から放課後の下校まで、ずっと見ていて。授業中の様子も知りたくて何回も授業をサボって見に行って。学校がない日でも君を見られないのが耐えられなくて、休みは家まで行くようになったのはいつだったかな。朝からずっと見て、二階に部屋があることもすぐに知ったよ。出かける時はどこまでもついて行ったし、一日中家にいる時も窓からふと見える君をずっと見てて。着替えてるところは残念だけど見えなかったな。どんな姿の君もとても可愛くて、いつまでも見ていられたんだ。これまでに三回告白されていて、全部断ってるのも見てたんだ。僕がいたから付き合うことはなかったんだよね?安心して。告白した奴らにはちゃんと制裁を加えておいたから。きっと二度と君に近づこうと思わないだろうし、途中からは告白自体させないようにしたから。ずっと僕が守ってたんだよ。いつまでも僕が守ってあげるから、ずっと一緒にいよう?君はただそこにいるだけで何もしなくていいんだ。隣にいてくれるだけでそれは素晴らしい世界だから。運動は得意じゃなかったけど、君を守るためにしっかりと体力をつけたし、いくつも護身術を覚えたんだ。将来のことを考えて勉強だって頑張って、今じゃ学年でも上位だよ。なんだって君の思い通りにしてあげるよ。どんな手を使ってでも、君が一番なんだから。さぁ、僕と付き合おう……ってあれ?」
女子は三行目あたりで「きもっ」と言い残して出ていったことに気が付かず、興奮状態に陥り自分の世界に没頭していた男子。
「まったく、恥ずかしがり屋なんだから。君がどこにいても僕がすぐに行くからね、待ってて」
さて、このままだと犯罪ルートまっしぐら、と思われるだろうがご安心を。女子の両親は警察官で、女子も合気道経験者なのに加えて両親直々に護身術を習っている。
結局、男子はその後すぐに捕まって少年院へ。その精神性から再犯の危険ありとみなされ、少しの少年院生活と長い年数の精神科の通院ということになった。無事真人間になった……かもしれない。
ここにカップルは成立しなかった。するわけがなかった。
こんなはずじゃなかった