残念な恋人、満点な濃い日を
続きました。
「...文乃さん? 何してるのかな...?」
「スンスンッ...スーハー...」
腰に抱きついていた文乃さんの様子がおかしい。心做しか文乃さんの頭が脇腹にくい込んできている。
「ちょ、ちょっと文乃さんっ...んっ♡ わ、脇腹は弱いからっ! な、何してんのほんとっ!」
ぐりぐりと押し込んでくる文乃さんの頭を両手で抑える。力強っ...!!
「えへ、えへへ。麗羽ちゃんの匂い~♡」
「こ、この! 文乃さんってば!!」
カチンと来た私は彼女の頭を抑えていた手をグーにして、彼女のこめかみをぐりぐりする。
「いたっ! 麗羽ちゃんい゛だいよぉ~!!! ご、ごめ゛んなさい~!!!」
そう言って、やっと腰から手を離した文乃さんはそのまま崩れ落ちた。
「馬鹿...今日はもう帰るからねっ」
「あっ! まっ、待って! 送るから!!」
流石は財閥のお嬢様だ、こんな高級車初めて見た。
帰ると言った私に文乃さんは送迎専用の車を出してくれた。もちろん彼女も一緒に乗っている。運転手は専属の使用人らしい。お金持ち怖い。
「麗羽ちゃん、流石にこの時間に女の子一人で出歩くなんて危ないよ? 」
「心配しすぎだよ、私のこと襲う人なんている訳ないよ」
「...麗羽ちゃん、貴方は自分の容姿に無頓着すぎるよ。もっと自分が可愛い女の子ってことを理解して。それと、もっと自分を大切にして...もう私のその、恋人なんだから、えへへ」
「締まらないなぁ...」
かっこいいこと言ってたのに最後の最後で自分の発言にニヤついちゃってる文乃さん。
さっきのもそうだけど、もしかしなくても残念系美少女なのかな...でも、
「あ、ありがとう...」
「ふふ、どういたしまして。そうだ、麗羽ちゃん。そういえばさっき何の話してたの?」
「...知らないっ」
「もう麗羽ちゃんの意地悪っ♡」
「じゃあね、麗羽ちゃん。また連絡するね?」
「うん、送ってくれてありがとう、運転手さんにも伝えておいて。じゃ、じゃあね」
私は車が動き出したのを見届けてから玄関を開けた。
「ただいま~」
ご飯とお風呂を済ませ、自室のベッドにダイブする。...今日はほんとに濃い一日だった。
文乃さんの家にお邪魔して、ベッドに釣られて形だけとはいえ恋人になって、添い寝もした。なんだか変な気分。それは決して嫌な気持ちではなくて、ドキドキとかフワフワとか、そう言った曖昧で温かい気持ち。
「...文乃さん」
彼女の名前を口に出してみる。それだけで恥ずかしいような甘酸っぱいような、言葉にするのが難しい感情。はぁ、私って意外とチョロかったのかも。
ピロンとスマホが鳴った。
また胸が高鳴った。
今日はドキドキしっぱなしだ。でもこんな日も悪くない。
「...おやすみ文乃さん」