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出会い、そして

注1)主人公が記憶を取り戻した時期が、小6の12月から、中1の6月に変更されました


注2)話の前半は現在の主人公視点から、後半以降は過去の主人公視点からとなっています

   

 僕が初めてこより先輩と出会ったのは、中2の春から週一で通い始めた絵画教室だった。



 中一の夏前に記憶を取り戻して以降、僕は二度と前世のような後悔をしないために精一杯自分を磨くことを決意し、その一環として様々な習い事を始めた。

 まずは苦手な泳ぎを克服するために水泳を、次に子供っぽくて拙い字を矯正するために書道を、さらにその次に子供のころは好きだったものの、大人になってから描かなくなってしまった絵を習い始めたのである。


 近所の絵画教室を探したところ、中学生・高校生専門のコースがある教室を見つけ、さっそくそこへ通うことに決めた。

 この教室の先生は美大の元教授で、通っていた中高生専門コースの生徒数は僕を除くと5人ほど。そしてその5人の生徒の中に、そう、僕と同じ中学に通う一つ年上で当時中学3年の先輩、鉄原こより先輩がいたのである。


 実をいうと、僕の方はこの教室で先輩と出会う前から「美人だが男を寄せ付けない“鉄の乙女”」として学校内で有名だった彼女のことは知っていたのだが、まさかこんな形で接点を持つことになろうとは予想もしていなかった。

 そのため、教室に入って最初に彼女を見たとき、思わず「えっ!? 鉄原先輩!?」と思いっきり声に出してしまい、当然学年の違う僕のことなど知らない先輩にひどく怪訝な顔をされ、露骨に引かれてしまったのは苦い思い出である。


 ともかくそういう経緯から、僕たちは週一で顔を合わせることになったのだが、男嫌いであるこより先輩と、男である僕との間に親しげな会話など生まれるはずもなく、それどころか僕の方も、寡黙でどこか近寄りがたい雰囲気のある彼女のことを「すごい美人だけど怖い人」としか認識しておらず、間違っても「学内有数の美女とお近づきになれるチャンス!」みたいに浮かれたことは考えていなかった。


 しかも、ほかの生徒から聞いた話によれば、僕がここに入る以前、先輩をしつこく口説こうとする高校生の生徒がおり、何度先生に注意されても彼女に絡むのをやめなかったため、ついには強制的に教室をやめさせられたという事件があったそうだ。



 ふつう、学校外のコミュニティで偶然同じ学校の生徒同士が出会ったならば、多少なりとも親近感が生まれ、仲が深まるようなことがあってもおかしくないのだが、僕と先輩の場合、むしろお互いそれぞれの理由から距離をとっており、最低限の事務的な会話以外で二人が関わることなど微塵もなく、ましてやこの先お互いが親睦を深める機会など、未来永劫訪れないように思われた。



 そう、あの日までは――




-------------


 僕が絵画教室に通い始めて約3か月が経った7月初旬のある放課後。

 つい2,3日前に例年よりも早い梅雨明けが発表され、この日も終日晴れの予報が出ていたにもかかわらず、夕方からはひどい雨だった。


 その日、僕はちょっとした用事でやや遅くまで学校に残っており、用事が終わって自分の教室を出るころには、すでに廊下や水たまりだらけのグラウンドに人影はなく、閑散とした校舎内に僕の足音だけが響いていた。

 


「……にしても気象庁のやつ、ほんとに仕事する気あるのかこれ。まあ置き傘に加えて折り畳み傘まで常備してるこの僕に死角はなかったんだがな……フフ」


 周囲に人がいないのをいいことに、僕はブツブツと厨二病患者のように気取った独り言をつぶやきながら下駄箱へと向かっていた。

 そして靴を履き替え、盗難防止のため下駄箱の掃除用具入れの裏に隠しておいた置き傘を取り出し、いざ校舎を出ようとしたとき、ふと目の前の生徒玄関に立っている一人の女子生徒の背中が目に入った。



(……げ、鉄原先輩じゃん)


 そう、僕の目の前で雨が打ち付ける外を眺めながら一人立ち尽くしていたのは、数か月前に一応お互い顔見知りになった鉄原先輩だった。

置かれている状況から判断するに、十中八九折り畳みや置き傘等、予報外れの雨に対処する手段を持っておらず、「雨が止むのを辛抱強く待っている」or「ただただ途方に暮れている」かのどちらかだろう



 ……うーん、これはどうしたものか。

 今、折り畳みを入れて2つ傘を持っている僕なら、彼女を今のどうしようもない状態から救い出すことくらいはできる。


 でも正直、まったく親しくない中途半端な知り合いというのは、ある意味一番話しかけづらく、この状況なら何の面識もない人に声をかける方がまだ大分と気楽だ。

 しかも男性が苦手な彼女なら、なおさら僕なんかに声をかけられるのも、ましてや貸しを作られるなんてもってのほかだろう。




(……悪いけどここはスルーさせてもらおう。うん、仕方ない。これもお互いのためだ。)


 しばしの逡巡ののち、結局彼女に声をかけることに怖気づいた僕は、彼女に気付かれないよう、今立っているところから回り込み、一番離れた扉へと向かおうとして踵を返す。

その時だった




――本当にそれでいいのか?




 頭の中で、そんな声が聞こえた気がした。



――『仕方ない』、『お互いのため』そんな言葉で逃げ出すことを正当化するのか?


――単に己の善意が彼女に拒絶される可能性に怯えているだけではないのか?


――『臆病な自分の殻を破って、精一杯自分を磨いて、素敵な女性との出会いを掴んでやる』

 あの夜のあの決意は嘘だったのか?





 …………あぁ、そうだった。

 僕は二度と前世のような後悔を繰り返さないと決めたんだ。あの時、素敵な女性と出会って恋をしたいと、心から願ったんだ。


 ここで見て見ぬふりという選択をすれば、後々罪悪感に苛まれ、確実に後悔することになるだろう。

『やっぱりあの時、自分が勇気を出して声をかけていれば……』と。

 

 何より、自分自身に嘘をつき、目の前で困っている人を、くだらない自己保身のために見捨てて逃げ出すような情けない男に、素敵な女性と結ばれる資格なんてあるはずがないのだ。



 そのことに気付いたとき、もはや僕に迷いはなかった。


 大きく息を吸い、もう一度、先輩が立っている場所へと歩み寄る。そして……




「――鉄原先輩」




 確かな覚悟を持って放たれたその一言が、この時まで赤の他人でしかなかった二人の関係を大きく動かしてゆくことになる。




 今回と次回は、主人公に対するデレ度が現在80%を突破している先輩が、当時まだ1%未満(当社比)だった頃のお話になります。

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