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短編集

婚約破棄された気高き悪役令嬢はピンクでモフモフな生き物を飼い始める。

作者: 米田薫

夜明け前、狭いあばら家で優雅に紅茶を飲む。

私が小さい頃から欠かさず続けている習慣だ。

その後、ゆっくり時間をかけて身だしなみを整える。

「今日はこれね」

3着持っている動きやすいが鮮やかな色のドレスの内から赤いドレスを選び着替えると、自分に気合を入れ、夜明けと同時にあばら家を出て、喫茶店に向かう。

「おはようございます」

喫茶店に着くと店長さんに挨拶をし、店内の清掃をする。

そう。

名門貴族の生まれにして、元皇太子の婚約者である私、フィーナは現在、追放され街の喫茶店で働いているのである。


☆☆☆

ある日、私が働いていると、明らかにこの町に不釣合いな貴族の令嬢がこの店を訪ねてきた。

店長さんはその様子を見ると私に言った。

「フィーナちゃん。奥に入っていていいわよ。」


しかし、私は首を横に振った。

彼女は、恐らく名門貴族の娘でありながらこんな所で働いている私のことを笑いにきたのだろう。

それならば絶対に逃げるわけにはいかない。

私は、たしかに追放され、婚約者の地位は失った。

でも私は間違った事はしていないし、貴族としての誇りは失っていないのだ。

だからこそ私は堂々と優雅に彼女に近づくと話しかけた。

「お客様。ご注文はお決まりですか。」


彼女は私を見ると、醜い笑みを浮かべて言った。

「お姉様。貴族の令嬢ともあろうものがこんなところで働いているなんて落ちたものですわね。」


私は彼女に正しい淑女の笑顔を教えるように表情を作って言った。

「そんな話をしにきたわけではないでしょう。注文を言いなさい。お勧めはブレンドティーよ。ここのブレンドティーは、店長の特製なんだけど香りが豊かで凄く美味しいのよ。」


私の言葉に彼女は気分を害したように立ち上がった。

「追放されてもなお、お姉様はお姉様なのですね。こんな街中でそんな社交界に行くようなドレスを着て喫茶店で働くなど恥ずかしいと思わないのですか。あなたはもう貴族ですらないのですから、いい加減その事実を認めれば良いではないですか」


私は言った。

「淑女がそんなに大きな声を出すものじゃないわよ。」


彼女は私の言葉にさらに何かを言おうとしたが、何も言わず去って言った。

私はカウンターに戻ると店長さんに頭を下げた。

「すみません。お客様の気分を害してしまったようで、ご注文をせずに帰ってしまいました。」


すると店長さんは、優しい目で私に言った。

「フィーナちゃん。もっと私を頼ってくれても良いのよ。私はこれでもフィーナちゃんのことを自分の娘のように思ってるんだから。」


私は笑って言った。

「ありがとうございます。でも大丈夫です。私は、名門貴族の娘フィーナですから。」


そう。

私を助けてくれる人がいなかったわけではない。

突然、皇太子の前に現れた少女に対する指導がいじめと受け止められ、皆から糾弾を受けたときでも、宰相閣下だけは私のことを庇ってくれた。

実家の家族は私に帰ってきても良いと言ってくれた。

でも、駄目だ。

それにすがるほど惨めなものはない。

どんな時にも強く気高く美しく。

そんなことを強く望んだ私は、この町で独りで貴族としての誇りを胸に生きて行くことを選んだのである。

☆☆☆

そんなことのあった日の帰り道。

私がいつものあばら家に戻ると、家の前に生き物が座っていた。

生き物はピンク色でふわふわして、視線の定まらない淀んだ目をしていた。

私がピンク色の生き物に近づくと、ピンク色の生き物は私の方を向いて鳴き出した。

「きゅる。きゅる。」

可愛い!!!!!!!!!!

私は一瞬、そのピンク色の生き物のあまりの可愛さに冷静さを失った。

しかし、すぐに冷静になって言った。

「あなた。家はどこなの?どうしてここにいるの?」

「きゅる。きゅる。」

当然、意思疎通が取れるはずもなく、ただ可愛く鳴くだけである。


「困ったわね。憲兵の方に来ていただこうかしら。」

「ブル!ブル!」

私がそう言うとピンク色の生き物は焦ったように首を振った。


確かに今日はもう遅い。

何かをするにしても明日の方が良いだろう。

私は、そのピンク色の生き物を手で抱きかかえると、家の鍵を空けて中に入った。


「きゅる♪きゅる♪」

ピンク色の生き物は私に抱きかかえられたことが嬉しいようで楽しそうに鳴いていた。


私はピンク色の生き物を中に通すと、家にあった余りの布で寝床を作り、その上にピンク色の生き物を乗せた。

「きゅる?きゅる?」

ピンク色の生き物は不思議そうに辺りを見回していたが、そこが心地よいと分かると、疲れたのだろう。

すぐに眠りに付いた。


「全く。随分、気持ち良さそうに寝るのね」

私もその様子を見て眠くなってしまい、そのまま眠りについたのだった。


☆☆☆

翌朝。

夜明け前に私が目を覚ますと、ピンク色の生き物は未だに眠っていた。

私は起こさないように気をつけながら紅茶を飲み、支度を始めた。

私が今日のドレスを選び様子を見るとピンク色の生き物はもういなかった。

「どこに行ったのかしら?」

私は疑問に思ったが、出勤が近づいているので、そのまま家を出た。

そして、喫茶店に着いて、荷物をあけると、中からピンク色の生き物が出てきた。


「きゅる。きゅる。」

ピンク色の生き物は得意げにこちらを見ていた。

多分、ばれずに荷物に紛れ込んだことを褒めて欲しいのだろう。

絶対に褒めないけど。


「それにしてもあなたって凄く軽いのね。まさかあなたが入っているなんて気付かなかったわ。」


私がこのピンク色の生き物をどうしたらいいか悩んでいると、ピンク色の生き物気付いた店長さんが話しかけてきた。

「あら。フィーナちゃん。随分、可愛いピンク色の生き物を連れてるじゃない?フィーナちゃんのペット?」


私は言った。

「いいえ。気付いたら家の前に居ただけです。」


私がそういうと店長さんは私の顔をじっと見た。

そして笑顔で言った。

「でも。昨日よりもずっと良い顔をしてるわ。きっとこの子といて楽しいのね。」


「きゅる♪きゅる♪」

私の言葉にピンク色の生き物は嬉しそうに鳴いた。


「あら。この子は人の言葉が分かるの?」


店長さんが疑問に思って尋ねると、ピンク色の生き物は焦ったように首を振った。

「ブル。ブル。」


私は言った。

「さあ。でもこの感じですから分かっているかもしれませんね」


すると店長さんがピンク色の生き物を撫でながら言った。

「それにしても可愛いわねー。名前はなんていうの?」


私は言った。

「さあ。私が飼っているわけではないので。」


「きゅる。きゅる。きゅる。」

私の言葉にピンク色の生き物は少し怒ったように鳴いた。


「ほら。怒ってるじゃない。この子はフィーナちゃんと一緒に暮らしたいみたいよ。」


「私がこの子を飼う責任が負えるとは。」


「きゅる・・・。きゅる・・・。」

私の言葉にピンク色の生き物は急にいじらしくなって私の方を見つめた。


店長さんも言った。

「飼えるわよ。自分を卑下するようなことを言うなんていつものフィーナちゃんらしくないわ。」


私はピンク色の生き物をじっと見つめた。

ピンク色の生き物も淀んだ目でこっちをじっと見つめてきた。

私はため息をついて言った。

「分かったわ。飼います。今日からあなたは、フェルナンドよ。」


「きゅるる!!!きゅるる!!!」

ピンク色の生き物は凄く嬉しそうに全身を振るわせた。


その様子を見て店長さんが言った。

「あら可愛い。それで?この子は何を食べるのかしら?」


私は言った。

「さあ。そういえば朝から何も与えていませんでした。フェルナンド。あなたは何を食べるの?」


フェルナンドは私の言葉に凄く悩んだ様子を見せた。

そして、最終的に控えめに、喫茶店の砂糖に近づくと、鳴いた。

「きゅる。きゅる」


私はフェルナンドを撫でながら言った。

「あら。砂糖が好きなのね。可愛らしい。」


「きゅる♪きゅる♪」

フェルナンドも嬉しそうに鳴いた。


その後もフェルナンドは私の側にぴったりくっついて仕事が終わるまで離れなかったのだった。


☆☆☆

ある朝。

私は今までに感じた事のない安心感とともに目覚めた。

既に部屋には太陽が差し込んでいた。

「嘘。この私が寝坊するなんて」


私が驚き、辺りを見回すと、妙に身体がべとべとしている事に気付いた。

耳を澄ますと寝息が聞こえる。

私は、そっと布団をめくると中にフェルナンドが眠っていた。


私がそれを見て言った。

「はー。昨日の夜に勝手に布団に忍び込んできたのね。」


本来なら婚前に同衾するなど絶対に許されないことだ。

私は母親とすら一緒に寝たことがない。

だからこそ、皇太子に見初められながら、他の殿方と手をつないでいた彼女を注意したのだけれども・・・。


「私も彼女に文句が言えた立場じゃないわね。結婚した殿方以外の者と一緒の布団で眠って、あまつさえ、ぬくもりに安心して寝坊してしまうなんて。」


「それにしてもどうしてこんなにべとべとしているのかしら」

私は文句を言いながら身だしなみを整えたのだった。


☆☆☆

フェルナンドの存在は私の生活に大きな変化をもたらした。

このピンク色の生き物は私がどこに行くにも着いてきては、「きゅる。きゅる。」鳴いて私に甘えた。

以前は、私の事を没落した貴族であると笑っていた街の人々も、私のことを変なピンク色の生き物を飼主として認識し始めたらしく、「お嬢ちゃん。この子は随分可愛いけど、一体何の生き物何だい?」などと私に、話しかけてきてくれるようになった。

普段の生活もいい意味で余裕がなくなり、昔のことを思い出して落ち込んだりと言ったような後ろ向きな考えに捕らわれる事も少なくなってきていた。


そんなある日、喫茶店で働いていると、珍しく私の後をフェルナンドが付いてきていないことに気付いた。

私が厨房の方にフェルナンドを探しに行くとフェルナンドは、厨房の隅で眠っていた。

私はフェルナンドを撫でながら言った。

「全く。こんな所で寝るなんて」


すると店長さんが首をかしげた。

「おかしいわねえ」


「どうしたんですか?」


「フェルナンドちゃんが寝ている場所には元々花瓶があったはずなんだけど、どこに行ったのかしら。」


しかし、それ以降も、花瓶がなくなり、その場所にフェルナンドが寝ているという事件が何度も起きた。


そんな中、私はさらに怪しい様子を目撃した。

フェルナンドが食べた砂糖を地面に吐き捨てたのである。

「ペッ!!」


私はその様子を見てフェルナンドに言った。

「フェルナンド。何て行儀の悪い事をしているの」


するとフェルナンドはバツが悪そうに鳴いた。

「きゅる。きゅる。」


私は食べ物を大切にしないことは絶対にいけないことだと思っている。

だから砂糖を吐き捨てるフェルナンドを見つけると何度も注意をした。

しかし、フェルナンドは吐き捨てる事をやめず、私がみていないところでこっそりとそのような行為を繰り返していた。


極めつけはコインである。

ある日、私はフェルナンドの寝床から金貨を見つけた。

庶民の1年分の収入に匹敵する大金である。

我慢の限界に達した私はフェルナンドに言った。

「フェルナンド。どうしてこういう悪さばかりするの。今までのことはまだ良いけど、今回のことは完全に犯罪よ。どこから盗んできたかは分からないけれど、私が叱ってそれで終わりとは行かないわよ。」


私の言葉にフェルナンドは驚いた様子で私を見た。

そして自らが被害者であるかの様に鳴いた。

「きゅっ・・・。きゅるる・・・。きゅるるるる・・・。」


私は言った。

「そんなんじゃごまかされないわよ。あなたは私の恥だわ。ここから出て行きなさい。」


私の言葉にフェルナンドは涙を浮かべた。

私はその様子を見て言いすぎてしまったかとも思ったが、今更前言をひっくり返すことは出来なかった。

「きゅる・・・。きゅる・・・。」

フェルナンドは何度もこちらを振り返りながら窓から出て行った。


「なんで私はいつもこんな感じになってしまうんだろう。」

フェルナンドが誤りを犯したのは事実だ。

でも、もっと上手いやり方はなかったのだろうか。

フェルナンドに寄り添い、共に話し合う方法によっても問題を解決することは出来たのではないか。

私は強い自己嫌悪に襲われた。

あの時もそうだ。

皇太子殿下に急に近づいてきた転入生の少女。

少し変わり者で世間知らずな彼女を私は憎からず思っていた。

だから、色々教えたし、色々、注意した。

しかし、距離はどんどん開いていき、遂に私は追放されるに至った。


「私は私が嫌い。」

私は他人に聞こえないように静かに涙を流したのだった。

☆☆☆

次の日、私は金貨を憲兵に届けるために城下町へと向かっていた。

するとそこで出会ってしまったのである。

5,6人の護衛を連れて歩く彼女に。


私は彼女を見つけると顔をそらし、立ち去ろうとした。

しかし、すぐに走って追いかけてきた彼女に私は腕を捕まれた。

彼女は私を見るとにらみつけて言った。

「何でまだこんな所に居るのよ。あなたはとっくに追放されたはずでしょ。」


私は、憲兵を引き連れ睨みつけてくる彼女に恐怖を感じた。

しかし、自分に気合を入れ、堂々と言った。

「追放なんか関係ないわ。私はフィーナ。名門貴族の娘にして皇太子の元婚約者よ」


私の言葉は彼女の怒りに触れたのだろう。

彼女は私を平手でぶつと倒れこんだ私を睨みつけた。

「不愉快だわ。いつもあなたはそう。あんな目に合わせてやったのに未だに懲りずに、そうやって私の前に現れる。そういう所も本当に倉持にそっくりね」


クラモチというのは彼女がよく口にする名前で、私にはよく分からないが、過去に彼女と因縁のある人物らしい。

私は言った。

「いつも言っているでしょう。私はフィーナよ。クラモチとは違うわ。私はあなたに何もしていないじゃない。確かに言葉がきついこともあったけど、それは何度も謝ったでしょ」


私の言葉はさらに彼女の琴線に触れてしまったようだった。

彼女は醜い笑みを浮かべて言った。

「そうやってすぐ被害者ずらするところも倉持にそっくりだわ。健君にしても宰相閣下にしてもどうしてこういう女が好きなのかしら。」


私は思わず強い口調で言い返した。

「クラモチは知らないし、宰相閣下も関係ないわ。私は私よ。独りで生きて行くの。だからもう私に干渉しないで。宮廷で楽しく暮らせばいいじゃない。」


私の言葉に少女は静かに言った。

「ふーん。そっか。もうただの平民っていう事ね。」


私は彼女に恐怖を感じながら言った。

「そうよ。それがどうしたのよ」


「なら。少しくらい酷い事してもばれないわよね」

少女はそう言うと、少女を護衛している憲兵の方を見た。


憲兵達は少し躊躇った様子を見せたものの覚悟を決めたのか私に近づいてきた。

私は恐怖で立ちすくみながら、必死に声を出して叫んだ。

「あなた達。私がフィーナだと知って、この様な無礼を働こうというの。」


憲兵達は私の言葉に一瞬ひるんだが、背後から睨みつける少女に気付き、再び私に近づいてきた。


「シャー。シャー。」

そんな時だった。

ピンク色の生き物が、私と憲兵の間に割り込むと、凄い剣幕で憲兵に鳴いた。


憲兵は驚いて後ずさりをした。

私は言った。

「フェルナンド。どうして来たのよ」


「シャー。シャー」

しかし、フェルナンドは私の方を見ずに憲兵をにらみつけた。


私は言った。

「フェルナンド。私はあなたにあんな酷いことを言ったのよ。気にせず逃げなさい。あなたまでが傷つくことはないわ。」


私の言葉に少女は吐き捨てるように言った。

「不愉快だわ。その変な生き物もやりなさい。武器を使えばさすがに倒せるでしょう。」


少女の言葉に憲兵達は驚いた表情を見せたが、従わざる得ないと考えたようで刀を抜いた。

しかし、フェルナンドは私を守るようにじっと憲兵達を睨みつけていた。


私は叫んだ。

「どうして?どうして逃げないのよ。こんな私のどこに守る価値があるっていうの?」


「がるがるがる」

フェルナンドは私の言葉を強く否定するかのように大きくほえた。

私は気付くと涙を流していた。


そして、フェルナンドは憲兵達を淀んだ目で見つめると鳴いた。

「がー。」

その音で、憲兵達の持っていた刀は粉々に砕けた。


「がるー。」

フェルナンドは、なおも憲兵達をにらみつけた。


憲兵達はフェルナンドに恐れおののき、少女を見捨てて逃げていった。

少女はその様子を驚いた表情で見ていたが、すぐに冷静さを取り戻して言った。

「これは反逆罪よ。皇太子様に言ってあなたたちを逮捕させるわ。」


私はなおも、威嚇を続けるフェルナンドを抱きしめて言った。

「それなら私は逃げなくてはね。私が居なくなったらこの子を世話する人間がいなくなるんだから」


それは何てことない強がりだったが、なぜか私には、この言葉が私を今まで捕らえていた鎖を解いてくれるもののように感じた。


すると、後ろから声が掛かった。

「逃げる必要はありません。悪いのは憲兵達だ。フィーナ様達は自分の身を守っただけですから。」


少女は驚いた様子で言った。

「宰相閣下。なぜこんなところに」


宰相閣下は冷たい目で少女を見ると言った。

「すみません。すぐに立ち去っていただけますか。これでも冷静さを保つのに必死なんです。あと、この事は皇太子殿下にも報告させていただきます。」


少女は宰相閣下の剣幕に驚いたのか走り去って言った。


私はすべてが終わったのを感じ安心して地面に座り込んだ。

するとフェルナンドが私の手から抜け出し、持ってきたであろう石と砂糖を見た。

「何か言いたい事があるの?」


私が首を傾げると、フェルナンドは砂糖の前に大きく×印を書いた。

そして石を美味しそうに食べ始めた。

私はその様子を見て思わず笑ってしまった。

「あなたって、本当は石を食べるのね。それで砂糖は嫌いなの。じゃあどうして嘘なんか付いたのよ。」


フェルナンドは恥ずかしそうに鳴いた。

「きゅる。きゅる。」


それで私にはなぜかフェルナンドの言いたい事が伝わった。

「私に可愛いって言われたかったの。馬鹿ねー。」


そしてフェルナンドは食べ終わると口から金貨を吐き出した。

私は言った。

「あなたは石を食べて金貨を生み出す生き物だったのね。盗んだのだと勘違いしていたはごめんなさい。」


私の言葉に誤解が解けて嬉しかったのか、フェルナンドは鳴きながら私の胸に飛び込んできた。

「きゅる。きゅる。」


そのまま私の顔をなめるフェルナンドに私は言った。

「こら。なめるのはやめなさい。あなたと寝ると朝べたべたしてることがあるのはこのせいね。」


「きゅる♪きゅる♪」

私は本気で怒っていないことはフェルナンドにも伝わっているのかフェルナンドは嬉しそうに鳴いた。


私はそんなフェルナンドをぎゅっと抱きしめて言った。

「もう離さないわよ。」


そんな私達を見て宰相閣下が笑って言った。

「あなたは、以前危険な程に気高く美しい女性でした。いつ折れてしまうか不安になる程に。でも今日の様子を見て安心しました。貴方ほどの捻くれ者だと、案外そういう生き物の方が素直に甘えられるのかも知れませんね。」


私は宰相閣下をじっと見て言った。

「あなたっていつもそういうことを仰るわよね。温厚そうに見えて口も悪いし。苦手だわ。」


「そんな冷たいことを言わないでくださいよ。これでもずっとあなたのことを探してたんですから。失われたあなたの名誉もこれでひと段落しそうですし是非、一度あなたの喫茶店でお話などしたいものです」

宰相閣下はそう言うと私に手を差し伸べた。


私もその手を握ろうとした。

しかし、握る前にフェルナンドが宰相閣下の手を弾いて鳴いた。

「きゅる。きゅる。きゅる。」


私はその様子を見て笑って言った。

「すみません。好きな女の子のピンチに間に合わないような男には、私は任せられないとフェルナンドが申しているようです。」


宰相閣下も笑って言った。

「これは痛いところを突かれました。まずは、フィーナ様の前にフェルナンド君をなんとかする策を考えなければならないようですね。」


そして私達はしばらく笑い合ったのだった。

☆☆☆

フィーナはその後名誉を回復し、皇太子殿下から復縁を望まれるも、拒否して宰相閣下と結婚した。

フィーナは、宰相閣下とこの国を陰ながら支え続けた。

その傍らには、常にピンク色の生き物が居り、フィーナは、ピンクの姫君として国民から親しまれたのだった。

                                   完

   


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