表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/10

夏祭り

 夜の道を、浴衣を着て私は歩いていた。黒地に赤色と金色の金魚が描かれた浴衣。どんな浴衣が良いか分からなかったので、お母さんの浴衣を借りた。

 今日は地元の夏祭り。

 いつもなら、絶対に行かないが、源さんから誘われて行くことにした。

 待ち合わせ場所は、近くにある神社。

 到着すると、他にも待ち合わせに利用しているのか、浴衣を着た人がちらほらといた。

 源さんは……いた。あっちも気づいたようだ。


「先輩」


 源さんも浴衣だった。下地はピンク、アサガオが描かれていて、明るい印象を受ける。また、長い髪は一房にまとめられていて、大きな白いリボンで留められていた。子供っぽい感じの浴衣だが、源さんの可愛らしさとマッチして似合っていた。


「先輩の浴衣姿……いつもより、エロいですね!」

「あ、ありがと……源さんも可愛いよ」

「ありがとうございます……でも、これ中一の時に買ったもので、それ以降あまり成長してないんですよね……」


 苦笑いをする源さん。普通の高校生と比べれば発育は悪い方だが、今の源さんは十分可愛いと思う。


「では、行きましょうか」


 そう言って、源さんはさりげなく私の手を握る。


「手……」

「人混みですので、迷子防止のためです!」

「……わかった」


 それなら、仕方がない。

 私が握り返すと、源さんはニッコリと笑った。

 他愛無い話をしながら歩いてると、浴衣を着ている人たちが増えてきた。祭りの賑やかな音も聞こえてくる。


「さあ、着きました」

「……っ!」


 私が夏祭りに最後に来たのは子供の頃だった。確か、小学低学年で、お母さんに連れられて来た。りんご飴や綿飴、金魚すくいなど、食べつくし遊びまわり、はしゃぎすぎて転んでひざを擦りむいた。お母さんが泣く私を背負いながら、家に帰ったことを覚えていた。終わりは残念だったが、とても楽しい思い出。

 そして、久々の夏祭りの雰囲気に私は心を躍らせた。

 暗闇を照らす、提灯の明かり。所狭しと並ぶ屋台の数々。夏祭りに来た人達は楽しそうに笑いながら、夏祭りを楽しんでいる。その光景全てがキラキラと輝いていた。


「先輩? ぼーとしてどうしたんですか?」

「……あ! ごめん、ちょっと感動しちゃって」

「……ふふ、連れてきてよかったです。でも、これで満足しないでくださいね? 今からいっぱい遊ぶんですから!」


 源さんは私の手を引くと、歩き出した。私は人混みにちょっと躊躇ったが、源さんは普通に歩いていく。


「先輩! 綿飴ありますよ!」


 おじさんがタオルを頭に巻きながら、綿飴を作っていた。値段は一つ五百円。高いな、これがお祭り価格かぁ。


「やっぱり、高いですね……先輩、一つ買って分けて食べましょう! おじさん、綿飴一つください!」

「はいよ」


 源さんは綿飴を受け取ると、お金を払う。


「あ、源さん、お金……」

「気にしないでください」

「でも……」


 年上として、年下におごってもらうのは面子にかかわる。


「わかりました。でしたら、次は先輩が奢ってください」

「うん、それなら」


 私は納得し、綿飴を見つめた。一緒に食べるのだから、手で千切って食べるのかな。


「はい、あーん」

「ん」


 源さんが私の唇に綿飴を押し付けた。流されるままそのまま、パクリと一口。


「甘い」


 ふんわりとしてすぐに溶けてしまう。

 源さんもパクリと食べると、「んー」と幸せそうな笑みを浮かべる。


「次はチョコバナナにしましょう! あ、焼きそばもタコ焼きも美味しそうですね! あっちにはりんご飴も」


 夏祭りというか食べ歩きである。それから、何店舗か食べ歩き、お腹が膨れてきた。


「射的やりましょう!」

「射的か……」


 銃を取り、眺める。子供の頃、やったな……でも、全然取れないんだよな……。


「お嬢ちゃん。只物じゃねえな……そんな若いのにどんな修羅場を超えて来たんだ?」


 サングラスをかけた坊主頭のおっさん店主が、額から汗を垂らしそんなことを聞いてきた。


「いえ、普通の女子高生です」

「いや、でも」

「普通の女子高生です」

「詮索するなってことか。ふっ」


 やれやれと肩を竦め、『わかったよ』と雰囲気を出しているが、ただのおっさんの勘違いである。もしかしたら、ちょっと痛い人かもしれない。


「先輩! 先輩! シュシュ狙いませんか? 色違いですけど二人でペアルックなんてどうですか?」

「……良いよ」


 狙うのは水玉模様のシュシュ。赤色と青色の二種類があり、並び合っていた。


「では、私が赤い方を狙います! 先輩は青い方を」

「了解」


 金を払い、受け取った弾は五発。銃を構え狙いを定める。

 当たれ、と引き金を引くが、狙いは外れた。

 もう一回、もう一回とやっていくが、当たらずに残り一発になってしまう。

 案外簡単そうに見えて、難しいや。


「うぅ……取れなかったですっ」


 源さんが隣で項垂れていた。ペアルックは出来ないけど、せめてシュシュを取って、源さんにプレゼントしよう。そしたら、喜んでくれるはず。

 深呼吸して落ち着く。銃を構えて狙いを定め、引き金を引いた。

 弾はシュシュには当たらず、明後日の方向へ飛んでいった。

 そして、小さなクマのぬいぐるみの頭に命中し、落とした。


「先輩! すごいです!」

「あ、うん……」


 ギュッと抱き付いてくる源さん。偶然当たっただけなんだけど……まあ、いっか。


「嬢ちゃん。景品だ」

「ありがとうございます」


 おじさんからクマのぬいぐるみを受け取る。


「見事なヘッドショットだったぜ」


 と、親指を立てて、ニィと凶悪な笑みを浮かべるおじさん。


「どうも」


 私は苦笑いをする。受け取ったぬいぐるみをしばし見つめた後、源さんの頭に乗せた。


「あげる」

「えっ? でも、先輩……可愛いもの好きですよね?」

「……好きだけど……源さんにプレゼントしたいと思って」


 恥ずかしくなり、顔を赤くする。源さんはぬいぐるみを手に取ると、ニコッと笑った。


「ありがとうございますっ! 一生、大切にしますね!」

「そうしてくれると、嬉しい」


 プレゼントしてよかった……。


「プレゼントのお返しです」


 源さんは私の頬にチュとキスをした。


「っ!?」

「ふふ」


 可愛いと思っていたら、小悪魔な妖艶な笑みを見せる源さん。


「さあ、お祭りを楽しみましょう!」



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ